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深まる絆 38

『瑞樹は、もう寝てしまったのか』 『お兄ちゃん、もう寝ちゃったね』  二人の優しい声が、遠くに聴こえた。  あっ……僕、一瞬寝てしまった? 幼い芽生くんより先に寝てしまうなんて、恥ずかしいな。 (まだ起きています……)  起きようと思ったが、何やら珍しく宗吾さんと芽生くんがしんみりと語り出したので、邪魔しない方がいいと思って寝たふりをした。  すると会話は、あらぬ方向へ進んでいった。 『あ、あのね……ママって……どうしてる?』  その言葉にドキっとした。落ち着け、瑞樹。幼い芽生くんが母親を恋しがるのは当たり前だ。そう必死に心の中で言い聞かせた。  宗吾さんが少し困った口調で、今朝赤ちゃんが生まれたと告げると、芽生くんの返事は、僕の予想を反したものだった。   『ママがまたママになれて、よかったね』  そういう考え方は僕にはないものだったので、ハッとした。  確かにそうだ。新しい命の誕生によって玲子さんは女の子の母親になった。  さらに僕に力を与えてくれる言葉を、芽生くんが紡いでくれた。 『ボクにはおにいちゃんがいるから、さみしくないのって、ママにわるいかなって……』  芽生くんは……僕がいるから寂しくないと言ってくれるの?  男の僕が、芽生くんのパパと暮らすのを許してもらえるだけでも有難いのに、僕が好きだと何度も……何度も…… 『ボクはココにいていいんだね。パパもおにいちゃんもずーっとボクだけのパパとおにいちゃんなんだよね。これって、とびっきりのいいことなんだよ』  とびきりのいいこと? そんな風に捉えてもらえるなんて、僕の存在意義を強く感じられる言葉だった。  人は安らぎや生きる喜びを感じられる時、本当に生きていて良かったと感じるそうだ。それが、まさに今だ。  ずっと孤独で、どこか取り残されたような人生観の中で生きて来た僕に、生きる喜びを感じさせてくれる言葉だった。    宗吾さんも嬉しくて、泣きそうになっているのが伝わってきた。  僕だって泣きそうだ。いや、もう堪え切れないよ。  嬉しくて有難くて、この日常が尊過ぎて…… 「う……っ……」  口元を押さえて嗚咽を漏らしてしまった。すると宗吾さんが優しく僕の背中を撫でてくれた。 「瑞樹……君は愛されている。必要とされているんだ。こんなにも」 「うっ宗吾さん。僕はここにずっといて……いいのですね」 「当り前だ。俺たちさ、皆と同じにしなくていいんだよ」 「はい……」 「大切なのは俺たちが互いを大切な存在と認め合って、愛し合えるかだ。だから瑞樹は瑞樹らしくいればいい。ずっと俺たちの傍にいてくれよ」 「う……ありがとうございます」 「おにいちゃん、なかないで。わらってよ」 「うん」 「おにいちゃん……だっこして」 「うん」  芽生くんに触れたい、抱きしめたい。  僕は起き上がり、芽生くんを包み込んであげた。 「二人が大好きなんです……」  僕と芽生くんを、宗吾さんが大きな手で包み込んでくれた。  あぁ……深まっていく。僕たち3人の想いが重なって、深い愛情という絆で結ばれていく。 「芽生くん、僕はいつも君の傍にいるよ」 「ボクもおにいちゃんのそばにいるよ」 「ありがとう」 「瑞樹……これが人と人との断つことの出来ない繋がり。離れがたい結びつき……つまり『絆』というものなんだな」 「はい!」  こんなにも深く強い絆を結べるなんて……あなたたちと!                           『深まる絆』 了 あとがき(不要な方はスルーで) **** いつも『幸せな存在』を読んで下さってありがとうございます。 1年4カ月ノンストップで連載。 いつもリアクションで、あたたかい応援をありがとうございます。 『深まる絆』は今日でお終いです。 宗吾さん、瑞樹、芽生の3人の絆が、運動会という行事を通して 更に深まったのを感じていただければ、嬉しいです。

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