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深まる絆 37

「芽生そろそろ眠るか」 「うん……もうねむい。パパもおにいちゃんもいっしょにベッドにはいろう」 「そうだな」  俺たちは芽生を挟んで、川の字になった。 「おてて、つないで」 「あぁ」 「うん! 」  芽生と瑞樹の手、俺と芽生の手を重ねて、ギュッと握り合った。  今、俺たちはひとつに繋がっている。家族という絆で結ばれている。  本当は瑞樹と大人の時間をと思ったが、俺も流石に運動会で奮闘し疲れてしまったようだ。それに夕食のビールが効いたのか、かなり眠い。 「ねむい……」 「うん、眠いね」  芽生も瑞樹も大きな欠伸をしていたので、皆、あっという間に眠りに落ちてしまうだろう。 「明日は芽生はお疲れ休みだ。ゆっくり休め」 「うん、おやすみなさい」  やがて、すやすやと寝息が聞こえてきた。なんと一番最初に寝落ちてしまったのは瑞樹だった。 「あれ? おにいちゃん、もう寝ちゃったね」 「あぁ、今日は1日頑張っていたからな」  今日はお母さんや夏樹くんのことも思い出し、感情をかなり使ってしまったからな。ゆっくり休んでくれ。芽生のために今日はありがとうな。  ところが芽生はなかなか寝付けないようだ。  運動会の余韻で興奮しているのか、突然話し出した。芽生と二人きりで語り合う機会もそうないので、これは頑張って眠くなるまで、付き合ってやろう。 「パパ……ぼくね、おにいちゃんがいてくれて、本当にうれしいんだ。あの原っぱでおにいちゃんと出あえてよかったね」 「そうだな。瑞樹は芽生が見つけてきてくれたんだぞ。ありがとうな」 「……パパぁ……あのね……」 「ん? どうした」  芽生は布団の中で言い難そうな様子で、モジモジしている。 「何でも話してみろ。パパ、ちゃんと聞くから」 「あ、あのね……ママって……どうしてる?」 「え? 」  突然そう来るのかと、驚いてしまった。 「ど、どうしたんだ? ママに会いたくなったのか」 「ううん。そうじゃなくて……そろそろ赤ちゃん、やってきたかなぁって」  子供って、どうして突然鋭く突いてくるのか。第六感でもあるのか。  芽生の質問には眠気が覚める程、驚いてしまった。隠すことでないのは理解しているが、今日このタイミングで話すべきなのか分からない。でもやはり聞かれたことには、正直に答えたい。 「あぁそのことだが……実はな……今朝、女の子が産まれたそうだよ」 「え……そっか……そうなんだね」  玲子は今日、女の子の母親になった。 「あのね、ようちえんのおともだちには、いもうとやおとうとがいる子も多いんだよ」 「そうだろうな。今日も赤ちゃん連れ、多かったしな」  弟や妹が生まれて兄や姉になるという経験は、子供にとって大きな出来事だ。もしも実の兄弟だったら、産まれて来るまで、お母さんにお腹を触らせてもらったりして兄弟の誕生を楽しみにする気持ちを育むのだが、俺と玲子の場合はそうじゃない。離婚しているので、父親違いの妹の誕生だ。  芽生にとっても複雑で微妙な存在だろう。実際、美容室で玲子から直接その話を聞いた時、芽生は表面上は喜んで見せたが、その後めっきり話題に出さなかった。  やっぱり心の中で、ずっと気にしていたと思うと、切ないな。 「パパ、ボクね、すこし……ヘンなんだ……」 「話してみろ。何でも聞くぞ」 「みんながね、きょうだいがうまれた時って、おかあさんがとられちゃったようで、さみしくなるっていってたんだけど……」 「うん、そうか」  そうだよなぁ、実の兄弟であっても、下の子の誕生って上の子にとっては試練の始まりだもんな。自分だけの大事なお母さんとの関係を邪魔する存在が現れたと不安な気持ちになって、ぐずったり我が儘になることも多いと、バス停のママさんが話していたのを思い出した。  だから心の中の不安を吐き出すのは子供にとっての一番のストレス発散法だから、とことん付き合ってあげるといいとも。  芽生の場合……どうなんだ? もっと話を聞いてやりたい。 「芽生、心の中のもやもや、話してみろ」 「うん……えっとね。だからボクもみんなとおなじで、ママに赤ちゃんがうまれたら、さみしくなるかなっておもっていたけど、それが……ならなくて」 「そうか、じゃあ……どんな気持ちになったんだ? 」 「……まずはね、ママがまたママになれてよかったなって思ったよ」 「そうか」 「それからね、ボクはずっとここにいていいんだなって、ホッとした」 「当たり前だろう? 」 「ボクね……ここがすきなんだ、パパとおにいちゃんといるのが、すき」 「嬉しいぞ。そう言ってくれて」  こんな風に改めて言ってもらえるのは、父親として嬉しいし、瑞樹との関係もそこまで言ってもらえて、感動した。 「その…ボクにはおにいちゃんがいるから、さみしくないのって、ママにわるいかなって……」 「そんなことない! ママもわかってくれるさ」 「あぁよかったぁ。なんだかボクだけヘンなのかなって」 「芽生ごめんな。小さな芽生にいろんな感情使わせて」 「ううん。ボクはココにいていいんだね。パパもおにいちゃんもずーっとボクだけのパパとおにいちゃんなんだよね。これって、とびっきりのいいことなんだよ」 「芽生……」  俺の目頭がじわじわと熱くなる。  やばい、泣きそうだ。  玲子の事、どうやって伝えていいのか迷っていたのに、芽生の方から切り出してくれるなんて。しかもそんな台詞まで……  芽生……ありがとうな。父親冥利に尽きるよ。 「パパこそ、とびきりのいいことだぞ。芽生といられるのがうれしい」 「う……っ……」  いつの間に起きていたのか、瑞樹の押し殺した嗚咽が聞こえてきた。  瑞樹、君も聞いてくれたか。  芽生……幼いなりに精一杯伝えてくれたよ。  俺たちへの愛を!

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