517 / 1741

恋満ちる 9

「瑞樹がいない所で話すのには、理由があってな……」 「はい。何でも話して下さい。俺を信じて貰えるのなら」 「君は駆け引きなしに瑞樹を守ってくれたな。改めて礼を言うよ、ありがとう」 「そんなの当たり前です。大切な友人が困っていたら、手を差し伸べるのが普通ですよ」  そこまで話して、もしかして葉山には、それが普通ではなかったのか。手を差し伸べてもらえない事があったのか……と察した。  男でも男に狙われるパターンがあるのは理解している。葉山のような綺麗な顔立ちなら、大いにありうる話だ。 「瑞樹も男だ。守られてばかりでは不甲斐ないと思うだろう。だが先日の朝のように、守って、助けてもらうのが、時には必要だと、俺は思っている」 「はい。強がって……大変なことになる位なら、俺だったら誰かにヘルプを求めます。仕事でもそうです。『援助を求めるスキル』って大切だと思っています」 「へぇ、いいことを言うな。実は瑞樹はさ、10歳の時に両親と弟を一度に交通事故で亡くして、遠い親戚の家で育ったんだ」 「……そうだったのですか」 「いい家だったよ。ちゃんと引き取ってくれた家族に、愛してもらっていたよ。だが、自分から助けを求めるのが、ずっと怖かったんだと思う。性格的なこともあり、つい相手の顔色を伺ってしまう所もあって」  あぁ……それ分かるな。そういう所ある……葉山って。  たまに職場で思い詰めた顔をしているので、聞いてみても…… 「どうした? 何かあったか。俺に話してみろよ」 「あ……大丈夫だよ、気にしないで。大した話じゃないから」  そんな風に答えてばかりで、俺の顔色を伺っていると感じることもあったな。  俺は困った時に素直に「助けてほしい」と言えるタイプだが、葉山はそうじゃない。助けを求めたいが、求められないのか。これまでの人生で、かなり苦労をしたからなのか。  そんな葉山が最近は素直に仕事でも助けを求めるようになって、変わったなって感じていた。それって、つまりそれだけ滝沢さんの影響が強いってことか。付き合っている相手が、自分の生き方にいい影響を与えてくれるって、いいな。 「ここからが本題だ」 「はい! 何なりと」 「会社で瑞樹を助けてやってくれ。その……変な輩から……守ってくれ」 「あっ、それ!それ!」 「ん? まさか、もういるのか」 「大丈夫です! もう呼び出して、キツく喝入れておきましたから」  これは金森の奴を呼び出しておいて、正解だったな。 「本当に大丈夫か。瑞樹のことを色眼鏡でみる奴が、やはり社内にもいるんだな。うぬぬ……心配だ」 「大丈夫です。よーく見張っておきます。俺、彼をちょうど見張りやすいポジションにいるので」 「頼む! 油断するなよ。一度の喝じゃ効かない奴もいるからな」  宗吾さんがガバっと頭を下げるので、慌てて上げさせた。 「よしてくださいよ。ギブアンドテイクですよ! 食事も美味しかったし、芽生くんは可愛いし、可愛い友人と気兼ねなく飲めるし。あの、また来ても? 」 「はは! いいぞ。俺も酒が進む」  ふたりで話していると、風呂上りの葉山がやってきた。  「宗吾さん、お待たせしました。芽生くん、今日はもう寝てしまいましたよ」 「おー!ありがとうな。じゃあ君も飲めよ」 「はい。菅野、お酒進んでる? 何、話していたの? 」 「おう! この家にまた遊びにきたいって、頼み込んでいた」 「嬉しいよ。気に入ってくれたのか 」 「滝沢さんの飯、おいしくて最高! 」 「よし、〆に雑炊でも作るか」 「はい! 菅野の口に合って良かったよ」  目の前に座った葉山と目が合うと、ニコっと笑ってくれた。  出た! 『みずきちゃんスマイル』  部署の皆は、実は葉山のこの笑顔に弱いのだ。 「あっ、そうだ。ごめんな、こんな格好で。芽生くんを寝かしつけるためでね」  恥ずかしそうに目元を染めるのも可愛いー! 「いいぜ。気にしない」  それにしても、パジャマ姿、かなり新鮮だ。湯上り葉山なんて滅多に見る機会ないしな。  湯上りといえば……最近の社員旅行は日帰りばかりだったが、今度の社員旅行は温泉宿に1泊するので楽しみだ。  浴衣の葉山、めちゃんこ可愛いだろうな。  葉山を見つめながら、ニヤっと笑うと、突然視界が真っ暗になった。 「はい! そこまで」 「へ? これってアイマスクですか、何で? 」  これじゃ……可愛い葉山の顔が見えないんですけど! 「サービスタイムは終了だ」 「そ、宗吾さん。何、言って……それじゃ菅野が食事出来ませんよ? 」 「雑炊が出来るまで、しばらくそうしてろ」  やべっ、不機嫌じゃん。  あーもしかして俺のニヤついた顔を見られたのか!  違う違う!弟みたいに可愛いって思っただけですって~  俺は可愛いものに、目がないからさ。 「でも……それじゃ……菅野が可哀想ですよ」  ん? 葉山の可愛い声がよりクリアに聴こえて、またニヤリと口角を上げてしまった。    

ともだちにシェアしよう!