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恋満ちる 9
「瑞樹がいない所で話すのには、理由があってな……」
「はい。何でも話して下さい。俺を信じて貰えるのなら」
「君は駆け引きなしに瑞樹を守ってくれたな。改めて礼を言うよ、ありがとう」
「そんなの当たり前です。大切な友人が困っていたら、手を差し伸べるのが普通ですよ」
そこまで話して、もしかして葉山には、それが普通ではなかったのか。手を差し伸べてもらえない事があったのか……と察した。
男でも男に狙われるパターンがあるのは理解している。葉山のような綺麗な顔立ちなら、大いにありうる話だ。
「瑞樹も男だ。守られてばかりでは不甲斐ないと思うだろう。だが先日の朝のように、守って、助けてもらうのが、時には必要だと、俺は思っている」
「はい。強がって……大変なことになる位なら、俺だったら誰かにヘルプを求めます。仕事でもそうです。『援助を求めるスキル』って大切だと思っています」
「へぇ、いいことを言うな。実は瑞樹はさ、10歳の時に両親と弟を一度に交通事故で亡くして、遠い親戚の家で育ったんだ」
「……そうだったのですか」
「いい家だったよ。ちゃんと引き取ってくれた家族に、愛してもらっていたよ。だが、自分から助けを求めるのが、ずっと怖かったんだと思う。性格的なこともあり、つい相手の顔色を伺ってしまう所もあって」
あぁ……それ分かるな。そういう所ある……葉山って。
たまに職場で思い詰めた顔をしているので、聞いてみても……
「どうした? 何かあったか。俺に話してみろよ」
「あ……大丈夫だよ、気にしないで。大した話じゃないから」
そんな風に答えてばかりで、俺の顔色を伺っていると感じることもあったな。
俺は困った時に素直に「助けてほしい」と言えるタイプだが、葉山はそうじゃない。助けを求めたいが、求められないのか。これまでの人生で、かなり苦労をしたからなのか。
そんな葉山が最近は素直に仕事でも助けを求めるようになって、変わったなって感じていた。それって、つまりそれだけ滝沢さんの影響が強いってことか。付き合っている相手が、自分の生き方にいい影響を与えてくれるって、いいな。
「ここからが本題だ」
「はい! 何なりと」
「会社で瑞樹を助けてやってくれ。その……変な輩から……守ってくれ」
「あっ、それ!それ!」
「ん? まさか、もういるのか」
「大丈夫です! もう呼び出して、キツく喝入れておきましたから」
これは金森の奴を呼び出しておいて、正解だったな。
「本当に大丈夫か。瑞樹のことを色眼鏡でみる奴が、やはり社内にもいるんだな。うぬぬ……心配だ」
「大丈夫です。よーく見張っておきます。俺、彼をちょうど見張りやすいポジションにいるので」
「頼む! 油断するなよ。一度の喝じゃ効かない奴もいるからな」
宗吾さんがガバっと頭を下げるので、慌てて上げさせた。
「よしてくださいよ。ギブアンドテイクですよ! 食事も美味しかったし、芽生くんは可愛いし、可愛い友人と気兼ねなく飲めるし。あの、また来ても? 」
「はは! いいぞ。俺も酒が進む」
ふたりで話していると、風呂上りの葉山がやってきた。
「宗吾さん、お待たせしました。芽生くん、今日はもう寝てしまいましたよ」
「おー!ありがとうな。じゃあ君も飲めよ」
「はい。菅野、お酒進んでる? 何、話していたの? 」
「おう! この家にまた遊びにきたいって、頼み込んでいた」
「嬉しいよ。気に入ってくれたのか 」
「滝沢さんの飯、おいしくて最高! 」
「よし、〆に雑炊でも作るか」
「はい! 菅野の口に合って良かったよ」
目の前に座った葉山と目が合うと、ニコっと笑ってくれた。
出た! 『みずきちゃんスマイル』
部署の皆は、実は葉山のこの笑顔に弱いのだ。
「あっ、そうだ。ごめんな、こんな格好で。芽生くんを寝かしつけるためでね」
恥ずかしそうに目元を染めるのも可愛いー!
「いいぜ。気にしない」
それにしても、パジャマ姿、かなり新鮮だ。湯上り葉山なんて滅多に見る機会ないしな。
湯上りといえば……最近の社員旅行は日帰りばかりだったが、今度の社員旅行は温泉宿に1泊するので楽しみだ。
浴衣の葉山、めちゃんこ可愛いだろうな。
葉山を見つめながら、ニヤっと笑うと、突然視界が真っ暗になった。
「はい! そこまで」
「へ? これってアイマスクですか、何で? 」
これじゃ……可愛い葉山の顔が見えないんですけど!
「サービスタイムは終了だ」
「そ、宗吾さん。何、言って……それじゃ菅野が食事出来ませんよ? 」
「雑炊が出来るまで、しばらくそうしてろ」
やべっ、不機嫌じゃん。
あーもしかして俺のニヤついた顔を見られたのか!
違う違う!弟みたいに可愛いって思っただけですって~
俺は可愛いものに、目がないからさ。
「でも……それじゃ……菅野が可哀想ですよ」
ん? 葉山の可愛い声がよりクリアに聴こえて、またニヤリと口角を上げてしまった。
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