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恋満ちる 28
「おばあちゃん、ただいま。これみて!」
「まぁ、立派な刀だこと。パパに買ってもらったの? 」
「えっとね、おにいちゃんにあって、かってもらったんだ! いいでしょう!」
部屋に戻ると、母は和室でテレビを観て寛いでいた。
「まぁ、結局瑞樹くんに会えたのね。よかったわね」
「あのね、おにいちゃんね、おしごと、すごくがんばっていたよ」
「そうなのね。瑞樹くんはいつも目の前のことに一生懸命だものね」
確かに瑞樹は、どんな仕事でも手を抜かずに真摯に向き合うし、締め切りや約束もきちんと守るので、社内で信頼度が高いのも納得だ。
だがなぁ、あんな余興にも本気で向き合うとは、ハラハラしたぞ。あの完璧な女装姿には驚いた。
「さぁ芽生、そろそろ眠らないと」
「はーい。カタナ、だっこして、ねてもいい? 」
「くすっ、パパの小さい頃と同じね」
「えぇ? 俺、そんなことしたか 」
「覚えていない? 憲吾とチャンバラをして遊んでいたわ」
「あぁ、そうだったな。障子を破いて、よく叱られたような」
「あなたも、ヤンチャだったわね」
「ははっ」
これは瑞樹にも夏樹くんが生きていれば訪れるはずだった、幼い兄弟の想い出だ。大切にしないとな。
「パパー、今日はおばあちゃんとねてもいい? 」
「あぁいいぞ」
部屋は和洋室だった。ツインベッドと6畳の和室という広めな作りで、本来ならば四人部屋のようだ。
「母さんがベッドを使う? 」
「そうねぇ……やっぱり畳で眠りたいわ。芽生は畳でも大丈夫? 」
「タタミーすき。ボクのおうちには、ないからね」
すでに和室の方には、布団が敷かれていた。
ということは、俺は今宵は寂しくツインベッドで一人寝か。
あーこんな時、瑞樹がいればと思うのは贅沢か。
無性に瑞樹に会いたくなってきたぞ。
俺の部屋番号は教えたが、君の部屋番号も聞けばよかった。そもそもあの金森という男と同室なんて、大丈夫か。菅野くんによると『酔い潰すから問題ない』と言っていたが……うむむ。
俺が思案している間に、母さんと芽生は、そそくさと布団に潜っていた。
「おいおい、もう眠るのか。まだ10時前だぞ」
「もう十分遅いわよ。年寄りと子供は早寝早起きなのよ。宗吾はまだ眠くないの? 」
「あぁ」
「ならもう一度大浴場に行ってくれば? 」
「そうだな、瑞樹の騒動で酔いもすっかり覚めちまったよ」
「騒動って、何かあった? 」
「いや、もう大丈夫だよ。じゃあ風呂に行ってくるよ。先に寝ていてくれ」
「パパ、おやすみなさい」
「おやすみ」
俺は大浴場に向かって、ふらりと歩き出した。
一人寝は寂しいが、今宵ばかりは仕方がない。
そもそも家で留守番のはずが箱根まで押しかけて、瑞樹に会えただけでも、感謝しないとな。だが一人になった気楽さからか、せめて脳内で君に触れたくて、歩きながら今日の出来事を反芻してしまった。
今日は『みずきスペシャル・デー』だった。
まず風呂場で入浴中の君を盗み見した。客観的に見るのは新鮮だったし、下半身を洗うシーンは相当エロかったぞ。
そして、まさかの女装姿!!
俺の『瑞樹レーダー』は故障中だったのか、一瞬、君だと気づかなくて真剣に戸惑った。でも瑞樹本人で本当に良かった。彼が女だったらよかったとは、微塵にも思わなかった。もちろん女装姿は最高に可愛いが、やっぱり俺は男の瑞樹が好きなんだと再認識出来たよ。
で、今日は何のご褒美なのか、まさかの瑞樹自らがスカートをたくし上げて、パンツを見せてくれるとは!! あれはまずい。思わず上を向く程、ツンと来た。
興奮して鼻血が出そうになるとか……俺、一体今、いくつだよ!
君といると、まるで好きな子を前に心が浮き立つ思春期の少年だ。
だが、俺は永遠にこんな若々しい気持ちを持ち続けていきたい。
10年後もきっと、同じことを思っている。そう確信できるよ。
君と暮らせば暮らすほど、深まるの想いと満ちる恋。
頭の中を瑞樹で満杯にして歩いていると、突然……背後から声をかけられた。
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