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聖なる夜に 32
庭の外を見ると、芽生が兎跳びをして、瑞樹が追いかけていた。
彼はとても朗らかに明るく笑っていた。最近の瑞樹の笑顔は、底抜けに明るくていい。よく弾けているな。
童心に戻ったような表情で、庭を駆け回る様子に、目頭がうるっと熱くなった。
やばいな……最近、年を取ったのか、涙腺が弱くなった。
やがて瑞樹と話していた母さんが、満ち足りた顔で、戻ってきた。
「宗吾、瑞樹と芽生が風邪をひく前に、呼んで来なさいよ」
「え……? 母さん、今、『みずき』って呼んだ?」
「そうよ、いいでしょう? もう彼は我が家の一員だし、いつまでも『瑞樹くん』じゃ、余所余所しい気がしていたのよ」
「あ……ありがとう。瑞樹、きっと喜ぶよ」
「えぇ、さっき呼んであげたら、蕩けそうな顔をしていたわ。本当に可愛い子よね」
末っ子は甘やかされるというが、まさにそれだな。母さんにとっても瑞樹の存在が輝くものとなっているのが、嬉しい。
どうか長生きして、孫の芽生と瑞樹をたっぷり可愛がってくれよ。
瑞樹が溶け込んでくる。
俺の家族の色に、自然と染まってくれる。
それが嬉しい。
礼子との結婚では、互いの実家との交流など面倒臭いと敬遠していたのに、何故だろう。瑞樹とは俺たち3人家族だけでなく、もう一回り外まで、仲良くなって、一緒にいたくなる。
10歳で家族を全員失った瑞樹に、居心地の良い暖かな場所を作ってやりたいからなのか。
「なぁ、ところで……ちょっと、いいか」
「なんだ? 兄さん」
「その、お前は……プレゼントを持って来てくれるサンタクロースに、何かおもてなしをしたのか」
「ん?」
「いや、来年以降の参考にしようと思って、その……『接待』の具合を教えて欲しいのだ」
『接待』だって? ははっ、真面目腐った顔で……何を言い出すのやら。
「サンタクロースにはココアとクッキー、トナカイには人参だ」
「そ、それは。その……」
「ははっ。俺は明け方に冷たいココアを飲んで、湿気ったクッキーも食べて、人参も生のまま囓ったさ。これは父親の試練だ」
「なるほど!」
「まぁ、困ったことがあったら、何でも聞いてくれ」
「頼りにしている。いろいろ教えて欲しい」
「お、おう!」
兄さんの口から出た台詞とは思えない。
あぁ……そうか、これからは兄さんとは、子育てする同士だ。子育てパパの仲間になれるのか。それって新鮮だな。
「お腹の赤ん坊、順調そうだな。芽生の従兄弟か従姉妹か、どっちだろうな。楽しみにしているよ」
「ありがとう」
****
「瑞樹、そろそろ中に入れ。風邪をひくぞ」
庭先で芽生くんと夢中で雪遊びをしていたら、宗吾さんに呼ばれた。
だから僕は、うさぎのように跳ねて、宗吾さんの元に駆け戻った。
「はは、その格好だと、本当にうさぎみたいだな」
「そうですか」
「髪に雪が付いているぞ。なぁ、早速……今宵から着てくれよ」
「あ、はい」
宗吾さんこそ、モフモフの毛並みが可愛い。
「宗吾さんも着て下さいね。大人しいクマさんをキープして」
「さぁ、それは保証できないな」
「くすっ、芽生くん、さぁ戻ろう」
「おにーちゃん、これ『ゆきうさぎさん』にしたいんだけど、うまくいかないよぅ……」
芽生くんが雪のかたまりを、僕に見せてくれた。
「あぁ、じゃあ目と耳をつけようか」
「うん、どうしたらいい?」
「そうだね。これはどうかな?」
椿の緑の葉を二枚付けて耳とし、南天の赤い実を二つ付けて目にしてやると、芽生くんは大喜びだった。
「流石だな。いつも思うが、瑞樹は子供と遊ぶのが上手だな」
「……はい。弟がふたりいたので」
「あぁ、そうか、そうだな」
自然と口に出てきた。夏樹と潤……二人とも僕の大切な弟だ。
「芽生は幸せだ。瑞樹にたっぷり愛されて、優しい思いやりのある子に育つぞ」
「そうでしょうか」
「ついでに、俺への愛もよろしくな」
「あ、もちろんです」
宗吾さんへの愛は、ますます深まるばかりですよ。
こんなに和やかな家族のクリスマスを、僕に……ありがとうございます。
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