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聖なる夜に 34
「おにいちゃんがもってきたプレゼントは、いつわたすの?」
「そうだね。お昼ご飯を食べ終わってからかな」
「きっと、よろこんでくれるよ」
「そうかな?」
「そうだよ!」
くすっ、芽生くんに励まされてしまった。
出会った時よりも、ずいぶんしっかりしてきたね。
「そういえば、宗吾、芽生のランドセルは、どうしたの?」
「え? もう買うんですか。まだ年も明けていないのに」
「今時は、秋から予約したりすると言っていたのよ。ランドセルは私から贈らせてね」
「いいんですか」
「もちろんよ。大切な孫ですもの。カタログを取り寄せておくわね」
「ありがとう。母さん」
あっ、ランドセルの準備か。それも抜け落ちていた。春には芽生くんが小学生になるなんて、まだ信じられなくて。
「さぁ、ケーキにしましょう」
「やったー」
「ケーキは美智さんが作ってきてくれたのよね」
「えー! すごい」
テーブルの上に出されたのは、手作りのホールショートケーキだった。イチゴと共に、ジンジャーマンやツリーのアイシングクッキーが飾られていて、とても美味しそうだ。
「うわーすごい! オバサン、すごい!」
「これはすごいな。美智さんがお菓子作りの達人だとは聞いていたが、ここまでとは」
宗吾さんも芽生くんも、身を乗り出して感心している。
「本当? 芽生くん、こういうの好き?」
「だーいすき!」
「もっと早く一緒にクリスマス会をしたらよかったわね」
「ライネンもしよう。あかちゃんもいっしょに」
「うん!」
そうだ。来年には家族がひとり増えている。
嬉しい……赤ちゃんの誕生を見守るのって、幸せだ。
僕も、夏樹がお腹に宿った時から知っていた。お母さんのお腹が日に日に大きくなるのを、不思議と期待に満ちた目で見守っていたからね。
「仲良くしてね。芽生くんのいとこだから」
「うれしいな! ボクがきょうだいがいないから、いっぱいかわいがってあげるね」
「ありがとう」
礼子さんの赤ちゃんは、やはり芽生くんにとっては少し複雑な存在なのだろう。しかし、このタイミングで、憲吾さんのところに赤ちゃんがやってきてよかった。
芽生くんの気持ちも和らいでいるようで、ホッとするよ。しかし来年は嬉しいことばかりだ。広樹兄さんのところにも、一ヶ月違いで赤ちゃんが生まれる予定だから。
「おにいちゃん、いまがチャンスだよー」
芽生くんが、プレゼントを渡すタイミングまで教えてくれる。
「そうだね。あ、あの、これお兄さんとお姉さんと……赤ちゃんにクリスマスプレゼントです」
「え!」
「嬉しい! 赤ちゃんにまであるなんて」
憲吾さんと美智さんが、顔を見合わせている。真っ先に二人が開けたのは、赤ちゃんの靴下だった。
「わぁ、こんなに小さい靴下、見たことないわ」
「温かそうだ。これを本当に赤ん坊が履くのか」
「瑞樹くん、すごく素敵な贈り物をありがとう」
「美智、見てみろ。私達も……家族3人でお揃いだ」
いつになく憲吾さんの興奮した声が響いた。
「お揃い。家族……嬉しいな」
美智さんの目にもうっすら涙が浮かぶ。
「憲吾さん、やっとね。きっと大丈夫。この子は生まれくれる。そんな、いい予感しかしないわ」
「みんな応援しています」
「幸いつわりもひどくなくて、順調だと言われているの。本当にやっと授かった赤ちゃんなので、無事に生まれてくるのを祈っているわ」
「僕も祈っています。あの、お母さんにも同じシリーズの靴下なんです」
「嬉しいわ、瑞樹。 もしかしてみんなお揃いなのね。一族で」
「はい!」
美智さんがケーキを切り分けている間に、僕はお母さんの手伝いをした。
「瑞樹、そこの棚からティーカップを取り出して」
「はい」
飾り戸棚には、花柄の柄違いのティーカップが並んでいた。カップの内側には英語で季節が描かれていた。January、February、March、April、May……
「素敵ですね」
「いいでしょう? そのカップは12客あって、月の名前が入っているのよ。だから、皆のお誕生月のを出してあげて」
「はい、あの、お母さんはいつですか」
「私は9月よ。憲吾が11月、美智さんが6月よ」
「分かりました」
そして宗吾さんが8月で、芽生くんが5月……
あっ、芽生くんと僕は同じ月だ。
じゃあ、僕は何か代わりのものにしないと……
視線をキョロキョロと彷徨わせていると、お母さんに呼ばれた。
「瑞樹も5月だから、もう1客、買い足したのよ。今年は、これが私からのクリスマスプレゼントよ」
ポンと手渡されたのは、スズランの絵柄の優美なティーカップとソーサー。
「連休に大沼でサイクリングしたのを思い出すわね。スズランは瑞樹の誕生花よね。しかも英文字でMay(メイ)と書いてあるなんて、最高ね。瑞樹はね……うちの子になる運命だったのよ」
あぁ……またお母さんが僕を泣かせにくる。
今日はずっと涙腺が緩んでいるから、はらりと涙が頬を伝ってしまった。
「泣き虫、瑞樹。もうっ、可愛い子」
優しく抱きしめてもらったので、もっと泣いてしまった。
「あらあら……もう、そんなに泣いたら、目が赤くなってしまうわよ。さぁ、皆でクリスマスをお祝いしましょう」
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