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気持ちも新たに 5

「ほら、芽生、見てちょうだい。女の子よ」  ママの赤ちゃんだ。  わぁ……小さい。ボクもこんなだったの?  こんな風に、ママに抱っこされていたのかな。  何もおぼえていないけれど、なつかしいな。 「なんていうお名前なの?」 「ユイちゃんよ」 「ゆい?」 「そう、漢字だと『結』ってかくの。結ぶという意味があるの。良い縁と結ばれるといいなって、つけたのよ」 「そうなんだ。ゆいちゃんか……、はじめまして。ボクはメイ……きみのママとボクのママは同じだよ」 「そうね。芽生にとって半分、妹よ」 「……そうだけど、そうじゃなくていいよ。ママはこの子をうーんと大事にして。ボクにはね、ボクを大切にしてくれるパパとおにいちゃんがいるから」 「そんな……あなただって、まだ小さいのに」 「今日はね、もうボクはだいじょうぶだよって……ママにみせたかったの。だから来たんだ」  ママはこまった顔になってしまった。 「芽生……やっぱりごめんね」 「そんな顔しないで。ママにね、あとでお花がとどくよ。ゆいちゃんにはお花のケーキだよ」 「そうなの?」  ママと赤ちゃんと話していると、ママのおばあさんが突然部屋に入ってきて、僕の腕を引っ張った。 「やっぱり男の子の孫は大切よ! ねぇ玲子、今からでも親権を取り戻せるように弁護士さんに相談しない?」 「もうっママってば、まだそんなことを言って」 「だって芽生ちゃんは、私たちの初孫よ。こんなに利発そうで可愛いのに。そうだわ。いっそ、私達の子にしてもいいわ」 「だ、駄目よ。それじゃ……芽生が幸せになれない!」 「ねぇ、芽生ちゃん。うちの子にならない?」  僕の手を、ママのおばあさんがギュウギュウと引っ張った。 「い、いたい……いたいよ」 「ちょっと! やめて下さい」 「おばあちゃん! 助けて」  いたくて、こわくて、涙がポロッとこぼれてきちゃった。  みんなのお顔がこわい。  だから心のなかで、呼んだ。 (お兄ちゃん、お兄ちゃん―― はやく、きて!)  おねがいは、かなった。   ピンポーン!    インターホンがなった。きっとお兄ちゃんだ。 「あら、誰かしら?」  おばあさんの手が離れ、ホッとした。 『加々美花壇の配送のものです』 (やっぱり! ボクのお兄ちゃんの声だ!) 「あら、お花屋さんみたいよ」 「ママ! 私が出るわ」 「そうなの? ユイを預かるわよ」 「じゃあ、ママ、おむつを替えてもらってもいい?」 「わかったわ。ゆいちゃん、さぁさぁ、ベッドに行きましょうね」    やがて玄関が開くと、おむつのケーキを抱えたお兄ちゃんの姿が見えて、ホッとした。  よかった。お兄ちゃんがいれば、もう安心だ。  お兄ちゃんはボクが泣いたのに、すぐに気づいてくれたようで、心配そうな顔になった。 「……あの、滝沢芽生様からのお届けものです」 「瑞樹くん、やっぱり! あなたが持ってきてくれたのね。ありがとう。わぁ……おむつケーキ! 私も一度はもらってみたかったのよ。しかし流石の出来映えね。フラワーデザイナーさんは、すごいわね」 「ママ……ボクがえらんだんだよ。気に入った?」 「えぇ、とても。芽生、さっきは泣かせてごめんね。ママには、よく話しておくから、もう帰った方がいいわ。長居するとこじれそう……もうあまり会えないかもしれないけど……大丈夫?」 「うん」  ママごめんね。ここはボクのいるところなんてないし、ボクもはやくここからでたくなった。 「ママはすきだよ。ママ、ママ……がんばってね」 「ありがとう。さぁ行きなさい。お母さん……今日は母が出過ぎたことをしまして、すみませんでした」 「久しぶりに会って興奮されたのかもしれないわね。あなたも芽生の幸せを第一に考えてあげてね」 「はい……分かっています、もう彼にバトンタッチしました。その気持ちは変わりません」」    ママはお兄ちゃんとも話をしてくれた。 「瑞樹くん、久しぶりね」 「あの……玲子さん、ご出産、おめでとうございます」 「ありがとう。照れくさいけれども、私もこれで踏ん切りがついたわ。また一からママをがんばるつもりよ」 「はい」 「あ、そうだ。瑞樹くん、そのケーキをベビーベッドの横に設置してくれる? せっかくだから、結に会っていって」 「あ、ありがとうございます」  お兄ちゃんは、大きなおむつケーキを抱えて部屋に入り、ベビーベッドにねむるゆいちゃんを見て、うれしそうに目を細めていた。 「では配達完了しましたので、受領印をお願いします」 「ご苦労様」  お兄ちゃんは、ぺこりとお辞儀をして、玄関から出て行った。  でもボクには分かるよ。お外で、待っていてくれる。車でいっしょに帰ってくれるって。 (お兄ちゃんといっしょにいたいんだ。ボクは……優しくて、ボクの心をいつも見つけてくれる、お兄ちゃんがダイスキだから!) 「待って芽生、これはママからのクリスマスプレゼントよ。今日は会いにきてくれてありがとう。ママが好きなピンクのお花もありがとうね。ゆいにもケーキをありがとう」  そうだ……さっき、おじさんが言ってた。ボクのきもちをちゃんとつたえなさいって。 「ママ……ありがとう。バイバイ。おばあさん、ごめんね。ボク、パパとすごしたいから、ここのおうちの子にはなれないんだ」 「まぁ、この子はしっかりして……もういいわよ。おばあちゃまも無理を言ったわ。ごめんなさいね。クリスマスプレゼントは、せめてもらってね」 「ありがとうございます」  大きな包みを二つ抱えて、ボクは外に出た。 「おばあちゃん……ボク、これでよかったのかなぁ」 「えぇ、上出来よ。芽生は自慢の孫、大好きよ!」  おばあちゃんが誇らしげに、ボクの髪をなでてくれた。  なんだか、くすぐったいや。 あとがき(不要な方はスルーで) **** 宣伝になります。ご不要な方は飛ばしてくださいね。 『幸せな存在』の短編バージョンの同人誌は、予約分の100冊完売しました。ご予約&ご購入くださった方、本当にありがとうございます。心を込めて発送しました。 同人誌では、芽生の中学生の話を書き下ろしました。多分皆さまが気になっていることがすっきりするのでは……♡ 本日、2月7日から部数限定で、一般販売しております。 (再版の予定はなく在庫限りですので、ご注意くださいね) 私のBOOTH https://shiawaseyasan.booth.pm/

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