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白銀の世界に羽ばたこう 23

「潤、行こう!」 「あぁ」  潤と二人でスキーをするのは、実は初めてだ。スキーはお互い学校で習ったり、それぞれ別の場所で腕をあげた。  潤はいつの間にかスノ―ボードを抱えていた。あれ? それって……函館の家に置いてあったのだ。今日のために取り寄せたのかな? 張り切っているね。 「えっと、どのリフトに乗る? あっ、まずはリフト券を買わないと」 「任せとけって」 「あ……潤、お金」 「いいから、奢らせてくれ」 「そんな」    参ったな。これでは、どちらが兄で、どちらが弟だか分からないよ。案の定、隣に立っていたおばさんに、クスクスと笑われた。 「まぁ~至れり尽くせりね。僕、いいお兄ちゃん持ってよかったわねぇ」 「は、はぁ……」(僕って? 僕のこと?) 「兄さん、こっちこっち!」 「あ、失礼します」 「やだ、あなたがお兄さんなの~? 可愛いから間違えちゃったわ」  バンバンと背中を叩かれ、苦笑した。僕って……そんなに童顔なのかな。きっと今日はスノーキャップを目深に被っているせいだ(と思いたい!) 「ほらリフト券」 「ありがとう。悪いな……払わせちゃって」 「それより気をつけろよ。おばさんにまで言い寄られて」 「え! それは違うって」  少しムッとした潤に引っ張られるように、案内ボードの前に連れて行かれる。 「この四人乗りのリフトで中腹まで行って、乗り換えてトップまで行こう。今日は抜けるような青空だから、山頂からは絶景だろう」 「いいね! 良さそうなコースだ。腕が鳴るよ」 「それで、最終的にこの緩やかなコースを滑ると、ちょうど芽生くんたちの前に戻って来られるよ」 「そうなのか。じゃあ伝えてくる!」  キッズパーク前のベンチに、宗吾さんと芽生くんは座って、ふたりで指さしては、滑り降りてくるスキーヤーを眩しそうに眺めていた。 「宗吾さん! 芽生くん!」 「おう。そろそろ行くのか」 「はい、行ってきます。あのスキー場のマップを持っていますか」 「これ?」 「はい。僕と潤は、今からリフトでここまで行って、更に乗り換えて山頂まで行き、ここまで一気に滑り降りてきますので……あの……見ていてもらえますか」 「すごいな。こんな山頂まで上がれるのか」 「はい!」 「お兄ちゃん、カッコイイー。あの人のように、びゅーんっとすべれるの?」  芽生くんがキラキラ指さす方向には、先ほど初心者コースにいた片割れの男性が颯爽と滑り降りてきていた。やはり想像通り、豪快で切れ味のいいかなりの腕前だ。僕も早く滑りたい……うずうずしてくる。 「瑞樹も刺激を受けたようだな。戦士のような顔だな」 「せ。戦士? そ、そうですか」(その表現は新しい!ってか、やっぱり芽生くんとアニメを見過ぎでは?) 「君の新しい一面を見られて嬉しいよ」 「ありがとうございます。じゃあ……楽しんで来ます。人混みの中から、ちゃんと見つけてもらえるといいのですが」 「君は全身真っ白で、最高にスタイルのいい走者だから、すぐに分かるさ」 「は、はいっ」  手放しで褒められて恥ずかしいけれども、期待に添えるよう頑張りたい。 **** 「すみません~、一緒にいいですか♡」 「え? あ、どうぞ……」    潤と4人乗りリフトにふたりで乗ろうと思ったら、二人組の女性がやってきて、突然一緒に乗ることになった。  グイグイと勢いに押され気味で……潤、僕、女性二人という順番で座ることになった。  変な感じだ……。  しかも潤くらいの若い女性が先ほどから、チラチラとこちらを見ている。あ、もしかして……潤が気になるのかな。潤は体格もしっかりしているし、使いこなしたスノボを持っている。スノボで走る姿を生で観るのは初めてだが、きっとすごくカッコイイはずだ。  兄として滑る前から誇らしくなってしまった。 「あのぉ……今日は雪がいいですね~」  わ、ブラコンしていたら急に話し掛けられたので、びっくりした。   「あ、はい。そうですね」 「もしかして……スキー、今日が初めてなんですか」 「え?」  え、いきなり、そう来る?   僕……そんなに下手そうに見えるのかな。 「あぁ、いきなりすみません。ウェアが真新しいから」 「はぁ」 「隣の彼はめちゃくちゃボード、上手そうですね」 「は、はい」 「ところで、リフトから降りる時って怖いですよね~転んだらどうしよう♡」 「……」 「あのあの、それで、お二人でいらしているのですか」   (うーん、何をどう返せばいいのか分からないので、だんだん笑顔が引きつる)   「兄さん、ほらっ、もう着くよ」 「うん。あっじゃあ失礼します」 「えっ、ちょっと待って……」  良いタイミング到着したので、その場を離れることが出来てホッとした。今時は女の子が積極的なのだなぁと感心していると、潤に怒られた。 「兄さん、何、話し掛けられているんだよ。油断すんな。ほら行くぞ」 「わ、待てって」  何故か潤が不機嫌なのが可愛くて、急いで後を追った。  宗吾さんと離れて潤と二人で行動すること自体が珍しいので、僕もバタバタだ。  軽く慣らす感じで、リフトに乗り換えるために少しだけ斜面を下る。  すっと身体が動く。  この感じ……懐かしいな。  身体で風を切るのがスキだ。  山頂から滑ったらどんなに気持ちいいか。早くもっと滑りたいという気持ちで満ちてきた。   「よし! 今度は二人乗りだな。やった! 次のリフトは兄さんと二人きりだ!」  潤が小さなガッツポーズをしているのが、やっぱり可愛かった。  ん? ブラコンの僕とブラコンの潤って、もしかして良いコンビなのかも?    

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