620 / 1741

白銀の世界に飛び立とう 24

「兄さん、やっとペアリフトだな!」 「そうだね」  山頂へは、今度は二人乗りのリフトだった。だから、先ほどのような妙な心配はない。あの女の子達……結局、何だったのかな? 潤目当てだったと思ったのに、呆気に取られた顔で僕のことばかり見ていたな。うーん、謎だ。  それにしても体格のいい潤と並ぶと、僕は随分貧弱だね。昔は似たような体型の広樹兄さんと潤に挟まれるのが窮屈だったが、今は心地いい安心感をもらっている。  潤は、頼もしくなった。 「兄さん、なんだよ? さっきからジロジロと……」 「わ、ごめん」  僕、さっきから見過ぎている?  潤はヘルメット、僕はゴーグルをしているから、お互いの顔がよく見えなくて、ついじっと見てしまうようだ。そう言えば……潤とこんなに至近距離で向かい合うのは初めてで、急に照れ臭くなってしまった。でも……せっかくの機会だ。ちゃんと伝えたいよ。 「ますます格好良くなったな、潤」 「よ、よせよ。照れる」  軽井沢で働き出した潤からは子供っぽさが抜けて、青年らしい爽やかさを纏うようになっていた。自分の力で立ち、自分の手で稼いでいる人の凜々しさを感じる。さっきから僕が見たことのない表情ばかりするから、兄として少し寂しいような……嬉しいような。 「……られない」  蚊の鳴くような小さな声だった……潤? 「何? どうかしたのか」 「……」 「もう一度言ってくれないか」  聞き逃してはいけない気がして、しつこく聞いてしまった。   「……し、信じられないって、言ったんだ」 「えっと、何が?」  ヘルメットの奥の潤の表情を、じっと伺う。   「だからぁー、憧れの兄さんと、ふたりでスキー出来るのがだよ!」  憧れって、そんな風に思ってくれていたの? 僕の方だって信じられないよ。こんなにも自然に潤に兄さんとして扱ってもらえるなんて。 「僕も弟と一緒で嬉しいよ。潤はスキーも上手だったが、スノボはもっと上手そうだ」 「兄さんこそ。兄さんのスキー姿はとても綺麗だ。兄さんがジュニアの大会で表彰された写真を見たんだ」 「え? そうなの」 「中学で……校長室の前のガラスケースの中に、兄さんがいた」 「そうだったのか……知らなかったよ」  そんなところに、僕の形跡があったなんて、驚いた。  僕は幼い頃から両親にみっちりとスキーを教え込まれていたので、上級者の選抜に選ばれて……函館市内の競技大会で上位を取ったこともあったな。  潤とこんな話をしていると……僕は大沼で生まれ、函館で青春時代を過ごしたのだと改めて実感した。  北の大地が、僕の生まれ故郷だ……今はそれが誇りだよ。 「兄さん、早そうだな」 「潤のスピードに付いていく」 「オレは兄さんのスピードについていくぜ」 「くすっ、仲良く滑ろうね」 「あぁ」    やがてペアリフトが降り場に到着した。 「兄さん?」 「あっ、うん」 「ほらっ、急げ!」    思い出に浸っていたせいで少し手間取っていると本当に自然に、潤が僕の手を掴んでくれた。グローブ越しの触れ合いだが、じわっと温かいものが込み上げてくる。  山頂に二人で並んで立つと、背後には北アルプスの山並みが見えた。    反対側には美しい湖が見える。  宗吾さんや芽生くんの待つ中腹のキッズエリアまで、一気に滑り降りる上級者用のコースだ。      これはワクワクする! 函館や大沼のスキー場を思い出す雄大な景色に、ときめいた。   「すごいね。想像以上の絶景だ」 「あぁ、これを兄さんに見せたかった」  山頂からの景色は、絵に描いたようだった。  雲海が広がる世界は、美しい! 眼下に見える湖に向かって飛び込む感じで、本当に最高のコースだ。 「すごい、すごいよ。潤! ありがとう」 「兄さん良い笑顔だな。良かった。実はこのスキー場はセンターハウスを中心にすり鉢状になっているから、初心者も上級者も同じエリアで楽しめるって、北野さんが教えてくれたんだ。やっぱり、ここにして正解だな」  初心者から上級者まで一緒にか。それが今の僕には、とても嬉しいよ。  僕も潤も、初心者の芽生くんも宗吾さんも皆、同じ場所で笑いあえるって、最高だ!   「潤……いろいろ考えてくれたんだね。本当に……」 「兄さんに……心から笑って欲しくてな」

ともだちにシェアしよう!