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幸せな復讐 17

 おもてなしの心満載の食事は見た目も味も良く、僕たち家族はとても満たされた気持ちになっていた。  芽生くんのお子様セットも、大人の食事のミニチュアのように本格的な味わいで、それでいて子供が喜ぶ遊び心を失わないものだった。 「ぜんぶ、たべたよ!」 「のこさずえらかったね。ブロッコリーもたべられたしね」 「うん! ふぅ~」  芽生くんが小さな手で、目を擦りだした。   「芽生くん、もう眠いの?」 「うーん、さっき……わっしょい!わっしょいって、しすぎたかも」 「くすっ、 とても可愛かったよ」 「おまつり……おみこし……わたあめ……むにゃむにゃ……、おにいちゃん……だっこぉ」 「おいで」  甘えた声の芽生くんが、僕の胸に、ぽすっと飛び込んでくれた。  このまま寝落ちしそうなので、急いで歯磨きだけはさせた。虫歯は困るからね。  あぁでも……もう磨きながら、トロンとしているね。  子供の電池は、突然切れてしまう。 「もう少しだよ。がんばって」 「うーん、おふとん……はいりたいなぁ」 「じゃあ、敷いてもらおうね」  僕に心も身体も預けてくれる、あたたかな温もりと重みが心地良いよ。   洗面所から部屋に戻ると、ちょうど仲居さんが食事の後片付けに来てくれた。 「あら? ボク、おねむなのね。じゃあ先にこっちにお布団を敷きましょうね」 「ありがとうございます。助かります」  気が利くね。手早く部屋の隅に、布団を敷いてくれた。 「芽生くん、もう眠ってもいいよ」 「ん……おにいちゃんも……」 「うん」  仲居さんがまだ片付けしている最中だったけれども、芽生くんを抱っこするように布団に潜り込んだ。 「あしたも、たのしみ……あしたもまた……あのはらっぱであそびたいな」 「いいよ」  可愛い願いごと。  すぐにでも叶えてあげたくなるよ。 「おやすみ、芽生くん」  やがてカチャカチャと食器を片付ける音が消え……部屋が静かになり、胸元からも規則正しい寝息が聞こえてきた。 そろそろいいかな。  僕はむくりと起き上がり、宗吾さんを探した。  芽生くんが寝付くまで静かにしてくれていた。  窓辺の椅子で読書しているのかと思ったが、そこにはいなくて、その代わり掛け流しの温泉の方から、湯の音がした。  そっと覗くと、宗吾さんは目を閉じ、瞑想するような表情で浸かっていた。 「宗吾さん……あの」 「あぁ、芽生を寝付かせてくれてありがとう。芽生は眠い時は相変わらず瑞樹にべったりになるな」 「かわいいです。いつまでも小さいままでいてくれないのが分かっているので、余計に……今が愛おしくなります」 「そうだよな。じゃあ、そろそろ俺の時間か」  宗吾さんの熱い視線を浴びると、僕も自然と浴衣の帯に手をかけていた。 「あの……一緒に、入っても」 「もちろんだ。待っていた」  はらりと浴衣を足元に落とす……いつになく大胆な行動だ。  少し恥ずかしかったが、脱衣所は……照明を落とし薄暗いので、自分で自分の身につけているものを解いていった。   「瑞樹のパンツ、今日は○印だよな」 「あ……もうっ、ムードが台無しですよ」 「ごめん。少し緊張してきた……この旅館内で君に手を出していいのか、少し悩んでいたんだ。前の彼氏がいる場所で……君を抱くのを許してもらえるのだろうか」  宗吾さんが、慎重に聞いてくれる。  宗吾さんはいつも大らかで豪快なのに、時にとても繊細に僕の心に寄り添って、僕の心を大切にしてくれる。  それが嬉しくて、僕の返事は……すぐに決まった。  僕の身体も心も……すべて大切に愛してくれる人  それが僕の宗吾さんだ。 「宗吾さん……好きです」    チャプンと水音が立つ。  吸い込まれるように、裸の宗吾さん胸に飛び込んだ。 「もう……あいつに伝えられました。僕が今……どんなに幸せに満ちているか。もう大丈夫だって……」  僕の方から、宗吾さんに口づけした。 「あぁ……瑞樹を愛してくれた男だ。俺も、まぁ……一目置くよ。彼がいなかったら、今の俺はここにいないしな。あの日、あの公園で君が泣いたから、俺たちは出逢った。恋のキューピットは芽生だったな」 「はい。一馬との別れがなければ……出逢えなかった。そう思えるようになっています。宗吾さん……僕をここで抱いて下さい」 「本当にいいのか」 「そうして欲しくて……さっきから……その」 「嬉しいよ。俺だけかと思った。がっついているの」 「そんなことはないです。心は一緒です」  ここは露天風呂ではない。  客室の一部で、タイルと窓ガラスで囲まれた密室だ。    星や月は見えない。  吹き抜ける風もない。  だが、自由で解放された空間だ。  何故なら……僕だけの星が、僕だけの風がここにはある。  宗吾さん。  僕の宗吾さんが、ここには、いてくれるから。

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