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幸せな復讐 19

「じゃあ、夜回りに行ってくるよ」 「ふぅ、これで今日の仕事は終わりね。それにしても今回のお客様は皆、静かね。とても穏やかな空気が流れているわ」 「そうだな。じゃあ行ってくるよ」 「気をつけてね、春斗寝かしつけておくわね」 「あぁ」    俺が引き続いた若木旅館には、広大な敷地に点在する離れが数棟ある。  毎晩23時になると、敷地内を懐中電灯で照らしながら、不審者がいないか、鍵の施錠、火の元を最終確認するのが、俺の仕事だ。    暗い夜道には月明かりのみ。  少しだけ緊張した気分で歩くのには、理由がある。  瑞樹――君が今宵はここに泊まっているから。  日中、法被を届けようとした時は、浴室の窓が少し開いていたので、仲良さそうな歓声が聞こえて焦ってしまった。  今度は大丈夫だろうか。  いや、若木旅館の主としての仕事を全うするのみだ。 『菖蒲』と名付けられた離れは、俺が五歳の節句を祝った部屋だったな。あの頃は祖父も父も健在で賑やかだった。  瑞樹と過ごすあの坊やは、もう5歳は過ぎたのか。もう少し上なのか。  先ほど見た風呂上がりの瑞樹の表情が蘇ってきた。  瑞樹には、確か兄がいたような。たまに電話がかかってきていたよな。一方、弟の話は聞いたことがなかった。でも……もしかしたらいたのかもしれない。小さい子供の扱いに慣れていて、まるで瑞樹が父親のようだった。    父親か……俺も父親になった。この2年でお互い、本当に大きく変化したのだな。  さぁ、この角を曲がると瑞樹の泊る離れだ。  浴室の窓からは、薄暗い灯りがぼんやりと漏れていた。  緊張が走る。  もしかしたら……瑞樹は今、あの男に抱かれているのかもしれないと、ふと思った。  馬鹿だな、もう俺には瑞樹がどこで何をしようと関係ないのに。  近づくのを躊躇っていると、灯りの方から逃げていった。  ふっと電気が消え、窓が静かに閉められた。  まるで俺が近づいてきたのが分かったみたいだ。  俺が真横を通り過ぎた時には、浴室は消灯され物音もしなかった。  いい夜を過ごしてくれ。  今の瑞樹を包み込むように愛してくれる人がいるのが分かった。  大切だった人を、慈しんでくれる人がいる。  寂しかった瑞樹を、笑わせてくれる人がいる。  瑞樹は明るくなった。  父親のような母親のような優しい顔をしていた。    **** 「宗吾さん……っ、あ……駄目っ……んっ」  熱心に胸を揉まれ乳輪ごと大きく吸われ、心が震えた。  そこを熱心に弄られると……芽生くんと接するようになって芽生えた母性のような感情が、切なく甘く……疼いてしまうから。  そのまま腰のラインを宗吾さんの大きな手で辿られ、指先を使って尻の狭間を割られる。  湯の中での行為はまだ不慣れなので、緊張してしまう。  指の挿入と共に、熱い湯も入ってくるので、体がどんどん火照っていくのを感じた。 「あ……ふぅ……あっ」  指が増やされると湯の量も増えて、少し苦しくなってしまった。 「うっ……」  すると宗吾さんが状況の変化を察してくれて、心配そうに覗き込まれた。僕は宗吾さんの逞しい体を跨ぐように、湯の中で足を大きく広げてとても淫らな体勢になっていたので、冷静になってしまうと恥ずかしさで、クラクラした。   「瑞樹……? 大丈夫か。少し辛そうだ」 「あの、慣れてなくて……目眩がしそうです」 「逆上せる前に、あがろう、君を抱けなくなったら困るからな」 「芽生くん、起きないでしょうか」 「ははっ、子供は一度寝たらぐっすりさ。もしも起きたら、その時対処しよう」  宗吾さんが快活に笑い、静かに僕を抱え上げてくれた。  もう何度目だろう。こんな風に横抱きされるのは。  男なのにと思うが、宗吾さんに抱かれる時は別だった。 「じゃあ……ちゃんと布団で抱いて下さい。その方が僕も……」 「乱れてもらえそうか」  宗吾さんが、少しだけ開いていた風呂場の窓を静かに閉め、灯りも消してくれた。 「俺たちの愛が漏れたらまずいよな。もう、ふたりだけの世界に連れて行くぞ」 「宗吾さんは……こういう時、とても……」  普段は、大らかでユニークであたたかい人だが、決めるときは決めてくれる人。  それが僕の宗吾さんなのだなぁと、しみじみと思った。 「かっこいいです。そうくん……」  

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