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その後の三人『家へ帰ろう』2
「お兄ちゃん、こっち、こっち! ボクね、足湯の場所をちゃんとおぼえているんだよ」
「本当? すごいね」
大分空港でバスを降りると、芽生くんが僕の手を引っ張って道案内してくれた。
「だってね、小学校にいったらひとりで外をあるくんでしょう? だから道をおぼえるれんしゅうをしているんだ」
「そうか……そうだね」
確かにそうだ。今まではひとりで公園に行かせなかったので、心配だな。世の中の親御さんは、皆このような気持ちで子供の成長を見守っているのか。
「宗吾さん、芽生くんの成長に……僕たちは鍛えられそうですね」
「そうだな。俺たちは深めていく関係だが芽生は違う。これから外の世界に出て行くんだな」
「はい、しっかり見守りたいです」
「あぁ、瑞樹と一緒に家《ホーム》になろう。芽生が安心して帰って来られる、あたたかな家にな」
「あ……はい!」
宗吾さんと芽生くんの将来について語る時間が、好きだ。
宗吾さんが僕の存在ありきで話してくれるのも、大好きだ。
「お兄ちゃん! 早く足をつけようよ」
「うん、あっ芽生くん、でも、そのままじゃダメだよ」
「あっそうだ。よいしょ、よいしょ」
芽生くんが靴下を脱いで裸足になり、ズボンの裾をくるくると捲り出したので、そっと見守った。前はひとりでお着替えも出来なかったのに、上手になったね。どんどん自分で出来ることが増えているね。
「でーきた! どうかな?」
「上手、上手!」
「お兄ちゃんもそのままじゃダメだよ」
「わ! そうだね」
自分のことを忘れていた。まだ足首までしか捲っていなかったよ。最近は僕の方が芽生くんよりも動作が鈍かったりして、恥ずかしいな。朝もジュースをひっくり返すし。
「おにいちゃんってば~、ズボンもっとおらないとぬれちゃうよ」
「え……う、うん」
ふくらはぎまで捲って、はたと気が付いてしまった。
ふくらはぎの内側、皮膚のやわらかな場所にまで、まさか散らされていたとは。
(宗悟さんってば……!)
思わず彼をじろっと見ると、両手を顔の前で合わせて『すまん‼』と謝っていた。
くすっ、相変わらず憎めない人。
****
最近の俺の楽しみは、愛しい者同士の会話に耳を傾けることだ。瑞樹と芽生は波長が合うようで、さっきから可愛い会話が止まらない。
これが最高に癒やされる!
「芽衣くん、濡れちゃうから、ズボンの裾をしっかり捲るんだよ」
「はーい! 今度はおにいちゃんもいっしょに入れるよね?」
「ん? もちろんだよ」
俺は一足先に足をドボンとつけて、寛ぎながら二人の会話を聞いていた。
「よかったぁ……朝のおフロもおへやのおフロも入らなかったから、シンパイしたよ」
「ははは……ここは大丈夫だよ。よーし、僕も足をたっぷりつけるよ。ちょっと待っていてね」
瑞樹もニコニコと微笑み、意気揚々とジーンズの裾を更に上へと捲り出した。
おぅ! 君の可愛い生足が、どんどん見えて来るぞ。
思わず横目で、真っ直ぐで細いすねを眺める。
同じ男なのに、俺とは別物だよな。毛深くもなくキメ細やかな肌。
顔立ちが清楚な瑞樹は、体つきも綺麗なのだ。スタイルも抜群にいいのを知っている。
俺は瑞樹の全てを知っている。可愛い膝小僧も、その上の官能的な太股もな。
ところがワクワクしていると、瑞樹の手が途中でぴたりと止まってしまった。
(ん? なんでだよー? ケチだな~)
口に出して呟きそうになり、はたと気付いた。
いやいや……そうじゃない!
昨夜……最後にふたりで風呂に入った。深い逢瀬を終え疲労困憊だった瑞樹は、湯船で俺の胸にもたれて意識をふっと飛ばしてしまった。だから俺が身体を丁寧に清めて、そのまま再び横抱きにして風呂場から上がり、バスタオルで丁寧に身体の隅々まで拭いてやった。
その時、何をしたのか思い出した!
いつもならそんな場所までつけないのに、太股の内側から更に下、ふくらはぎの内側のやわらかな皮膚も吸いあげてしまった。
無意識だろうが、吸う度に微かに上がる声が官能的で溜まらなかったのさ。
仕方ないだろう。旅館にいる間中……元彼の存在をあんなに近くに感じたのだ。
大人の顔で始終対応したが、心の底では『独占欲の塊』になっていたのさ!
だが、やはり……すまん‼
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