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その後の三人『家へ帰ろう』12

「では私は飛行機の時間があるので、そろそろお暇させていただきます」 「もうそんな時間か。憲吾さん、お酒は飲めますか」 「まぁ、それなりに嗜みますよ」 「くぅ~お堅い人が酔うのを見てみたいですね。そうだ! 次回は一緒に飲みませんか」 「え……次回?」 「出張きっとまたありますよね?」  確かに函館には、これからもたまに出張に来ることになる。    なかなか鋭い男だ。大雑把そうに見えて、相手のことをよく見ているのだな。嫌じゃない……こういうタイプの人間は好きだ。 「お言葉に甘えて、また寄らせていただきます」 「やった! お待ちしていますよ。そうそう、宗吾を肴にして飲みましょう」 「宗吾? くくっ……変な意味で盛り上がりそうですな」 「あ……あの、それで……瑞樹のことを……」    突然声のトーンが変わった。兄の声だ……。 「はい?」 「瑞樹はとてもいい子なんです。可愛いヤツなんです。どうか可愛がってやって下さい。これからも――」 「あぁ、知っている。これからもそのつもりだ。ところで、瑞樹くんは何が好きかな?」 「瑞樹は甘党ですよ。甘いものならなんでも」 「……そうか、じゃあまた」  ふわりと自然と笑顔になれた。    笑うのが昔から苦手だったのに、自然と微笑むことが出来たのだ。  この私が……凝り固まった40近い男でも、変われるのか。  瑞樹くんの影響は大きい。  とにかく美智が喜びそうなお土産を買えた。出張先で土産を買うなんて初めてで、こちらまで柄になく緊張してくるな。  美智のよろこぶ顔を思い浮かべると、また口角が上がった。  ところが、函館空港の売店で悩んでしまった。    瑞樹くんと芽生にお土産を買ってやろうと思ったが甘いものって何だ? 売店にはチョコレートやクッキーなどの箱菓子が山積みだ。  函館銘菓とは……?  顎に手をあて悩んでしまった。 「パパぁ~買ってくれてありがとう、すごくかわいい」  すると父親に抱っこされた女の子が手に持っているものが、気になった。 羊‼  私の中のレーダーが、ピピピっと反応した。 「すみません!」 「え?」 「不躾なことを失礼します。あの……それはどこで買えますか」    驚かれたが、売っている店を教えてもらったので、直行した。  店頭には大小の羊のぬいぐるみが置かれていた。母の家で会った芽生が抱っこしていた羊はこの位の大きさだったから、その赤ちゃんサイズだと、これか!  今度は芽生の喜ぶ顔を想像すると、とても良い気分になった。 「羽田行きのお客様……間もなく搭乗手続きを開始致します」  まずいな、そろそろ時間がなくなってきた。 売店に舞い戻り、棚の端から端まで甘そうなお菓子を買い込んでしまい、これから機内に入るというのにとんでもない大荷物だ。案の定……座席上の棚に入りきらない。 「お客様、あちらでお預かりいたしますので」 「あぁ、すまん。買いすぎて」 「いえ、毎度ありがとうございます」  航空会社直営ショップだったせいか笑顔で深々とお辞儀をされ、恐縮した。  座席に座ってようやく一息ついた。  ふぅ……この私が、今までの出張では経験したことのない汗をかいたぞ。   今までは仕事が終わればとんぼ返りしていた。仕事場が変わっただけで旅行に来ているなんて意識はなかった。なのに……これはどうしたことか。  笑顔を浮かべさせたい相手が出来たのだ。  私もその笑顔につられて微笑んでみたくなったのだ。  **** 「憲吾さん、本当にありがとうございます。僕……甘いもの大好きなんです。あぁこの修道院クッキーもバター飴も懐かしい。なかなかこちらでは買えないので、本当に嬉しいです」  瑞樹くんが可憐な笑顔を振りまいてくれるのを見て、満足した。 「よかったよ。君の笑顔を見たかった」 「え? あ、はい。僕も憲吾さんの笑顔が見られて嬉しいです」 「え? 私は笑っていたか」 「はい。さっきからずっとニコニコと」 「そ、そうか」  いつも……ちゃんと笑えているだろうか。怖がらせていないか。などと気にしていたのに自然に微笑んでいたのか。 「ところで兄さん、俺にはお土産ないんですか」  宗吾が口を尖らせて言うので、すっかり失念していたことに気付いた。 「お前には、ふたりの笑顔がお土産だ」 「え! 参ったな~超がつくほど現実主義の兄さんがそんなロマンチックなことを! 悪くない! 最高だ。ははっ」  宗吾は上機嫌だった。 「憲吾さん、美智さんにもよろしくお伝えください。それから……函館で兄たちに会って下さって嬉しかったです」 「いい家族だな。あたたかく迎えてもらった」 「ありがとうございます。まさか憲吾さんに立ち寄っていただけるなんて……」 「君もたまに帰省してやるといい。お兄さん、会いたそうだったぞ」 「はい、赤ちゃんが生まれたら会いに行く予定です」 「それはいいな。喜ぶだろう」  私は電車、宗吾たちはモノレールなので、駅の改札で別れた。  とても後味のよい別れだった。  さぁ、家へ戻ろう。  美智の待つ私の家に。    ****  ケンゴおじさんとお別れして、モノレールに乗ったよ。 「あれれ? 芽生くん、お外を見なくていいの?」 「うんとね……あのね……」 「あぁそうか。さっきの羊さんを抱っこしたいの?」 「そう!」  お兄ちゃんは、すぐに分かってくれた。こういうところも大好き。 「いい? しっかり持っているんだよ。駅に着く前に鞄にしまおうね。ちゃんと守れるかな?」 「うん!」  そっと手の平で、ひつじさんの背中をなでてみる。  わぁぁ……ふかふか。  かわいいなぁ。  ひつじの赤ちゃん、ちいさくて、しろくて、もこもこで、すっごくかわいいなぁ。  そっと抱っこしたら、こころがほわんとしたよ。 「あ……そうか、お兄ちゃん……たいせつにしたいって、こういう気持ちなんだね」  

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