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その後の三人『家へ帰ろう』13

 芽生くんの言葉にハッとした。 「お兄ちゃんもパパも、タイセツなんだ」 「ありがとう。僕も芽生くんが大切だよ」 「わぁ、いっしょだね。いっしょのきもちっていいね!」  そうだよ。それが歩み寄る心のもとだよ。  一方通行でない想いが生き甲斐となり、自分も頑張れるし、相手のためにもいろいろしてあげたくなる。これって、いい感じの相乗効果だ。  とにかくそんな相手と出逢えたのは、人生において幸せなことだ。 「俺にとって芽生と瑞樹は、|掌中の珠《しょうちゅうのたま》だ」  「パパ、それなあに? どういういみ?  「あぁ、とても大事にしている人のことをそう言うんだよ。『掌中』は手の中のって意味で、『珠』は真珠や宝石のことだ」 「あ、わかった! 宝もののことだね」 「そうだ。芽生も自分の宝ものは大事にするだろう? 持っている宝石を大事にしない人はいないだろう? それだけ大好きってことさ」  宗吾さんがかみ砕いて芽生くんに教えてあげると、芽生くんはますますニコニコになった。 「うん! 僕の宝もの……ずっとずっとなくさないようにタイセツにするよ。もうリュックにしまっておくね。ひつじさん~おうちに帰ったらあそぼうね」 「偉いね。ちゃんとしまえて」 「だって……もうなくすのはいやだもん。赤ちゃんひつじ、ないちゃうもん」  芽生くんは自分のリュックにそっと羊をしまって、ほぅっと溜め息をついた。 「芽生くん、見て……お外が綺麗だよ」 「わぁ、キラキラだね。かえってきたんだね」 「そうだね。帰ってきたね、皆で」  ちゃんと帰ってくることが出来た……家族揃って、ここまで。  あの日叶わなかったことは、今日は叶う。 「でもね、お兄ちゃん、げんかんをあけて、ただいまーって、おうちのひとに抱っこしてもらうまでが遠足だって、ようちえんの先生がいっていたよ」 「あ、そうか。じゃあもう少しだね。よし、気をつけて帰ろうね」  家に帰ったら芽生くんを抱っこしてあげよう。  心の中で思っていると、宗吾さんに話し掛けられた。 「君が芽生を抱っこするだろうから、俺は瑞樹を抱っこしよう」 「えー、じゃあパパのことは誰がするの?」 「ん? パパは大人だからいらないよ」 「そんなことないよぉ~おばーちゃんがいってたよ。おとなだって抱っこしてほしいときがあるって」 「そ、そうか……芽生の言葉は深いな」  その通りだ。お母さんの言葉はいつも深い。  子供を抱きしめる大人だって、その肩を抱きしめて欲しい時があるのを僕は知っている。  大丈夫だよと優しく声をかけて欲しい時はある。  大人だって泣きたい夜がある。  不安に怯える時がある。  今の僕には……苦しみも喜びも分かち合える人が居る。  傍にいて、一緒に生きてくれる人がいる。 「そうだ。三人でまるくなってギュッとしようよ。みんなでだっこするの! どうかな~?」 「芽生くんは流石だね。それ、いいね」 「はは、よーし、家に帰ったら円陣を組もうな」  宗吾さんってば、また難しい言葉を。 「パパぁ~エンジンって、車の?」 「違う違う。3人で肩を組んで、輪になるのさ。スポーツの試合に前にやってたりするだろう」 「あぁテレビでみたことある。やる気がでるよね」 「ヤル気? おぉ! それだ」  宗吾さんの目がキランと光ったような?  宗吾さん? あの……今日ももうヤル気は必要ないですからね。  今晩は、もうお布団に入ってバタンキューですよ! 「な、瑞樹もヤル気を出そうぜ」 「い、いえ……もう夜ですから」 「夜だからの間違いだろ?」 「も、もう――、あっ、浜松町に着きますよ。降りないと」  モノレールの夜景を楽しむどころではなかったが、楽しい時間だった。  そこから電車を乗り継いで、最寄り駅に着いた。  見慣れた光景に、ホッとする。  そのまま僕たちの家に向かって歩き出す、一歩一歩。  外灯に照らされた影が伸びていく。 「わぁ……ボク、ウチュウジンみたいだ」 「ふふ、影が伸びて面白いね」  家族が揃えば、どこでも、いつでも和やかな時間が流れていく。  以前だったらおんぶを強請る芽生くんも、今日はぐずることなく元気に歩いている。 「芽生くん、疲れてない?」 「あのね、ひつじの赤ちゃんがいるから、ボク、がんばれるんだ」 「あ……そうなのか、それ、分かるよ」    僕も宗吾さんと芽生くんがいるから、頑張れる。  (本音を言うと、ホッとしたせいか、どっと疲れが出てきているけれども)    僕の顔を見つめた宗吾さんが急に立ち止まり、背中に乗れと合図してくる。 「瑞樹、君が一番疲れているだろう。ほら、おんぶしてやるよ」 「え? だ、大丈夫ですよ」 「じゃないだろう。夜道は人も少ないし、恥ずかしがるな。それに荷物は空港から送ったから身軽で、俺は体力が有り余っている。それにしても兄さんの土産の量、尋常じゃなかったな。とても持って帰れる量じゃなかった。あれをどうやってひとりで羽田まで持って来たんだ? 火事場の馬鹿力でもあるまいし」 「は……はぁ」 「お兄ちゃん、パパのおんぶって、のりごこちいいんだよ。いちどしてみて」 「ええっ! で、でも」 「ねっ!」  芽生くんに背中を押されては……いよいよ断れない。  結局、僕は宗吾さんにおんぶしてもらった。  宗吾さんの背中はお父さんみたいに広くて暖かくて……泣いてしまいそう。 「どうだ? 乗り心地は?」 「あ……いいです」 「姫抱っこはしたが、こっちはまだだったな。ははっ、体力温存しとけ」 「あ……っ、もう!」    逞しい体格と体力の宗吾さんは、男の僕をおんぶしても、平然と歩んでいく。  芽生くんは、宗吾さんのシャツに掴まって、しっかり歩いている。  なんて……なんて頼もしい人なのか。  この人となら、大丈夫。  そう信じられる広い背中を持っている。

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