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ゆめの国 22
おっと! 瑞樹と芽生と歩いている時は気にならなかったが、夜の『ゆめの国』は、甘い時間なのだな。仲睦まじいカップルがキスをしているのを、何度か見つけてしまった。
まぁ俺もさっきしたし、その気持ち、分かる!
「お、シーフードピザとチュロスも買っていくか」
抱えきれない程の食べ物を持って二人が待つ場所に戻ると、薄暗い場所で芽生と瑞樹が階段に腰掛けて、仲良くお喋りをしていた。
優しくて穏やかな瑞樹の笑顔を垣間見て、胸を撫で下ろした。
瑞樹、ごめんな。さっきは花火を見せないで、あんな場所で何度も何度もキスをして。
止まらなかったんだ。あまりに君が好き過ぎて。
触れた部分から好きが溢れ出す感覚、君にも分かってもらえるか。
そうだな、あのポップコーンワゴンみたいに……
ポン、ポン……ポン、ポン!
瑞樹が好きなこころが弾け飛んだ。
花火のように打ち上がった。
「芽生ー、瑞樹!」
少し離れた場所から呼びかけると、二人が満面の笑顔を出迎えてくれた。
うん! 笑顔っていい、安心できる。
「パパ~ おかえりなさい」
「宗吾さん、お帰りなさい! すごい荷物ですね。手伝います」
「あぁ君たちが何が好きか迷って、全部買ってきた」
「パパ~ うきわのパンある?」
「あるぞ!」
「やったぁ!」
ふかふかの絨毯の敷き詰められた豪華なレストランには連れて行けなかったが、結果……これでよかったのかもな。
背伸びしない、肩肘を張らない。
今の俺たちらしい夕食のスタートだ。
「レストランじゃなくて悪かったな」
「いえ、こういうの憧れていました」
「そうか」
「あ……美味しい!」
瑞樹がピザを食べならがら、嬉しそうに笑ってくれる。
芽生がうきわ型のパンを、どこからかじろうか迷っている。
「ほら、飲み物も買って来たぞ」
「何から何までありがとうございます」
「お兄ちゃん、パパにごほうびしようよ!」
「え……っ」
「こういうとき、外国だとほっぺにチュッとするんだよ。ここは『ゆめの国』だから、してもいいんじゃないかな?」
芽生……! いいこと言うな。ってか誰に習ったのだ?
「と、コータくんが言っていたよ」
「そ、そうなの?」
「じゃあ遠慮無く、強請るぞ~ 俺は芽生と瑞樹からのご褒美が欲しい!」
芽生と瑞樹が朗らかに笑う。
「じゃあ、せーの!」
ちゅ! チュ!
両サイドから柔らかなキスを受け、俺、最高に幸せだ。
芽生は男の子だし、もう何年かしたら絶対にこんなことしてくれなくなるよなぁ。そう思うと少しだけ寂しくなった。
瑞樹も同じ気持ちなのだろう。芽生が抱っことせがむ度に、心から嬉しそうに愛おしそうに抱きしめてくれる。だが、きっと芽生とはまた違う新しい信頼関係が生まれるのだろう。
俺も瑞樹も手探りだが、家族で成長していけたらいいな。
「瑞樹、尻、痛くないか」
「えっ‼」
瑞樹が卒倒するくらい驚くので「?」だった。あ、もしかしてまた勘違いしているのか~、全く可愛い奴だな。
「いや、ここ地べただから、あっちのベンチに移動するかってこと」
「あ……あはは……も、もう、紛らわしいです!」
「パパ、でも地べたもいいよ。いつもと違って、お花さんにちかいし、こっちの方がお空もよく見えるよ」
芽生がひっくりかえって夜空を仰ぐ。
「お空がきれいー 夜のピクニック初めて」
「あ、僕も……家族で夜のピクニックは初めてだ」
そういえば大沼のペンションに泊まった時、ふたりで星を見たよな。
星から君を隠して、キスをした。
あの時の君は……まだ星を怖がっていた。
だが……今はもう大丈夫なのか。
瑞樹もごろんと横になって、夜空を仰いだ。
「芽生くん……あのね、僕のパパとママと弟は、あそこにいるんだよ。お空の星になって僕を見守ってくれているんだ」
「そうなんだね。お星さまきいてください。ボクのお兄ちゃん、とってもやさしくて、だーいすきです」
「ありがとう。芽生くんと宗吾さんがいるから、もう怖くないよ」
ゆめの国にバイバイして、帰路に就いた。
「また来ようね」
「来年は彩芽ちゃんも一緒だ」
「おとまりしたいな~」
「提案してみよう」
ゆめの国から、現実の世界へ。
しかしこの家族の絆は、解けない。
夢でも現実でも、いつもギュッと結ばれている。
絆を結んだ俺たちの未来は明るいよ、瑞樹。
芽生はチャイルドシートに座った途端、コテッと眠ってしまった。
「もう寝ちゃったのか」
「あの、宗吾さん、こっちに来て下さい」
「ん?」
珍しく瑞樹が俺の腕をグイッと引っ張った。
「……さっきのキス、怒っていませんよ。でも僕からも……したかったんです」
チュ……
車の中で、瑞樹が自分から口づけをしてくれて、飛び上がる程嬉しかった。
「貰ってばかりだと、その……僕も男なので……時々……もどかしくなります」
頬を赤く染めながらも、言い切る君が格好良くて可愛くて、溜まらなかった!
『ゆめの国』 了
あとがき(不要な方はスルーです)
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ゆめの国も今日で終わりです。
なんと22日間も連載しておりました💕
半日程度の滞在なのに。
書いていて私も行った気分になり楽しかったです。
毎回、同じテンションやグレードでは書けませんが、1話1話心を込めて書いています。いつも読んでくださってありがとうございます。リアクションありがとうございます。更新の糧になっています。
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