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夢から覚めても 9
「帰省について来ませんかって……僕からお誘いしようと思っていたのですよ」
瑞樹からのひと言が、俄然俺を奮い立たせた。
だから、君への愛撫も熱心になるよ。
平らな胸も、男にしては細い腰も、ヒップへのラインも、ほっそりとした太股も……長い脛とキュッとしまった足首も全部愛おしい。
今宵も瑞樹という男の身体に、激しく欲情していた。
夜な夜な君を抱いては負担になると、翌日が休みの時以外は控えようと思っているのになかなか守れない現実だった。
「そ……うごさん、もう……そんなに触れられたら……僕……」
薄い肌掛け布団が暑くて、跳ね飛ばしたい気分だったが、万が一芽生が起きて突撃されたらと思うと……防御アイテムとして残しておかないと。
うっすら額に汗をかいて俺を見上げる瑞樹と目が合い、笑ってしまった。
「俺って、努力家だよな」
「くすっ、はい、そうくんは……いつもがんばっていますよ」
すでに蕩けてきた瑞樹が甘い言葉を投げてくれれば、もっともっと君を甘やかしたくなる。
「みーくんは素直になって偉いな」
幼子に言うような言葉とは裏腹に、平らな胸の突起を唇で挟んで引っ張り、指の腹を使って熱心に捏ねて、愛撫を続ける。
「ん……ん、もう、そこばかり……いや……」
俺の腹部に、瑞樹の高まりがあたり出す。
男同士だから何所をどう触れば、気持ちいいか熟知している。
「もうこんなになったのか」
指で輪を作ってリズミカルに扱いてやると、瑞樹の薄い胸が忙しなく上下していく。
「ああっ……だめ。そーくん、でちゃう、でちゃ……う」
ピシャッと手の内に生暖かい迸りが届いたので、俺の気分も最高潮になっていく。
「可愛い……瑞樹、君が大好きだよ」
「僕も大好きです。キスして……ほしいです」
素直に口を開いてキスを強請る様子がいじらしく可愛くて……止まらなくなる。
初めて君を抱いてから1年が経過した。
俺、よくこの身体を前に1年も我慢出来たな。最初の1年は寸止めの嵐で隠れて熱を鎮めるのに四苦八苦だったぞ。
「そうくん……まわりに赤ちゃんがどんどん増えますね。僕、そういうのは諦めていたんですが……兄弟に子供が生まれるのっていいですね。とても近しい存在で、嬉しくて溜まらないんです。だからかな? 広樹兄さんの赤ちゃんも見たくてたまらないんです」
潤んだ瞳でキスの合間に、瑞樹が話してくれる。いつになくお喋りな君が可愛くて、その額にちゅっとキスを落とした。
「でも……どんな赤ちゃんよりも一番大切なのは芽生くんなんです。芽生くんの成長が楽しみでしかたがありません」
泣けるひと言だった。
「ありがとう、瑞樹。俺たちふたりで柔軟に役割分担しながら……芽生を育てていこう。瑞樹がいないと駄目なんだ、もう――」
心からそう思うこと。
瑞樹以外の人なんていない。
「君じゃなきゃ……駄目なんだよ」
耳元で囁くと、瑞樹の身体がぶるっと震える。
「達したばかりなのに、そんな風に囁かれたら……困ります」
「ん? もう固くなってきているな。そろそろ挿入していいか。ここを使ってもいいか」
初めて繋がった時のように、優しく瑞樹の蕾を指で撫でると、瑞樹の顔がまた赤く染まった。
「なんだか……変になります。まるで最初に繋がった時のような……気持ちに」
「それでいいんだよ。何度でも戻ろう、俺たちは初心に」
「はい……来て……ください」
瑞樹自ら……そっと足を開いてくれた。
入りやすいように入れやすいように。
営みとは一方的な行為ではない。
瑞樹は俺を受け入れる側だが、瑞樹自身が俺を抱き寄せる。招き入れてくれるのだ。
「ふっ……」
挿入に伴いやはり慣れない異物感があるのか、少しだけ顔を歪ませる。
でもすぐに、ふぅ……と息をはき、微笑んでくれる。
優しくて優しくて……優しすぎる君を抱く度に、俺も優しい人になれる気がする。
瑞樹の身体を労りながら腰を深め、揺らしていく。
一つになっていく。
「あぁっ……」
「うっ」
清らかな清流に俺を誘ってくれる。
それが君との逢瀬。
****
「おはよう~パパ、お兄ちゃん! すこしねぼうしちゃったよー」
翌朝、芽生はゆっくり起きてきた。
おかげでお互い朝からシャワーを浴びて、すっきりだ。
「そうだ! ボク、きのう、しゅくだいやったかな?」
「くすっ、ちゃんとやっていたよ。はい」
「ありがとう! あれぇ また反対にかいちゃった」
芽生は消しゴムで『6』を消し、『9』と書き直していた。
「よく気付いたね。あのね、これはお勉強なんだから、間違えてもいいんだよ。ちゃんと自分で気付けてえらかったね」
「うん!」
昨日散々俺に啼かされたはずの瑞樹だが、もうその余韻は見事に消し去り、爽やかな笑みを浮かべていた。
和やかな朝、いつもの朝の始まり。
あたりまえの日常がやってきたことに、今日も感謝しよう。
「よーし、朝ご飯が出来たぞ~!」
「わーい! あ、パンケーキだ」
「そ、ご機嫌だからな」
「美味しそうですね」
「瑞樹、蜂蜜を持って来てくれるか」
「はい!」
さぁ、次の旅行は近いぞ。
先の楽しみがあると、俄然頑張れる!
今度は北の国に連れて行くよ、君たちを――
夢から覚めても……
潤いに満ちた現実が待っている。
それが俺たちの生活《ライフ》だ。
『夢から覚めても』了
あとがき(不要な方は飛ばしてください)
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今日で『夢から覚めても』が終わりました。
次は広樹兄さんの赤ちゃんの話を書こうと思います。
小学生編どこまで続けられるか分かりませんが、皆さんからのリアクションを糧に、ここまで毎日書き続けられました。本当にありがとうございます。
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