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湘南ハーモニー 6
「これ、よかったら、皆さんでどうぞ」
「わぁ、美味しそうなマドレーヌ!」
「近くのケーキ屋さんのものですが、とっても美味しくて」
「うれしい! 気取ったお菓子は食べた気がしないから、こういうの大好き!」
あ……よかった。やはりこれでバッチリだ。
持参する手土産で悩んでいると、宗吾さんが相談に乗ってくれた。菅野から聞いたご実家の様子を話すと、今回はお洒落なお菓子より、ボリュームのある食べやすい個包装の物がいいとアドバイスを受けたんだ。
だから素朴なマドレーヌにした。
宗吾さん、ありがとうございます!
心の中で、しっかりとお礼を言った。
「ありがとうね! みーずきちゃん‼」
バンバンッ――
「わわっ!」
お姉さんにまで『みずきちゃん』呼びされて、恥ずかしいやら嬉しいやら。
おまけに力強く背中を叩かれ身体がよろめき、猛烈に恥ずかしい!
女性に力負けって、ないよなぁ。
ますます照れ臭くなり、頬が熱くなる。
「わぁ~姉貴、よせって。葉山が折れる! コイツは俺みたいに頑丈じゃないんだ」
「あー そっかぁ、ごめん! ごめんね。みずきちゃん」
「ははは……大丈夫です」
そのまま押し黙ってしまうと、宗吾さんが機転を利かせてくれた。
「よーし、じゃあ早速泳ぎに行くか」
「あ、はい! そうですね!」
「ボクも早く行きたい~」
菅野もホッとした表情だ。
「じゃあ部屋に案内するよ。中に水着を着て行くから、準備してくれ」
「ありがとう。分かった」
通された部屋は八畳の和室で、窓からは、燦々とした光を浴びる海面が見えた。
「すごい!」
「へへ、ここは民宿で使っていた特別室だぜ」
「嬉しいよ!」
「あれ? 葉山って……そんな顔もするんだな」
菅野が照れ臭そうに笑っていた。
「え?」
「いや、冬のような男だって思っていたんだ。最初は……笑顔が硬くって。でももう全然違うんだな。春先の可憐は花みたいだ」
「ええ? そ、そうかな」
ううう、やっぱりさっきから照れ臭い。
「おーい、菅野ぉぉぉ」
「おっと、すんません! 宗吾さんの前で惚気て……いやいや、違いますって。じゃっ、退散しまーす!」
菅野がドタバタと階段を下りていくと、芽生くんがボソッと囁いた。
「パパ~ ファイトだよ!」
「おう!」
もうっ、この親子は!
「じゃあ、着替えましょう。芽生くんお洋服を脱いで」
「うん! ぬぎぬぎ~」
「宗吾さん、僕たちの水着を出して下さい」
「OK!」
興奮した芽生くんがポイポイと服を脱ぎ捨てていく。
こういう所は、宗吾さんそっくり!
「芽生くん、じっとして」
「おにいちゃん、砂浜でも遊ぼうね。貝も落ちているかなぁ」
「うんうん、一緒に遊ぼうね」
芽生くんが着替え終わると、下から呼ばれた。
「おーい、芽生坊、着替えたらこっちに下りておいで。ゆうとが遊びたいって」
「わぁ、パパ、お兄ちゃん、先に行ってもいい?」
「走り回ったら駄目だぞ」
「うん! いい子にしているから」
そんなわけで芽生くんがいなくなって、部屋には二人きり。
訳もなくドキドキしていしまうのは、僕の悪いクセだ。僕は宗吾さんを意識しすぎだろう。
「あの、僕の水着は?」
「まずは葉山の海で着たのでいいか」
「ありがとうございます。洋くんと色違いの、気に入っています」
「はは、さぁ脱いで脱いで」
宗吾さんがベルトに手を伸ばす。
「え? じっ、自分で着替えられますって」
「いいから、いいから。芽生の着替えを手伝ってくれたお礼だよ」
「そんなお礼、いりません!」
「じゃあ、こっちな」
シャツのボタンに手をかけられ……もう観念した。
嫌じゃない。こんな風に積極的にじゃれあってくれる宗吾さんが僕は好きなのだ。
「ところで、僕の荷物が八割って何なんですか」
「あぁ、水着を二枚、ラッシュガードも二枚。それから月影寺で着る洋服とあとは……そうだ、新しいジェルを買ったんだ」
ジェル‼
「だ、駄目ですって。そんなの……今回は使えません」
「だが、ちゃんと塗らないと、君が痛い思いをするだろう」
「なっ!」
カァァァっと頬が一気に火照る。
確かに受け入れる方なので、潤滑剤は必須だが……どうしてこんな真っ昼間から、そんな話をするんですか。キッと宗吾さんを睨むと、宗吾さんはポカンとしていた。
「ん。あのさ……瑞樹、まさかと思うけど変なこと想像してないよな?」
「してますよ! こんなお昼間から潤滑剤なんて!」
「じゅ? えぇぇ~」
「ええ?」
あ……まずい、クラクラしてきた。
僕またとんでもない想像を?
宗吾さんが取り出したジェルを奪い取って、がっくしと肩を落とした。
日焼け止めジェルかぁ……。
「……」
「ははは。嬉しいよ。いつもながら君の勘違いはもはや国宝ものだ。我が家の秘宝にしよう!」
「言わないで下さいよ~」
膝を抱えて顔を埋めた。
「葉山の海で、背中を火傷しちゃっただろ。だから念入りに塗ってやりたかったんだ。クリームよりジェルの方は伸びやすいんだってさ」
「うう……宗吾さん。こんな僕……嫌いになりません?」
「なるどころか、俺好みに育っていて嬉しいさ」
「それも、いやだなぁ……」
「ふっ、君はもう立派な変態さんだよ。ははっ」
もう、泣き笑いだよ。
結局、宗吾さんの卑猥な手によって背中に日焼け止めジェルを塗ってもらった。
途中で、手が滑ったとか……言い訳しながら、乳首を触られたりして散々だった。
「すべすべな背中だな。お姉さんに叩かれて手形がついていたらと心配したぜ」
「ぼ……僕はそんなやわじゃありません」
「そうだな。えらく感じやすいけどな」
「も、もう――」
これ以上は駄目だ。勃ったら出掛けられなくなる!
そこで助け船が入る。
「おーい。葉山。支度できたかぁ。遅いぞー!」
「わわ! 今下りるよ」
慌てて宗吾さんから逃れて階段を下りようとすると、パサッとラッシュガードを肩にかけられた。
「瑞樹、ちゃんと着て」
「あ、はい」
僕たち……イチャつき過ぎだ。
水着に着替えるだけでこの騒ぎだ。
でも……僕、楽しんでいる。僕の心と身体が、もっともっと、今を楽しみたいっと言っている。
海に向かう道すがら、とても清々しい気持ちだった。
真っ青な空に、白い雲。
太陽の光で輝きを増す海。
海を駆けてくる風に、もっと身を委ねよう!
少し伸びた髪が目にかかるので、手で退けると宗吾さんと目があった。
トクン。
背中を撫でたあの手を思い出して、トキメイテしまう。
僕は恋している、毎日あなたに。
僕は愛している。目の前のあなたを。
あとがき(不要な方はスルー)
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のんびりゆったり、時にイチャつき、時にほっこりは湘南ハーモニー。
楽しんでいただいていますか。
沢山の気持がダイレクトに伝わるリアクション嬉しいです。
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