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特別番外編『Happy Halloween 幸せな存在Ver.』
季節は巡り、10月下旬になっていた。仕事でも秋色のアレンジメントを作ることが多くなり、季節の移ろいを感じていた。
「そうか……もうすぐハロウィンなんだ」
今年は去年のような失敗はなしだ。芽生くんに寂しい思いはさせたくないよ。だから夕食の時、芽生くんに聞いてみた。
「芽生くん、今年もマンションで、ハロウィンの企画があるのかな?」
「ううん、お兄ちゃん、知らなかったの?」
「え? 何を?」
「今年は病気がはやっているから、マンションをまわるのは中止なんだって」
そういえば朝のニュースでインフルエンザの流行が例年より早くて、学級閉鎖や学校閉鎖まで出ていると言っていたから、その影響かな?
「そうか……残念だね」
「うん、つまんないな。でも……みんなはお家で、家族で、するんだって」
「へぇ、そうなのか。じゃあ我が家もやるぞ! で、何をすればいいんだ?」
宗吾さんの目がキラキラと輝き出す。
くすっ、子供みたいだな。
流石、広告代理店の営業マン、イベント好きですもんね。
「いいの? お兄ちゃんもしてくれる?」
「うん、もちろんだよ。芽生くんの好きなことをしよう!」
「本当にいいの?」
何度も念を押されたので、にっこり微笑んでOKすると、芽生くんが僕に飛びついてきた。
「あのねあのね、僕どうしても見たくって」
「ん? 何の話?」
「お兄ちゃんの、ようせいのかっこ」
「えっ?」
「だめかな? きっと似合うよ。お兄ちゃんはお花のヨウセイさんだもん!」
「え、えっと……」
するとバチッと宗吾さんと目があった。
「瑞樹~ 心配するなって。俺も仮装するからさ。芽生、俺は何になればいい?」
「えっとね、パパはハチミツが大好きなクマさんかなぁ」
「クマ~か、それはクリスマスの着ぐるみでやったから、違うのがいい」
わ、我が儘な人だな!
「じゃあ、ハチミツが大好きな狼さん!」
「ガォー! いいな。それ!」
いやいや、嫌な予感しかしないです!
「そういえば、芽生はなんの仮装がいいんだ?」
「ボク? ボクはお花のミツをあつめるハチさんになるよー」
わっ! ミツバチメイくん?
それは可愛い! それは見たい。
思わずウンウンと頷いてしまった。
「ハチさんとお花のヨウセイさんは仲良しなんだよ。だから、お兄ちゃん一緒にしよう」
「う、うん」
ミツバチメイくんからの可愛い誘いだ。これは断れないな。
「瑞樹、外にいくわけじゃないし、いいだろ?」
「分かりました! 僕はヨウセイになってみます」
「それでこそ瑞樹だ!」
宗吾さんが指を鳴らす。
その後、宗吾さんは翌日発送のネットショップで、僕たちの衣装を速やかに注文した。
「お兄ちゃん、楽しみだね」
「う、うん」
「あ、そうだ! オオカミさんに食べられないようにしないとね」
「それ!」
10月31日ハロウィン当日。
「うう、本当にこれを着るんですか」
『妖精になりきれるコスプレセット』
わわわ、思ったより本格的だ。明るい若草色のベルベットワンピースにオーガンジーのレースの袖。羽にはワイヤーが入っていて形を調整でき、オーロラ色が綺麗だった。
っと、感心している場合ではない。
スカートの丈が短いのですけれど~
「大丈夫さ、君の足はスッと真っ直ぐで綺麗で、すべすべしているしな」
「すっ、すべすべは余計です!」
こんな格好は絶対にしないと誓っていたのに、宗吾さんのワクワクした瞳に負けて、着た。あぁ……足下がスースして心許ないよ。
「あの、そういえば……宗吾さんは?」
「俺はこれ。ふふふ。瑞樹を食べるオオカミだぞぉ~」
ブスッ!
「いてて!」
「パパ、またヘンタイさんなこと言って~ ミツバチさんがやっつけるから、お兄ちゃん安心して」
一足先に黄と黒のボーダーのハチの着ぐるみ風衣装を着た芽生くんが、宗吾さんのお尻に、ハチの針のカタチの飾りを押しつけていた。
「うわっ、助けてくれ~毒がまわる~」
「お兄ちゃん~ 大丈夫」
「うん」
「お兄ちゃん、そのヨウセイさんのおようふく、すごくかわいいね!」
妖精の仮装をしたボクの周りを、ミツバチ芽生くんが「ブーン、ブーン」と言いながら、ぐるぐる回っているのが可愛くて、口もとが緩む。あぁ、僕って親バカかな?
「パパ、お兄ちゃん! はっぴーはろうぃん! おかしをくれないと、いたずらしちゃうよ」
「はい、芽生くん」
「ほら、芽生」
宗吾さんと事前に準備していたお菓子の袋を渡すと、芽生くんはピョンピョン喜んでいた。
「あのね、パパとお兄ちゃんもボクに言って~」
「なにを?」
「『おかしくれないと』って」
「あぁ、トリックオアトリート!」
「えへへ、どうぞ!」
ポンと手渡されたのは……た、大変だ!
「えへへ、おばちゃんとね、お買い物に行った時に、かってもらったんだ!」
それは、蜂蜜だった!
「ボクはハチさんだから、ハチミツだよ!」
「あ、ありがとう」
「芽生、最高の贈りものだな。早速今晩から使うよ」
え? 今晩、ハチミツって、まさか!
「え! いや、駄目、駄目ですよ!」
「なんで? 甘くて美味しいじゃないか」
「だってベトベトになってしまいます」
「それがいいんだよ。しっとり湿って食べやすくなるだろ」
去年はメイド服を着せられ、半裸の状態で練乳を塗られて……喘がされた。
僕、今年は……ハチミツ漬けに?
「おーい、食後のかぼちゃのホットケーキに塗るんだよ? 瑞樹ぃ~聞いてるか~」
「ホッ、ホットケーキですか~」
「くくくっ」
確かにホットケーキにも塗ったけれども、余ったから使おうと、夜、大人だけの時間になると、胸の尖りにたっぷりのハチミツを塗りたくられて、狼の仮装をした宗吾さんの餌食になった。
「あ……もう、もう……駄目。そうくん、そうくん! いや……」
「みーくん、かわいいな」
とろとろに溶かされたハチミツまみれの僕は、最後には自分から腰を振って、宗吾さんを迎え入れてしまった。
「可愛い妖精さんだな。しかも、かなりエロっ――」
「あっ……そうくん、もう、それ以上、食べないで」
「ダメだよ。みーくん、ガォー!!」
「あぁ……んっ」
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ハッピー ハロウィン!by 海
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