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湘南ハーモニー 39
ミラーボールの下で、芽生くんが嬉しそうに踊りまくっていた。
やっと芽生くんのよく知っている曲になったから、水を得た魚のように生き生きとしているね。随分渋い選曲もあったしな……僕もよく知らない曲まで登場して、本当に月影寺のmen'sってバラエティに富んでいるね。
頬を染めながら芽生くんの無邪気なダンスに付き合う薙くんも、可愛い。
「あの……宗吾さん、薙くんって何歳でしたっけ?」
「確か15歳だったはずだ。来年高校生になるって言っていたからな」
「わぁ……いいですね。15歳か……芽生くんもいずれあんな風になるのかな?」
「そうだな」
少し先の未来を見せてもらっている心地になっていた。
15歳の芽生くんにも、会いたいな。
僕……ずっとここにいたい。
そうなれるように、僕も毎日を大切に前向きに生きていこう。
以前にはなかった、未来への欲が生まれていた。
「もちろん君は15歳の芽生にも会えるさ。瑞樹はずっと俺たちと一緒だろ?」
「は……はい。いたいです、僕……ずっと」
「大丈夫だ。俺が君を離さないから」
宗吾さんが肩を抱いてくれたので、思わず寄りかかってしまった。
弱さも曝け出せる人だから、素直に甘えられる。
照明を落とした室内を見渡すと、ほろ酔い気分の洋くんも丈さんの肩にもたれ、そしていつもは凜としている翠さんも随分と気を許した表情で寛いでいた。その様子を流さんが暖かな眼差しで見つめている。
「宗吾さん……あの、流さんが『愛のめもりー』を歌った時、一部替え歌にしていましたよね? 僕の聞き間違いじゃなければ」
「あぁ……水仙を翠の香りと歌っていたぜ。アイツ、やるなぁ」
「そうなんです……あの、あの、それって……も、もしかしたら」
宗吾さんが、しどろもどろの僕を見て肩を揺らしていた。
「ふっ、みーずき、あのさ、ここにはいろんな恋があっていいんじゃないのか。この月影寺の中はそれぞれの愛で満ち溢れているから」
「あ……そうですね」
もしかしたら、もしかしたら……二人の関係は……そうなのかもしれないが、とてもお似合いだなと思った。
いよいよ音楽もラストで、盛り上がりも最高潮になっていた。
『あなたと』で薙くんが両手を大きく広げて、『あたし』で芽生くんが両手を胸の前で交差させて、最後はふたりで『サクランボ』と声を揃えて、親指と人差し指で丸を作って、両頬にあてて可愛くポーズしてくれた。
「可愛い!」
「ヤバイ、息子が可愛いすぎる」
「薙ー よくやった!」
「薙くんも芽生くんも最高に可愛いよ」
全員一致で、拍手喝采だ。
「そろそろ眠くなってきたな。よーし、明日片付けるから、今日はみんな早く寝ろ-」
僕も宗吾さんも芽生くんも、疲れ果てて部屋に戻るなりバタンキューだった。
今宵はいい夢を見られそうだ。
楽しく賑やかな夢を、きっと!
****
「最中くーん、待ってくださーい」
最中がスタコラサッサっと行ってしまうので、僕は一生懸命追いかけた。
逃すものか!
あの最中は菅野くんが買ってくれたものだ。
「待ってー 捕まえた」
そこで僕はつんのめって、最中くんと正面衝突。
ムギュ!!!
「わっわっわ、ちょっと待ってー ダメですって、僕の唇は菅野くんのものですから」
僕、最中くんとキスしちゃったよお~‼
明け方、自分の声に驚きながら飛び起きた。
「ゆ、夢か……」
うなされていたようで汗をかいていたので、額を手の甲で拭った。
その時、甘い香りが口元からしたので、慌てて唇を拭うと……
「ぎゃー! あんこがついている‼ なんで~」
しかも枕元で添い寝したはずの最中が、行方不明だ。
薄暗い寝室で、よく見えない。
慌てて電気をつけると……!
「わぁぁぁー」
「お兄ちゃん、うるさーい!」
隣の部屋から妹の怒鳴り声が響く。
「わわわ、どうしよう? 僕……最中を押し潰しちゃったのかな? うううっ、ぐすっ……最中くん、どこですかー」
枕に突っ伏して泣いた。
だって菅野くんにキスしてもらった唇が、あんこまみれに。
最中は跡形もなく消えていた。
「待て待て……僕……押し潰しただけでなく、無意識に食べちゃったの?」
流石に、自分が怖くなって……もう一度泣いてしまった。
菅野くんにしてもらったキスが消えてしまったショックは大きい。
「わーん!」
涙が洪水のように流れ出る。
「お兄ちゃんってば、もう~まだ5時過ぎじゃない、静かにしてよ」
「ううう、ごめん」
へっ? 5時!!
目覚ましを確認すると5時15分だった。
ガーン……
5時に僕から電話するって言ったのに~
するとそのタイミングでスマホが鳴った。
「ぐすっ、もしもし……ぐすっつ」
「え? 風太、どーした? 電話ないから心配したぞ。もしかして、寝坊しちゃって泣いているのか」
「ぐすっ、ちがくて……僕……夢で最中を食べちゃったみたいで……いや、起きたら本当に寝惚けて食べちゃったみたいで、あんこまみれなんです。うううう」
「あ……あんこまみれ!」
****
ワクワクして4時半から起きて風太からのモーニングコールを待っていた。
しかし、一向にかかってこない。
寝坊してしまったのか。
よし! ここは俺から電話してみるか。
少し残念な気持ちで電話すると、電話口の風太がめそめそ泣いていた。
朝から何事かと……よくよく聞いて、脱力した。
まさか添い寝した最中を夢現で食っちまうとは……
ん? ってことは、俺、またあんこに負けた?
うーむ、風太はかなりユニークな子だ。
それでいて猛烈に可愛い。
だから甘やかしてしまう。
「風太……泣き止め。最中ならまた買ってやる」
「うううっ……ぐすん」
あれ? なんで泣き止まない?
「でも……菅野くんにしてもらったキス……あんこで上書きしちゃいました。それが一番悲しいんですよ~」
ズキューン!
小森風太……君はなんて一途で可愛いんだよ!
「泣くな。何度でも俺が上書きしてやるぜ」
「ほ、本当ですか。こんな僕のこと嫌いになりません?」
「嫌い? 嫌いどころかもっともっと好きになった!」
「本当ですか!」
「そうだよ。取りあえず電話越しのこれで朝は我慢な」
柄にもなくに電話口に向かって、チュッとキスをした。
「か、菅野くん……僕もします……えっとえっと……ちゅ♡」
はぁぁ……やっぱり……風太は俺をダメにする。
朝から俺……もう君にメロメロだ。
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