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積み重ねるのも愛 1

水族館を堪能して時計を見ると、もう16時過ぎだった。  楽しい時間は、過ぎるのが早いな。 「さーてと、そろそろ帰るか」 「えー!! もう?」  芽生は今日遊園地に来られると思っていなかったので、ずっとハイテンションだった。だから案の定、途端にふくれっ面になってしまった。 「ボク……まだ、いたい! ここで、もっとあそびたいよ。のってないのいっぱいあるよ」 「おいおい、もう日が暮れちゃうぞ。今日はもともと買い物だけのつもりだったんだから贅沢言うな」 「……でもぉ」  芽生が俯いて、ほっぺたをぷぅと膨らませた。 「ほら、行くぞ!」 「やっぱり、いや! もっとあそぶ!」    俺はこういう時になかなか優しくできないので、ついキツい言葉を投げつけてしまった。 「芽生、あんまり我が儘言うな! ちょっと聞き分けないぞ!」  あっ、しまった……またやっちまった。 「うう……パパなんてキライ! あっ……」  芽生も俺に似て、こういう時は急に負けん気が強くなって言い返してくる。でも瑞樹に似た優しさも持っているから、すぐにその言葉を後悔して、うるうると涙を浮かべた。 「ううっ……ぐすん」  俺と芽生の様子を傍でじっと見守っていた瑞樹が、流石に我慢できない様子で、芽生の前にしゃがみ込んだ。 「宗吾さん、あのっ、僕、少し芽生くんと話しても?」 「あぁ……ごめん。俺も言い過ぎた、その……頼むっ」  あぁ……まだまだだな。  父親として俺は本当に未熟だ。母親がいない分、二倍の愛で包んでやりたいと思っているのに、あんなにキツい言い方をしてしまうなんて。  それにしても……芽生からの『パパなんてキライ』には凹んだ。   「宗吾さん、大丈夫ですよ」  瑞樹が俺の落ち込みを察してニコッと微笑んでくれるのが、天使のように見えた。   「芽生くん、もっといたいんだね、どうしてかな?」 「うん……楽しかったから。お兄ちゃんもパパも、すごくごきげんで楽しそうだったからぁ……」  芽生の切ない理由に、胸が痛くなった。    こんなに純粋に俺と瑞樹の笑顔を喜んでくれていたのか。悪い事したな。   「芽生くん、そうなんだね。僕も帰りたくないよ。芽生くんの笑顔が可愛くて、宗吾さんが楽しくって……とても名残惜しいよ」  お? そう来るのか。  事の成り行きを見守ることにした。   「お兄ちゃんも?」 「うん、そうなんだ」 「あのね……お兄ちゃんも? いっしょのキモチなの?」 「そうだよ」 「わぁ……うれしいよ」    芽生の涙は笑顔に変わり、頑なな心は解けていく。   「そうなんだ。だから今度はもっと早くからゆっくり来ない? 今日はもう暗くなってきて、寒いから」 「そうだね、その方がいいね。お兄ちゃんがおカゼひいたら、イヤだもん」  あぁ、こんな風に芽生の優しさを引きだしてくれる瑞樹が、俺は大好きだ。  胸の奥が熱くなってくる。 「芽生くん、ありがとう。パパもお風邪ひいたらイヤだもんね」 「あ……うん、パパぁ……さっきはごめんなさい」 「芽生! いいんだよ。パパも悪かった。ごめんな、乱暴だった」 「ううん。そんなことないよ! パパはつよくて、かっこよいよ」 「コイツ! かわいいことを」  芽生の言葉が、本当に有り難かった。  こんな俺を心から慕ってくれる我が子が、愛おしい。 「パパ、だっこー」 「おーし」  芽生を思いっきり高く抱っこしてやると、黒い瞳をキラキラと輝かせていた。 「パパ、だいすきだよ」  ちょっと冷えた、ぷるぷるの頬を擦り寄せてくれたので、俺もすりすりしてやった。 「わー! おひげくすぐったい」 「宗吾さんってば」 「はは、なんかホッとしたよ」 「また来ましょう。僕も来たいです! 思い出は何度でも積み重ねて行けばいいんですね」 「そうさ!」  マリンラインでの帰り道、ダウンコートの袖に隠れて、俺と芽生と瑞樹は手を繋ぎあった。 「えへ、ボクたち、チームだね」 「おう!」 「そうだね」 「あー はやくお家にかえって、コタツで、ぬくぬくしたいな~」 「いいね」  今日の寄り道は終わりだが、またしよう。  外は冷えてきたが、ポカポカな気持ちで帰ろう!  次は函館旅行だな。  それまで頑張って働こう! 「宗吾さん、明日からまた仕事が少し忙しくなりますが、今日の思い出と、これからの楽しみがあるので、頑張れます」 「俺も同じ気持ちだよ」 「ボクもしゅくだいがんばるよー」  みんなが同じ気持ちで前に向かっている。  ワクワク、ドキドキ。  日常がこんなに楽しいなんて――   あとがき(不要な方は飛ばしてください) **** 朝からバタバタしていて、更新が遅くなってしまいました。 昨日で「降り積もるのは愛」は終わりにしたのですが、寄り道の余韻に浸りたくなって、今日から「積み重ねるのも愛」という段を少し……函館旅行に行くまでの日常を少し書かせてくださいね。それぞれの仕事シーンもいれたいので。 それから、久しぶりに短編を書きました。 コンテスト参加作品です。 5000文字5分強で読めるピュアな物語です。よかったらどうぞ! 『今も初恋、この先も初恋』 https://fujossy.jp/books/23577  

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