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花びら雪舞う、北の故郷 1

 いよいよ今日から3泊4日で、函館旅行のスタートだ。  潤とは空港で直接待ち合わせをしている。  前回帰省したのは優美ちゃんが生まれた時だったので、半年以上前になる。お盆も年末年始も、生後間もない赤ちゃんがいる家に押しかけるのは、大変だろうと遠慮して、帰省しなかった。  それは潤も同じ気持ちだったようだ。  今回は、お店のカフェコーナーが好評で追加でリフォームしたので、部屋に多少のゆとりが出来たと、お母さんが熱心に誘ってくれた。だからビジネスホテルではなく、函館の家に泊ることになっている。 「瑞樹、出発するぞ」 「あ、はい!」 「おにいちゃん、早く早く!」  荷物が多いので、宗吾さんの車で空港まで行くことにした。  僕たちは紅茶色、白、ミルクティー色のダウンを着て、ご機嫌だ。 「しゅっぱつしんこう~」  芽生くんの明るい掛け声で車が動き出すと、一気に旅行気分が高まった。 「宗吾さん、運転をありがとうございます」 「おぅ! 向こうでは運転は任せたぞ」 「はい! 雪道はやはり僕の出番ですね……って、偉そうにすみません」 「いや、いいよ。君はもっと自己アピールした方がいい」 「は、はい」  去年の軽井沢・白馬旅行で、雪道を運転したのが懐かしい。  僕はやはり北国育ちの人間なのだ。雪の大変さ、辛さは承知の上で……都会で雪のない生活を続けていると、時折無性に雪が恋しくなってしまうんだ。  空港に着くと、黒いダウンを着た潤が立っていた。  潤のコートも、僕とお揃いだ。写真では見たが、生でみると、同じコートとは思えないほど、若々しく精悍に着こなしていた。 「やぁ、潤!」 「げげ! いつの間に宗吾さんまで、ダウン、お揃いなんすかー」 「えっへん、ボクもだよー」 「おー、芽生坊、元気だったか」 「うん、ジュンくんも元気だった?」 「おー、元気がありあまってるぜ」 「じゃあ、だっこして」  芽生くんがニコニコ手をあげると、潤が思いっきり高く抱きあげてくれた。 「芽生坊、今日はよろしくな」 「はーい!」  ……空港は僕にとって鬼門だ。  あれ以来、確実に空港が苦手になってしまった。  きっと宗吾さんも潤も、それが分かっているからなのか、常に僕の両脇を固めてくれ、楽しい話ばかりして、出発までの時間、気を紛らわせてくれる。  こうやって少しずつ、乗り越えて、慣れていくいのだろう。  きっとこの先もゆっくりとね。  芽生くんは、今日は潤にくっついてばかりだ。 「ジュンくん、今はなにをそだてているの?」 「おー、薔薇の手入れを任せれているんだ」 「バラ、すごーい!」 「芽生坊は何色の薔薇が好きか」 「えっとね。白かなぁ」  潤がこんなに子供の相手が上手だったなんて、知らなかったよ。 「どうした? じっと見て。なんかオレ、変か」 「いや、潤は子煩悩のパパになりそうだなって」  思ったままのことを言うと、潤が耳まで赤くして照れた。 「にっ、兄さん、よしてくれよ。俺たち……まだそんなんじゃ」 「え? もしかして何かいいことあったの?」 「やー、いやぁぁ」  潤が動揺し照れまくる様子に、宗吾さんと顔を見合わせた。 「瑞樹、これは夜飲みながら、吊し上げしないとな」 「え? 宗吾さん、怖いですよ」 「お、おい。何をこそこそ言ってるんだよ~」 「パパたち、しーっ、おしずかに」 「あ、ごめん!」  最近このパターンが多いね。  芽生くんを通して、お母さんの気質を感じたり、宗吾さんや僕に似た部分を感じると嬉しくなる。  芽生くんはちゃんと水を吸って成長している。    芽生くんのしっかりした所は、きっと宗吾さんのお母さん似なのだろうね。  人は一人で成長してきたわけでも、行くわけでもない。  いろんな人の手によって育ててもらい、背中を押してもらっている。  それを僕も忘れないでいたい。  この旅は……僕を10歳まで育ててくれた両親を辿ることになるだろう。 「兄さん、行こう!」 「あ、うん」  潤が僕の手首を掴んで引っ張った。  あの日繋げなかった手をしっかりと……!  僕もあの日で停まったままの、過去に置いて来た10歳までの僕を迎えに行こう!      僕の大切な思い出を、今度こそ探しに行くよ!  

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