935 / 1737
花びら雪舞う、北の故郷 1
いよいよ今日から3泊4日で、函館旅行のスタートだ。
潤とは空港で直接待ち合わせをしている。
前回帰省したのは優美ちゃんが生まれた時だったので、半年以上前になる。お盆も年末年始も、生後間もない赤ちゃんがいる家に押しかけるのは、大変だろうと遠慮して、帰省しなかった。
それは潤も同じ気持ちだったようだ。
今回は、お店のカフェコーナーが好評で追加でリフォームしたので、部屋に多少のゆとりが出来たと、お母さんが熱心に誘ってくれた。だからビジネスホテルではなく、函館の家に泊ることになっている。
「瑞樹、出発するぞ」
「あ、はい!」
「おにいちゃん、早く早く!」
荷物が多いので、宗吾さんの車で空港まで行くことにした。
僕たちは紅茶色、白、ミルクティー色のダウンを着て、ご機嫌だ。
「しゅっぱつしんこう~」
芽生くんの明るい掛け声で車が動き出すと、一気に旅行気分が高まった。
「宗吾さん、運転をありがとうございます」
「おぅ! 向こうでは運転は任せたぞ」
「はい! 雪道はやはり僕の出番ですね……って、偉そうにすみません」
「いや、いいよ。君はもっと自己アピールした方がいい」
「は、はい」
去年の軽井沢・白馬旅行で、雪道を運転したのが懐かしい。
僕はやはり北国育ちの人間なのだ。雪の大変さ、辛さは承知の上で……都会で雪のない生活を続けていると、時折無性に雪が恋しくなってしまうんだ。
空港に着くと、黒いダウンを着た潤が立っていた。
潤のコートも、僕とお揃いだ。写真では見たが、生でみると、同じコートとは思えないほど、若々しく精悍に着こなしていた。
「やぁ、潤!」
「げげ! いつの間に宗吾さんまで、ダウン、お揃いなんすかー」
「えっへん、ボクもだよー」
「おー、芽生坊、元気だったか」
「うん、ジュンくんも元気だった?」
「おー、元気がありあまってるぜ」
「じゃあ、だっこして」
芽生くんがニコニコ手をあげると、潤が思いっきり高く抱きあげてくれた。
「芽生坊、今日はよろしくな」
「はーい!」
……空港は僕にとって鬼門だ。
あれ以来、確実に空港が苦手になってしまった。
きっと宗吾さんも潤も、それが分かっているからなのか、常に僕の両脇を固めてくれ、楽しい話ばかりして、出発までの時間、気を紛らわせてくれる。
こうやって少しずつ、乗り越えて、慣れていくいのだろう。
きっとこの先もゆっくりとね。
芽生くんは、今日は潤にくっついてばかりだ。
「ジュンくん、今はなにをそだてているの?」
「おー、薔薇の手入れを任せれているんだ」
「バラ、すごーい!」
「芽生坊は何色の薔薇が好きか」
「えっとね。白かなぁ」
潤がこんなに子供の相手が上手だったなんて、知らなかったよ。
「どうした? じっと見て。なんかオレ、変か」
「いや、潤は子煩悩のパパになりそうだなって」
思ったままのことを言うと、潤が耳まで赤くして照れた。
「にっ、兄さん、よしてくれよ。俺たち……まだそんなんじゃ」
「え? もしかして何かいいことあったの?」
「やー、いやぁぁ」
潤が動揺し照れまくる様子に、宗吾さんと顔を見合わせた。
「瑞樹、これは夜飲みながら、吊し上げしないとな」
「え? 宗吾さん、怖いですよ」
「お、おい。何をこそこそ言ってるんだよ~」
「パパたち、しーっ、おしずかに」
「あ、ごめん!」
最近このパターンが多いね。
芽生くんを通して、お母さんの気質を感じたり、宗吾さんや僕に似た部分を感じると嬉しくなる。
芽生くんはちゃんと水を吸って成長している。
芽生くんのしっかりした所は、きっと宗吾さんのお母さん似なのだろうね。
人は一人で成長してきたわけでも、行くわけでもない。
いろんな人の手によって育ててもらい、背中を押してもらっている。
それを僕も忘れないでいたい。
この旅は……僕を10歳まで育ててくれた両親を辿ることになるだろう。
「兄さん、行こう!」
「あ、うん」
潤が僕の手首を掴んで引っ張った。
あの日繋げなかった手をしっかりと……!
僕もあの日で停まったままの、過去に置いて来た10歳までの僕を迎えに行こう!
僕の大切な思い出を、今度こそ探しに行くよ!
ともだちにシェアしよう!