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花びら雪舞う、北の故郷 16

 函館市内から1時間強、雪道をひた走った。  大沼市内に入ってからは景色がガラッと変わり、視界が真っ白になった。  大沼の冬は湖は凍り、駒ヶ岳も白く雪化粧し、街中一面の雪で覆われる。  これは懐かしい、僕の原風景――  この白さを憶えている。  この世界が僕のすべてだった頃を―― 道中、兄さんと気ままに話をした。  潤や母さん、みっちゃんと優美ちゃんのこと。そして僕からも、宗吾さんと芽生くんと過ごす日々のことを伝えた。  家族として近況報告を自然にし合えるのが、心から楽しかった。    「兄さん、地図を見てくれる?」 「おぅ! 任せろ。配達で鍛えた腕前だ」 「うん!」 「その先を右に曲がって」 「了解」 「よし、しばらく道なりだ」   バックミラーに宗吾さんが伸びをしている姿が映った。その横には可愛い芽生くんの手も見える。似た者親子だから起きるタイミングも一緒なんだね。 「そろそろ着くのか」 「え? もうつくの?」 「ふふ、二人ともお目覚めですか」 「おぅ! 芽生につられて寝ちゃったよ」 「ちがうよ。パパにつられてだよぉ」 「くすっ、寝落ちたしたのは同時でしたよ」  二人が窓の外を見て、歓声をあげている。 「すごい~雪だな」 「わー! 雪がいっぱいだぁ! スキー早くしたいな」  やがて眼前に赤い屋根と壁のコテージが見えて来た。 「兄さん。あそこ?」 「そうだ!」  赤いペンキで塗られた三角屋根のコテージは、雪を綿帽子のように被って、まるでカナダの家のような雰囲気だ。 「潤が見つけてくれたんだ」 「へぇ、アイツ、センスあるな」 「だよね。楽しみにしていたんだ」 「何だかさぁ、瑞樹の家みたいだな」 「兄さん……ありがとう」  来る前に宗吾さんと話したことを、思い出した。  いつか僕たちの家を建てよう。こんな感じの家がいいと約束したんだ。 「いつかね、こんな家に僕たちは住みたいんだ」  そう告げると、兄さんは目を細めて僕の頭をポンポンと優しく撫でてくれた。 「夢は叶うさ! 瑞樹の夢はきっと叶うよ」 「そうかな?」 「そうだよ」 「さぁ早く着替えてスキーをしようぜ。瑞樹とスキーをするのはいつぶりだ? 俺が高校の頃、よく教えてやったよな」 「うん、兄さんはとても上手だったよ」 「じゃあ……俺と最初にした時を、覚えているか」 「あ……」    あ、また一つ思いだした。  両親と弟を亡くし、どんどん引っ込み思案になっていく僕を見かねて、兄さんがお下がりのウェアを着せて、スキーに連れて来てくれたんだ。 ……  10歳になった年に両親を亡くし、お葬式の日に葉山の家に連れてきてもらった。  最初は事故のフラッシュバックに苛まれ、夜な夜な泣き叫んでいた気がする。 学校にはすぐに通えなかったし馴染めなかった。その年の夏は抜け殻のように過ごし、無気力なまま学校に通った。そんな僕を励まそうと兄さんが冬にスキー場に連れて来てくれたんだ。 「瑞樹、滑ってみろ」 「兄さん、無理だ……こ……怖いよ」 「大丈夫だ。お前の身体が覚えている。絶対お前は滑れるはずだ!」 「あ……」  兄さんが僕の前を走り出す。 「兄さん、待って、待って!」  すると僕も自然と滑り出していた。 「ほらな! ちゃんと瑞樹の身体が覚えているんだよ。お前はちゃんと出来る! だから自信を持てよ」 「あ……うん!」  何もかも失ってしまったと思った僕にも、出来ることがあった。それが嬉しくてスキーにのめり込んだんだ。お陰で中学高校と学校の体育で積極的になれたし、大会で賞も取れた。  広樹兄さんのお陰で、上達出来たんだ。 ……  コテージの鍵を開けると、宿泊の準備が既に整っており、ほのかな温もりを感じた。 「管理人さんがお手入れしてくれたのかな? 部屋がポカポカしているな」 「はい、きっとそうだと思います」 「お兄ちゃん、もうおきがえしていい?」 「いいよ。芽生くん」  芽生くんは待ちきれない様子で、自分のウェアを鞄から出して着替えはじめた。 「よいしょ、よいしょ、でーきた! どうかなぁ」 「ん! すごいね。自分で全部着られたね」 「えへん! お兄ちゃん、ボクもうすぐ2年生だもん」 「そうだよね」  芽生くんの黄色いとブルーのスキーウェア、よく似合っている。 「パパは? パパもはやくきて」 「おう? どうだ?」  ドキンとした。宗吾さん、カッコイイ!  赤いジャケットと黒いズボンでコーディネイトされた出で立ちに、かなりトキメイテしまった。 「みーずき、今、惚れ直しただろう?」 「え? そ、そんなことないですよ」 「俺、決まってんなぁ」  鏡を見てニカッと笑ってヘンなポーズを取る姿に、なんだかホッとした。  くすっ、いつもの宗吾さんだ。 「瑞樹ぃ、だがこの格好で転ぶのは格好悪いな」 「大丈夫ですよ。僕が特訓してあげますから」 「うう、雪国では運転といい、君にリードされてばかりだな」 「そんなことないです。夜には宗吾さんが僕をリ……」 (はっ! また引っかかった)  当たりとキョロキョロ見渡すと、芽生くんと広樹兄さんが仲良くお喋りしていた。  宗吾さんがヌッと近づいて、僕の腰を抱く。  そして耳元で…… 「ははっ、そっちのリードなら任せとけ‼ って広樹がいるのに、今晩抱いていいのか」 「だ、駄目ですー‼」 あとがき **** アトリエブログに補足画像を置いておきます。       

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