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花びら雪舞う、北の故郷 17

 軽井沢 「せんせ、いっくんのパパ、いま、どこにいるのかしってる?」 「そうねぇ……お空にいるのよ。うーんと高い所にね」 「おそら!」 「もしもし」をしたとき、ひこうきにのってかえってくるって、いっていたよ。よかった~やっぱり、ほんとうだった! 「あのね……あっくん、ぼく、やっぱり、うそついていなかったよ」 「へー! じゃあオレに見せてみろよ」 「つ、つれてくるもん!」  せんせいが、たかいところにいるって……  はやく、はやくきてよ……パパ。  ぼく、さみしいよぅ。 ****   「瑞樹もそろそろ着替えろ」 「あ、はい」 「なぁ、俺が手伝ってやろうか」 「いいですって、もうっ、あっちに行って下さいよ」 「ケチだなぁ~」 「け、ケチって」  宗吾さんは、相変わらず面白い人だな。  黙っていれば、精悍でカッコイイのに!  さっきまでスキーウェア姿にドキドキしていたのに台無しですよ。    まぁどんな宗吾さんも好きなのが、僕なのだが。  このウェアは、去年潤が買ってくれたものだ。  真っ白なウェアを着て、白馬のゲレンデを一緒に滑ったことを思いだした。  潤、今日は店番をありがとう。飛行機に乗り遅れないように帰るんだよ。  そして、いっくんを迎えにいってあげるといい。  僕も芽生くんの幼稚園のお迎えに何度か行ったことがあるが、子供はこちらが想像している以上に寂しがり屋だ。  今の潤なら、絶対にいいパパになるよ。僕が太鼓判を押すよ。 「あれ? 宗吾さん……?」    宗吾さんは、僕の着替えを見ていなかったようだ。いつの間にか広樹兄さんとキッチンで楽しそうに喋っている。 「仲良しだなぁ」    僕の大好きな人同士が、仲良くしてくれるのはいいものだ。  そうそう、宗吾さんと広樹兄さんは最初から気が合っていた。  宗吾さんとお付き合いして間もない頃に広樹兄さんが来てくれて、僕の入浴中に二人がかち合って……誤解から殴り合いになりそうで焦ったな。僕、あの時は焦って裸で飛び出して大失態だった。当時まだ宗吾さんとはキスしかしていなかったから、びっくりしただろうな。今はもう……何もかも暴かれてしまっているが。 「お兄ちゃんってば、いつまでおきがえしてるの~? タイヘンだよ! 今、パパみたいにニヤニヤしていたよ。きをつけないと」 「え! それはイヤだ……」 「あのね、おひるごはんを食べてからいこうって」 「いいね」  確かに! もうスキーウェアを着てしまったが、何かお腹に入れてからの方がいいだろう。スキーは想像以上に体力を使うし、1年ぶりだから、宗吾さんと芽生くんは、きっと転んでしまうだろう。   「瑞樹、ほら味噌汁だ。温まるぞ」 「わ! 兄さん、ありがとう」 「おにぎりを食べてから行くぞ」 「え? いつの間に」 「瑞樹がアレンジメントをしている間に、母さんが作ってくれたのさ」 「お母さんの!」  お母さんのおにぎりを食べるのは、久しぶりだ。大きなげんこつのようなおにぎりが、食卓に並んでいた。味噌汁は兄さんが即席で作ってくれたようだ。    宿泊がコテージだと聞いた途端、今日明日の食材をさっと揃えてくれた。いつでも頼りになる兄さん、ありがとう。 「嬉しいな。この丸い形……懐かしいよ」 「母さんさ、いつも忙しくて、三角に握る時間がなかったんだよな」 「でも……僕、この丸いの好きだったよ」  僕も高校時代は欠かさずお弁当を作ってもらった。花の仕入れや開店準備で忙しいのに、おにぎりだけはしっかり持たせてくれた。 「今度直接伝えるといい。母さんは瑞樹が大好きなんだから」 「うん! そうするよ」 「そのウェア……写真では見せてもらったが似合っているな。瑞樹にはやっぱり白が似合うな!」 「ありがとう。これは潤が買ってくれたんだよ」 「聞いた。俺も何か瑞樹に買ってやりたいよ」 「こうやって一緒にスキーをしてくれて、今晩泊ってくれるのが一番だよ」 簡単な昼食を食べてから、僕らは外に出た。 「わぁ、ふかふかの雪~♫」  芽生くんが大喜びで、ぴょんぴょん飛び跳ねている。 「雪だるま、作りたいなぁ……」 「おーし、まずは芽生坊が雪の感覚を思い出すために作ってみるか」 「わぁい!」  広樹兄さんは、面倒見がいい。 「ヒロくん、すごーい、すごい」  そして芽生くんは、人懐っこい。 「宗吾さん……こんなに和やかなのは、芽生くんだからなんですね」 「ん? どういう意味だ」 「僕の家族に溶け込み、馴染んでくれて……全部芽生くんだから出来ることなんですね」 「芽生は、もう君が育てた子だよ」 「宗吾さんの明るい性格を色濃く受け継いで、本当に僕は芽生くんが大好きです」 「何よりの言葉だ。瑞樹……」  広樹兄さんと芽生くんが夢中で雪だるまを作っているのを見守りながら、僕たちは雪降る中、自然に顔を近づけて……軽く唇を合わせた。  とても冷たいのに、とても暖かいキスだった  しあわせの音が今日もする―― 「瑞樹、このコテージの前で写真を撮らないか」 「あ、僕もそう思っていました」 「俺たちも、いつかこんな家を購入したいな」 「はい、僕も頑張ります」 「おぅ! 俺たちは二馬力だもんな」 「えぇ!」  僕たちはコテージの前で記念撮影をした。  広樹兄さんが、まるでお父さんのように張り切ってシャッターを切ってくれた。  その光景にハッとまた過去を想い出した。  最近……過去がとても近くまで来ているんだ。 …… 「瑞樹、夏樹、こっちにおいで」 「なぁに? お父さん」 「家の壁のペンキを塗り替えたんだ。ほら今度はペパーミントグリーンだぞ」 「わぁ、いい色だね」 「瑞樹の緑と夏樹のブルーを混ぜると、こんな色になったんだ」 「そうなんだね」 「さぁ、家の前で記念撮影をしよう。二人とも並んでご覧」 「うん!」 「お父さん、僕……この家が大好き。家族が大好きだよ」 「ありがとうな。父さんも瑞樹と夏樹の父さんになれて嬉しかったよ」  そこにお母さんが呼びに来る。  手には見覚えのある……あの日のバスケットを持っていた。 「お弁当が出来たわよ。さぁピクニックに出発するわよ」 「わぁい!」   ……  僕が過去に浸っていると、宗吾さんが察してくれ、肩を支えてくれた。 「瑞樹、せっかく故郷の近くまで来ているんだ。君のお父さんのことも引き続き調べていこうな」 「あ……はい……ありがとうございます」  果たして、何が見つかるのか。  忘れていた大切なものが見つかる……そんな予感に包まれる。   あとがき **** 昨日のアトリエブログに瑞樹のスキーウェア姿も足しておきました。 カッコイイです!

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