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花びら雪舞う、北の故郷 28

「潤くん、お代わりいる?」 「いいのか」 「もちろん。お米、今日は2合も炊いたのよ」 「へー 俺ひとりでいつも1合は軽く食べるよ。カレーならもっといけるかな」 「そ、そうなんだ」  菫さんの手作りだと思うと、本当に美味しくて、あっという間に平らげた。  不思議なもので、食べるともっと食べたくなるんだよな。 「パパ、いっくんのもたべる?」 「いやいや、いっくんは沢山食べて大きくならないと」 「潤くん、どうぞ!」 「いただきます~」  バクバク食べる俺を、菫さんといっくんがニコニコ見守ってくれる。 「気持ちいい程、良く食べてくれるのね」 「そう? 美味しいからだよ。なぁ、もっとある?」 「え⁉ もう売り切れなの。ごめんね」 「え? オレそんなに食べた? ごめん。今度米を持ってくるよ」 「いいわよ、そんなの」  オレと菫さんの会話を聞いていた、いっくんがニコニコ笑顔になる。 「ママ、きょうから……パパ、ずっといっしょだよね?」 「え? 今日は特別よ」 「え……パパぁ、またいなくなっちゃうの。ぐすっ――」 「いっくん……」  ここは思い切って……   「なぁ菫さん、オレたちすぐにでも一緒に暮らさないか。オレのこと、どうか信じて欲しい」 「信じてるわ……私、潤くんのこと信じられる」 「ありがとう。前向きに考えてくれ。焦ってるんじゃない。最初からストンと落ちる気持ちがあるって、信じて欲しい」 「私もよ、潤くん」  その晩、いっくんを挟んでオレたちは川の字で寝た。  こんなに清らかな気持ちになれるのは、全部いっくんのおかげだ。  菫さんにもっと触れたい気持ちは、もちろんある。  でも今はそれよりも、いっくんと菫さんと川の字で穏やかに眠りたかった。 「同じ気持ちよ」  菫さんが目元を染めて、伝えてくれる言葉が、また嬉しかった。  明け方ふと目覚めると、菫さんがパジャマのまま、カーテンの隙間から空を見上げていた。  なんとなく、亡くなったご主人に報告している気がした。  暫く見守った後、そっと華奢な肩に毛布をかけてやった。  こんなきめ細やかなことが出来るようになったのは、全部兄さんのお陰だ。  オレ……気付かないうちに、兄さんからいろんなこと教わっていたのだな。 「あ……潤くん……起こしちゃった?」 「いや、起きたくなった。菫さんと話したくて」 「私もよ。潤くんって見かけはワイルドなのに、きめ細かいのでびっくり。あと……まだ若いのにまるで何人か子供を育てたように、寄り添うのが上手よね」 「それは……全部、兄から教えてもらったんだ」 「お兄さん、優しい人なのね」 「あぁ……最高の兄さんだ。優しい兄と頼もしい兄がいるんだ。オレ、末っ子なんだ。兄たちから教えてもらったこと、菫さんといっくんにしてあげたいんだ」  菫さんが優しく微笑む。 「私にも兄や姉がいて……末っ子なの。私も……私も潤くんを幸せにしてあげたい」 「オレ……そんな資格ないよ?」 「何言っているの? 潤くんには充分に資格があるわ。だっていっくんを見つけてくれた。いっくんのパパになるって言ってくれたわ」  オレは自然に、菫さんを背後から抱きしめていた。 「菫さん……オレでいいか」 「潤くんがいい」  空からはまた雪がちらちらと降り出していた。  亡くなった旦那さんからの贈り物のよう感じた。  雪景色を背景に、オレと菫さんは初めて口づけを交わした。  約束のキス。  幸せなキス。  こんな神聖なキスは初めてだ。 「菫さん、ありがとう」 「ありがとう……潤くん」 「ムニャムニャ……パパぁ……」  可愛い寝言を聞きながら、幸せを噛みしめた。 **** 「菫さん、準備OK?」 「うん!」 「じゃあ行こう」  オレと菫さんでいっくんの手を繋いで、保育園に向かった。  オレと菫さんの決心は、朝になっても揺らがない。  すると保育園に通う道で、いっくんの足が止まった。 「どうした?」 「……あっくんが……」 「あぁ、昨日の」  昨日、いっくんに酷いことを言ってしまった子供か。  昔のオレなら、酷い言葉を浴びさせていたかもな。 「いっくん。堂々としていよう。オレもいっくんも男だ」 「わ! うん! いっくん、パパみたいにかっこよくなりたい」 「よし、じゃあ顔をあげて、堂々としようぜ」  オレと菫さんといっくんは、足並みを揃えて、堂々と彼らを追い抜かした。 「え? いつき……のパパ? ほんとうにいたのかよ?」  そんな動揺した声が、聞こえてきた。 **** 函館 「まぁ飲め飲め」 「日本酒か」 「あぁ函館の酒だ。珍しい古代米で作っているんだ」 「おう!」  広樹と俺は、瑞樹を待たずに宴会を始めてしまった。 「しかし広樹、準備良すぎるだろ。おつまみまで用意しているなんて」 「今日は瑞樹と潤がアレンジメントを作ってくれたから、時間があったんだ」  カレー以外におつまみまで作っていたなんて、驚きだ。 「ほれ飲めよ」 「お、おう」  しかも、勧め上手だ。 「なんだかハイピッチで飲まされているような?」 「はははっ、まぁ……瑞樹の安眠のためだ。許せ」 「ん? どういう意味?」 「いやいやこっちの話だ。他に何か食いたいもんあるか」 「そうだな。ちょっと箸休めに甘いもんが欲しい」  これが、余計な一言だった。 「あぁ、それならいいもんがある。チョコは好きか」 「好きだが」 「じゃ、じゃーん!」  げげっ、これって瑞樹がさっき匂わせていた『チョコ練乳』じゃ。 「実はホットケーキも焼いてきたんだ。今、温めてやるから待っていろ。チョコレートがけは旨いよな~」 「あっ、ちょっ……」 「あぁこれ、瑞樹が夜のデザートにって、スーパーで選んでいたんだけどさ、もう寝てしまったし、オレたちで食べちゃってもいいよな?」  よくないー!!  だが、時既に遅し。    夢にまで見た憧れの練乳チョコは、俺のリアルデザートになり、俺はもうすぐ潰される。 「はははっ、今日は瑞樹も疲れているから、潰れろ」  また意味深なことを言って……  豪快な広樹に、俺は見事に潰された。       

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