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憩いのダブルデート 2

「練乳? 何のことですか。そんな匂いはしないですよ」 小森くんにもう一度クンクンと嗅がれて、もう真っ青だ!  つい先ほどまで宗吾さんと抱き合っていたことが見透かされるようで、猛烈に恥ずかしいよ。 「あ~ 分かりました! これはお花の香りですね」 「へ?」 「ボディクリームとシャンプーが、お揃いでしょう!」 「!!」  ズバリ正解! と喜んでいる場合ではなく、僕の顔は引きつっていた。    すると宗吾さんが苦笑しながら間に入ってくれた。 「小森くんよ、君の鋭さは芽生以上……いや芽生以下とも言えるな」  隣で菅野が抱腹していた。 「葉山は慌てすぎ! ってか、また練乳使ったのか。もう清楚な葉山のイメージがガラガラだよ」 「だ・か・ら、今日は使ってないって! へ……変な想像すんなよ」 (あれ? また墓穴掘った気がする) 「くくっ、葉山でも怒るんだ」 「も、もう――」  そんなやりとりをしながら、なんとか軌道修正しようと思ったのに、またもや小森くんが、突っ込んでくる。 「あれあれ? 滝沢さんも同じ香りですね。しかもこれはまだ時間が経っていないですよ。やっと分かりました。朝から二人で仲良くお風呂に入ったんですね」  それも正解だ。  宗吾さんが顎に手をあててニヤニヤ笑いながら、誘導質問を始めた。 「小森くん、俺たちがどうして朝、風呂に一緒に入ったと思う?」 「うーん、汗をかいたからですか」 「どうして汗をかいたと思う?」 「ええっと、運動したからですよね?」 「そうだ、その調子だ」  何がですか! もう宗吾さんは……  僕たちが先ほどしたことが明るみに出るようで、もう真っ赤だ。 「あーコホン。じゃあさ、この先は葉山が直接こもりんに伝授してくれ」  菅野にポンポンと肩を叩かれて、「嫌だー!」と叫びたくなった。  しかし小森くんの無邪気な顔を見ていると、憎めない。 「なぁ、取りあえず暑いから、ソフトクリームでも食べようぜ」  宗吾さんの助け船に感謝しようと思ったのに、やっぱり違った。  カッカとしたのでソフトクリームがひんやりと美味しくて、舌でペロペロ舐めていると、宗吾さんと目が合った。 「瑞樹は相変わらず色っぽい食べ方だな」  その言葉に、また小森くんが反応する。 「はい、来た! 『色気伝授』の時間ですね」 「そうだ。瑞樹が食べる姿をよーく見ておくといい」 「宗吾さん? 僕はただ普通に舐めているだけですよ? 別に色気なんて振りまいていませんが」  そこまで話して宗吾さんが妄想していることに、はたと気が付いた。   「ま、まさか……!」  宗吾さん、僕で遊んでいません? 「小森くんは、あの舌の使い方をインプットしろ」 「はぁい! ペロペロ舐めるんですねぇ」  脳天気な小森くんの声。  もしかして僕だけ、百面相しているのでは?  もう……色気伝授とやらをさっさと終わらせて、気まずい雰囲気から解放されたいよ。 「小森くんをちょっと借りても?」 「お! 葉山、やる気になったのか。あぁ修行に出そう」 「ふたりであれに乗ってきます」  小森くんの手を引いて観覧車に乗り込んだ。 「わぁ~ 観覧車なんて久しぶりです」 「いいかい? ここで恋人同士がすることが何か分かる?」 「えっと、手を振り合う?」 「……いや違う」 「じゃあ、写真を撮り合う?」 「……そうじゃなくて」 「うーん、あ、分かりました」 「何?」 「手を繋ぐんですね」 「よし、その後は?」 「手を振る?」 「それじゃ逆戻り」 「んー?」 「これだよ」  言葉で説明するのが恥ずかしくなって、小森くん相手にキスをする真似をすると、小森くんが顔を赤らめた。 「ひゃあ~ 駄目です。僕にはかんのくんがいるのにぃ~」 「へ? いやいや、だからこういうことを菅野とするんだよ」 「あぁそういうことですか。キスならしょっちゅうしていますが、ここでもするといいんですねぇ」  相変わらず呑気な答えに、菅野がキス以上の進めないことに悶え苦しんでいるのを察し、同情した。こうなったらやはり僕が親友のために一肌脱ぐしかないのか。 「キスの次は何をするか知っている?」 「知っていますとも! 胸にあんこを塗って、チュッ、チュッ……ですよね」  こもりんが照れ臭そうに言うので、僕もかなり照れ臭い。  菅野……君に本当にこの幼子を抱ける日が来るのか。 「あんこはなくてもいいんだよ」 「はい。それもしたことあります」 「ううう……じゃあ、その次は……もっと強く深く繋がりたいと思ったことは?」 「あります!」 「良かった! 一応、知識と関心はあるんだね」 「はい。だからまた手を繋ぎます」 「いやいや、いやいやそれじゃまた逆戻り。そこを繋がるんじゃなくて……その」 「手じゃないんですか」 「うん」 「じゃあ足ですか」 「えっと足の付け根の……その……あぁぁぁ」  頭を抱えていると「到着しました」っと、声がかかった。 「ただいま~ 地上に生還しましたよ」っと、ピョンっと元気よく降りる小森くんと、よろけながら降りる僕。 「瑞樹、無事か」 「こもりん、無事か」 「ふふふ、葉山さんに壁ドンされてしまいましたよ」  し、していないし! 「え?」 「ええええ」  菅野と宗吾さんが目を見開いて、一斉に僕を見る。 「今度は菅野と小森くんで乗ってきて」 「瑞樹、俺たちも乗ろうぜ」  宗吾さんと二人きりになって、漸く落ち着いた。 「瑞樹、お疲れさん。こっちに来いよ」 「……はい」  あの日のように、僕たちはくちびるをそっと重ねた。   「んんっ……」   はぁぁ、他人に恋の手解きをするのって難しいな。  でも結局はどんな知識よりも、頭より身体が動くのが自然だろう。  僕と宗吾さんが自然に引き寄せられるように、菅野と小森くんも今頃きっと……  観覧車が一周する間中、僕の唇は宗吾さんに奪われていた。  昔、一馬としたことを塗り替えてもらっている。  そう思うと僕も積極的に、彼の舌を受け入れた。  宗吾さんとのキスは、いつも気持ちいい。  心が揃っているから。  観覧車から降りると、菅野たちの姿が見えなかった。 「あれ?」 「あそこだ」  近寄ってみると、小森くんがベンチに体育座りで耳まで真っ赤にして蹲って、菅野がオロオロしていた。 「こもりん、どうした? 具合が悪いのか」 「……ううう」 「小森くん、大丈夫?」 「あ……師匠~」  縋るような目に、ピンと来た。 「あの、少し二人で話しても?」 「了解! 誰も近づかないように見張っているよ」  僕は小森くんの事情を察した。 「大丈夫、そこ……辛いの?」 「……師匠の教え通り、ちゅーしたんです。そうしたらここがジンジン固くなって、どんどん痛くなって」 「それがどういう現象か、分かるよね」 「……はい」 「楽になりたいよね」 「もしかして、菅野くんもこんな風になっていたのですか」 「男なら気持ち良くなったらそうなるものさ。菅野も同じだよ」 「どうしたら楽になるんですか。僕、菅野くんを救ってあげたいんです」 「それは……ええっと、さっきのソフトクリームを思い出して」 「なるほど、胸はあんこで、ここはソフトクリームなんですね」 「まぁ、そういうことかな」  色気のない発言だが、それは置いておこう。 「今度……ソフトクリームみたいにしてあげるといいよ。それで小森くんも同じ事をしてもらうといいよ」 「はい! 師匠の教えは食べ物に絡んでいるので、とっても分かりやすいですね! あのあの、僕も少しは色気を纏えましたか」  無邪気な瞳に『全然』とは言えず、曖昧に笑うしかなかった。 「あ……落ち着いてきました」 「良かったね」  僕も以前、宗吾さんと最後まで繋がるまで、一年間、悶々とした日々を過ごしたので、こんな風にベンチでモゾモゾしたことがあった。  今となっては、それも懐かしい日々だ。 「初々しい今の時期も大切にね」 「ありがとうございます。『色気師匠』のように、いつかは朝からお風呂を目指して、精進致しますね」  大きな声で小森くんが返事をするのを聞いた宗吾さんと菅野の背中が、ゆさゆさと大きく揺れていた。   あとがき(不要な方はスルー) **** 瑞樹……本当にお疲れ様です(^0^;) 案の定、瑞樹が一番恥ずかしい思いしていますよね。 しかし、こもりんの恋の指南には根気がいりますね。 書いていて……最近は宗吾さん化しつつある瑞樹にも、似たような時期があったことを思い出し懐かしくなりました。一年間、宗吾さんも本当によく耐えました。 この後は、少しロマンチックなダブルデートにたぶん……なっていきます。もう少しお付き合い下さいませ。

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