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賑やかな日々 4 (瑞樹誕生日special)

「じゃあ早速採寸しましょう」 「……はい」 「えっとお名前は?」 「……葉山瑞樹です」 「綺麗なお名前ですね。じゃあ瑞樹さんと呼ばせて下さいね」 「えっ……あっ、はい」  瑞樹が心配そうに、チラチラと俺を見る。    やはり初対面の男性には、恐怖心を抱いてしまうようだ。きっとまだほんの少しの恐怖と警戒心があるのだろう。  だから俺は瑞樹の真正面に立って、安心させてやる。 「大丈夫、大河さんは安全だ」 「はは、その通りですよ。宗吾さんのお墨付きですよ」 「……何だか、僕……いろいろとすみません」  瑞樹が頬を染めて恐縮する。 「よし、採寸は終わりです。次はデザインを決めましょう」 「はい」  大河さんがスケッチブックを取り出して、瑞樹にあれこれ質問を始めた。 「失礼ですが、お仕事は花関係ですか」 「え? どうしてそれを?」 「単なる直感です。もしかして当たりました?」 「わ! その通りです。僕の職業はフラワーアーティストです」 「では当日もお花のことで手伝ったりするのですか」 「そうですね、そうしたいです」 「では、ベースは動きやすいシンプルなブラックスーツにしましょう。今後もあらゆる場所で使えるように」  ブラックスーツは日本では一番ポピュラーな式服で、昼夜を問わず着ることが出来る。レセプションやパーティー、結婚式……きっと今後の瑞樹の役に立つ。 「結婚式はお身内のガーデンウェディングとお聞きしましたが」 「その通りです」 「では少し抜け感を出した方がいいですね。屋外の風が吹き抜ける雰囲気に合わせて、柔らかい着こなしはいかがですか」  瑞樹はこのような提案には慣れないようで、戸惑っていた。 「えっと……抜け感?」 「瑞樹、ヘルプか」 「そ、宗吾さんが見立ててください。僕は自分に何が似合うのかよく分からなくて」  なんとも謙虚なことを。    誰が見ても美形だと認める上品で繊細な顔立ちに、性格の良さが滲みでている目元、口元。王子様キャラをまっしぐらに歩む君なのに。 「分かった、分かった。俺が相談にのるよ」 「宗吾さんの恋人は、スズランのように慎ましい人ですね」 「大河さんは流石プロですね。人を見る目がある」 「ははっ、俺は虎ですから虎視眈々と観察しているんですよ」 「やっぱりトラさんだ~ トラの絵もかいてみようっと」  芽生は小さな椅子に腰掛けて、楽しそうにお絵描きを始めた。 「ブラックスーツの中は、芽生くんと同じサムシングブルー、つまり優しい水色で遊び心を取り入れるのはどうでしょう?」 「いいですね。それで進めて下さい」    大河さんがさらさらと鉛筆を動かし、あっという間にデザイン画に色が付いた。  ブラックスーツに淡い水色のベストとアスコットタイ。  瑞樹によく似合いそうな、洗練された美しい式服だ。 「これはとても素敵ですが……僕は目立たないように白いネクタイでも」  おっと、また瑞樹が遠慮し出す。 「瑞樹、身内だけの式だしガーデンウェディングだ。柔らかい雰囲気が似合うよ」 「そうですよ。大切なお式なら尚更、参列者が華を添えるのも大切ですよ」  優しくアドバイスされ、瑞樹も素直に受け入れて行く。  うん、きっと似合うさ。  芽生と並んで天使のような瑞樹になる。  つい頬が緩む。 「で、では……少しまだ恥ずかしいですが、これでお願いします」  ふぅーっと、高揚した息を吐く瑞樹。  頬が上気して、愛くるしいな。 「きっと似合うよ」 「この水色の生地でいかがですか」 「わぁ、綺麗な色ですね」 「『晴れた昼間の空のように淡く明るい青色』のことで『空色』と呼ばれる色です」 「空色ですか、ガーデンウェディングにぴったりですね」  空は、瑞樹の大切な人が眠る場所だ。   だから安心する色だろう。  嬉しそうに目元を細める様子に、俺も安堵した。 「きっと似合うよ」 「宗吾さん、ありがとうございます。潤の結婚式に、僕自身で華を添えられるなんて……そんなこと考えていなかったので新鮮です」 「大方、裏方になって働こうと思っていたんだろう」  図星のようで、瑞樹の耳が赤くなる。 「潤くんも、瑞樹の幸せそうな姿をずっと眺めていたいはずさ」  今から、結婚式が楽しみだ。 「パパ、次はどこにいくの?」 「デパートの特別食堂にいこう」 「とくべつ? 楽しみだな」 **** 「すごい! こんなごうかなおこさまランチ、見たことないよ」 「ははは、これは『王国ホテル』のだからな」 「宗吾さん『王国ホテル』のレストランに行くのは気後れしますが、デパートの中なら気軽に入れますね」 「瑞樹なら、そう言うと思ったよ。今度本場にも連れて行くよ」  きょうはお兄ちゃんのおたんじょう日。  ボクとパパは、今日のために何日も前からジュンビしていたよ。  お兄ちゃんのとびきりのニコニコがみたいから。  だってボクとパパはお兄ちゃんのことが、だーいすきだもん。 「芽生くん、ランチの後は、芽生くんの好きなお店に行こう。どこがいい?」 「うーんとね、えんぴつとかが売っているお店」 「文房具やさんかな?」 「そう、それ!」 「宗吾さん、どこがいいと思いますか」 「そうだな。伊西屋なんてどうだ?」 「あそこならビルごと文房具やさんですものね」 「そうそう」  おいしいお子さまランチをたべたあとは、ブンボウグやさんにつれてきてもらったよ。     ここならきっとあるよね? 「芽生くん、何を探しているの?」 「えっとね……シャシンをいれるもの」 「それってアルバムかな?」 「そう、それ!」  あのね、ボクね、お兄ちゃんにアルバムをプレゼントしたいの。 「お兄ちゃんの大好きな人のシャシンをいれて、お兄ちゃんがいつも持ち歩けるようにしたいの。だってね、そうしたらね。もう、さみしくないでしょ?」 「芽生くん……」  お兄ちゃん、泣きそうだ。 「お兄ちゃん、泣かないで」 「嬉しくって。そんな風に言ってもらえて……嬉しくて」 「お兄ちゃんは大好きな人と、もうはなれちゃダメなんだ」 「うん、うん……僕、ちゃんと大好きな人達の写真を入れて持ち歩くよ」 「えへ」  ボクのきもち、ちゃんと伝わったかな。  すると、パパがとってもいいものを見つけてくれたよ。 「芽生、こんなのがいいんじゃないか。いつも持ち歩くなら」 「パパ、すごい!」  よつばとシロツメクサのカードの絵のアルバムだよ。 「これ、これにする! これね、ボクからのおたんじょうびプレゼントにしたいの」  リュックの中から、おこづかいちょうを出して、パパにおねがいしたんだ。 「パパ、これいくら? ボクでもかえる?」 「あぁ大丈夫だ。よしっ芽生のお金で買おうな。かっこいいぞ」 「えへへ、だって大好きなお兄ちゃんのおたんじょうびだもん、トクベツだもん‼」 「芽生くん、本当にありがとう。芽生くんの特別な人になれて嬉しいよ」  お兄ちゃんがしゃがんで、ギュッと抱きしめてくれる。 「芽生くんは僕の天使だよ」 「お兄ちゃん、だーいすき! おたんじょうびおめでとう」  何度でもいうよ。  大好きって、  おめでとうって。  だって、お兄ちゃんがお花のように笑ってくれるから。  よろこんでくれるから。  ニコニコをみるのも、ニコニコするのも、どっちもポカポカだよね。   あとがき(不要な方はスルーです) **** 瑞樹の誕生日の様子を、今日ものどかに書きました。しかしまだやっとランチの後。 明日は5月5日は芽生の誕生日なので、明日はどちらを書こうか迷ってしまいます。 書きたいこと沢山で、嬉しい悲鳴です🤗 いつもリアクションも嬉しいです。 連休中も更新する意欲になっています💓

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