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誓いの言葉 12

「結婚式に俺が? だが……親族のみの結婚式だと聞いている。だから俺が行くには、まだ早いよ。二人からの誘いは嬉しいが、今回は遠慮しておくよ」  てっきり手放しで二つ返事をしてくれると思ったのに、意外だった。  くまさんは、こういう部分はストイックだ。   「……そんな」  隣で、お母さんがみるみる萎んでいくのが見ていられない。ここは息子である僕が、がんばらないと。    お母さんは、くまさんに傍にいて欲しいし……いずれ息子になる潤の結婚式を見守って欲しいのだろう。 「あ、あの……くまさん。実は僕は結婚式のブーケを頼まれています」 「おぉ、みーくんがブーケを作るのか。それは素晴らしいものが出来るだろうな」 「ありがとうございます。それと同時に結婚式の様子を撮影してあげたいのですが、当日は東京から直接行くしブーケのこともあってバタバタしそうで……弟の結婚式をちゃんと心に刻めるか心配です」  心を込めて……素直な気持ちで訴えた。 「それはよくないな。大切な日に、あれもこれも欲張るのは良くないよ」 「でも……」 「あ……じゃあ俺がカメラマンとして行くのはどうだ?」 「え?  でもさっきは駄目だって」 「それとこれとは別だ。カメラマンとして撮影に行くのだから」 「わ……お母さん聞いた?」 「えぇ……えぇ!」  思わずお母さんとハイタッチ! お父さんの繋ぎを着た僕はいつもより、明るく動き回れる! 「お母さん、よかったね」 「瑞樹、ありがとう」 「役に立てて嬉しいよ」 「あなたは……本当に頼りになるし、可愛い子よ」  今日の僕はまるで一人息子のようだ。  お父さんとお母さんから降り注がれる愛情を真っ直ぐ受け取っている。 「よし! そうと決まったらスケジュールを調整するよ」 「くまさん、本当にいいの? あの……カメラマン代……出来る限り払わせてくださいね」 「さっちゃん、何を言って? 俺からのご祝儀だよ。いずれ俺の息子になる子供の結婚式なんだ。その……俺も行く口実が出来て嬉しいよ」  またラブラブモードになっていく二人。  僕のお父さんとお母さんは、相当仲良しだ。 「そろそろ寝よう。今日は疲れただろう」 「あ……ちょっと待って。私、外泊することを家に言ってないわ」 「それはまずいな。広樹君が心配しているぞ」 「すぐに電話するわね」  お母さんが電話をかけると、広樹兄さんの大きな声がこちらにまで聞こえてきた。 「広樹、連絡しなくてごめんね」 「いいって、いいって。どうせ、まだ、熊田さんの家なんだろ?」 「うん、それでね、急なんだけど、泊まってきてもいい?」 「いいに決まってるよ。って……母さん、お、おめでとう」 「な、何言ってんの? 今、ここに瑞樹が来ているから、母さんも泊まるだけよ」 「瑞樹? 俺の可愛い弟の瑞樹がそこにいるのか!」  お母さんが耳に手をあてて、苦笑していた。 「大きな声で、鼓膜が破れそう! ちょっと瑞樹、広樹を落ち着かせて頂戴」 「くすっ、兄さんってば。もしもし兄さん? 僕だよ」 「みーずーきー! どうして、そこにいるんだ?」  電話をかわると、擽ったかった。  さっきくまさんに抱っこされたばかりだからかな。 「出張で来たんだよ。花農家のトラブルで、急遽、花の切り戻しをするためにね。お母さんとくまさんにも手伝ってもらったんだ」 「そっか~ なぁ、お母さんと熊田さん、熱々だろ?」 「うん、もうこっちが照れるよ。でも良かったね」 「そうか、瑞樹ももう全部知っているんだな」 「うん、あ……兄さん、今度改めて電話するよ。いいことを思いついたから」 「瑞樹からそんな発言、珍しいな」 「そうかな?」 「いい傾向だぞ」 「ありがとう」  電話の後、お母さんとくまさんも交代でお風呂に入り、寝る準備をした。  あれ? 僕、どこで眠ればいいのかな? この場合……お母さんとくまさんは一緒がいいのかな? えっと、えっと……なんだか照れ臭いよ! 「みーくん、どうして百面相をしているんだ? 布団を運ぶの、手伝ってくれるか」 「あ……はい」 「俺さ、川の字って憧れていたんだよ」 「はい!」  孤独だったのは、くまさんの方が長い。  僕は宗吾さんと知り合ってから、川の字で眠ることが出来たのに。 「今日はみんなで並んで寝よう。さっちゃん……いいか」 「嬉しい……私もずっと一人寝だったから」  くまさんの寝室の空きスペースに布団を二枚敷いて、そこで眠ることにした。 「あの……くまさんもこっちで寝ませんか」 「だが……布団は二枚しかないぞ」 「狭いですが……駄目ですか」 「じゃあお邪魔するよ」  わっ! 僕が真ん中だ。  僕を挟んで右と左に、お母さんとお父さんがいる。  まるで……僕が芽生くんになったような気分で不思議だ。 「電気を消すぞ」 「あ……はい」  消灯すると天井に浮かび上がってくるのは、満天の星だった。 「あ……ここにも……」 「そうだ。みーくんがここに来た時、怖くないように塗ってみた」 「く……くまさん……くまさんは僕のお父さんです。もう――」 「みーくんは……大樹さんと澄子さんの大切な息子だが、同時に俺の息子になってくれるのだな」 「はい……はい……その通りです」 「瑞樹、良かったわね、本当に良かったわ」  心温まる夜だった。  一晩中、大きな温もりに包まれているような心地だった。  早朝……目覚めた僕は、誰よりも早く布団から抜け出た。  まるで最初から決まっていたように、お母さんが水揚げしてくれたラナンキュラスでブーケを作った。  タイトルは『幸せな朝』  今……この僕の胸に宿る幸せを、ありったけ詰め込みたくなった。  これを持って行こう。生産者の元へ……  生命の泉のように花を沸き上がらせ、みずみずしさが迸るように躍動感のある花束を作ってみたい。  都会のオフィスビルでは作れない、自然と共存する花束を。  花の声をかき集めて……  

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