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誓いの言葉 24

「瑞樹、身体の力を抜いて」 「あ……はい」 「目を閉じて」 「…はい」    いつの間にか僕はパジャマを脱がされ、下着姿になっていた。  宗吾さんが僕の右手を取り、そっと口づける。 「ここ……もう痛くはないのか」 「大丈夫です。昨日、今日と……家でも会社でも、右手を殆ど使わせてもらえなかったので、治りが早かったようです」 「会社でも君は、守られているからな」 「…はい」  男としては不甲斐ないことかもしれないが、右手の後遺症に怯える僕にとっては、周囲の気遣いが有り難かった。  何かを引き金に、また右手が動かなくなったらどうしよう……  そんな潜在的な不安が、まだ僕の中に残っていることを今回の出来事で実感してしまった。  もうあれ以上……苦痛なことは起きない。  あの人は……もう二度と僕には近づかない。  そう思うようにしているのに、駄目だな。 「大丈夫だ。もう大丈夫なんだよ」 「宗吾さん」    宗吾さんの手で温められたラベンダーオイルをすうっと胸に塗られると、それだけで身体がピクッと跳ねてしまう。 「感じているな」 「…はい」  大きな温かい手のひらが、僕の胸や脇腹を優しく撫でていく。  ボディタッチのような軽い触れ合いに、僕の心も凪いでいく。 「宗吾さん……」  だから僕からも……宗吾さんの広い背中に手を回し、逞しい身体に自ら擦り寄っていく。 「今日は積極的だな」 「気持ち良くて」  唇を吸い上げられ、オイルで濡れた手で胸元や首筋、下腹部を丁寧に辿られた。  優しく、優しく、体中を撫でられて、ふわふわとした心地になっていく。 「も、もう……駄目です」 「そうなのか」 「…あ」  もどかしくなって自ら腰を浮かせると、宗吾さんの手が内股の際どい部分にまで入ってくる。指で意図的に探られて、頬が紅潮してしまう。 「ホクロの位置は、ここだよ」 「あ……そこ……」 「全部脱がせてもいいか」  コクンと頷くと、やはり優しい手つきで下着を抜き取られた。 「随分、気持ちよさそうだな」 「宗吾さんが優しく触るので、とろけそうなんです」 「可愛いことばかり口にして」  マッサージとはもう名ばかりで、宗吾さんの手が僕の硬くなりつつあるものを握ってくると、下半身に熱が迸るような感覚に陥った。 「出したい?」 「い……じわるです」  次に宗吾さんの手によって脚を大きく開脚させられた。  仰向けで脚を広げるのは……女性のように相手を受け入れる姿勢なので、羞恥心を煽られる。 「ん……やっ」  マッサージは全身に渡っていた。 「オイルを使うと滑りがいいな」 「んっ」 「もう目がとろんとしてるな、可愛い」  チュッと額にキスをされる。 「気持ち……よくて」 「おっと、そのまま寝ちゃうなよ」 「……んっ」  淡い乳輪にパクッと吸い付かれ、乳頭を指で捏ねられ、声が我慢できなくなってしまう。 「瑞樹……」 「あっ……あっ……宗吾さん……来て下さい」 「入ってもいいのか。君の負担にならないか」  コクコクと頷くが許してもらえず、わざとポイントをずらして焦らされる。 「も……っ、はやく……ほしいです……宗吾さんの」  甘やかされている自覚はある。  愛おしまれている自覚もある。  同じ位、僕も宗吾さんを甘やかしたいし愛したい。 「僕の中に……来て下さい」  自分から慎ましく閉じた入り口に、宗吾さんの高まりをあてがってしまった。  こんなに積極的になれるなんて……理由は一つ。  ただ……好きだから、愛しているから。  その気持ちを隠したくない。  求める気持ちも求められる気持ちも同じだと伝えたくて、宗吾さんの高まりをゆるりと握り込んで、もう一度囁いた。 「これ……欲しいんです」 「瑞樹、どこでそんな煽り方を覚えたんだ?」 「くすっ、一度、言ってみたかったんですよ。僕も同じだけ求めているって伝えたくて」 「参ったな、後悔するなよ」 「……はい。これはマッサージですから」 「まだそんなことを」  その後は、疲れ果てて眠りに落ちるまで、僕たちは求め合った。 「瑞樹……寝ちゃうのか」 「も、もう……眠いです」 「後処理はしておくから、安心して眠れ」  宗吾さんの腕の中に包み込んでもらえると、僕は心から安堵出来る。だから……そのまま、そっと肩を寄せて目を閉じた。 「少しだけ怖かったんです……だから、ありがとうございます」 「あぁ……」  ほんの少し思い出した恐怖は、宗吾さんが優しく摘み取ってくれる。    だから僕はまた明日から前に進んで行ける。  明るい方向へ――  自分の足で。 「いい結婚式にしたいです」 「あぁ、そうなるさ。何しろ俺の瑞樹の初企画なんだから」 「……宗吾さん、僕……初めてのことばかりで不安です」 「俺が全力でサポートするよ!」  優しく絡み合う腕と脚。  一つになって歩み寄って  一つになって分け合って。 ****  夜、9時。  テーラー桐生の黒い電話が鳴った。 「やぁ、誰かと思ったら菫ちゃんか」 「桐生先輩、ご無沙汰しています」 「ご無沙汰でもないさ。菫ちゃんの紹介でお客さんが来たばかりだから」 「あ! 本当に行ってくれたのね」 「彼、誰? えらく可愛い顔していたけど」  茶化すように言うと、菫ちゃんは勿体ぶった様子だった。 「おい、気になるだろ? 早く教えてくれよ」 「可憐な瑞樹くんは、私の義理のお兄さんになる人です」 「え? ってことは……菫ちゃん……君、再婚するのか」  妊娠中に旦那が病死という悲劇に見舞われたことは、風の便りで聞いていた。それでも頑張って可愛い坊やを産み、シングルマザーとして頑張っていることも知っていた。 「はい、もう式は三日後なんですよ」 「それはおめでとう。何かお祝いを贈りたいな」 「あ……じゃあリクエストしてもいいですか」 「何でも」 ……  そんな電話を受けたのが、昨日の夜だった。  それから徹夜で準備をしてやった。  菫ちゃんのリクエストは、結婚相手の母親が同じタイミングで再婚するので、義母へ贈るショート丈のベールだった。  菫ちゃんらしい控えめな優しいリクエストだな。  ショートベールは軽やかで動きやすくアクセサリー感覚で付けられるので、年齢を問わず似合うだろう。 「しかし、手作りキットとはな」  三歳の坊やと一緒に、一日で手作りできるキットが欲しいという希望を叶えるために、寝ずに頑張ったのさ。  ベールの下処理は出来ているので、そこに小さな白い薔薇の飾りを散らしていくだけだ。これなら短時間で出来るだろう。  薔薇は小さな子でも作りやすいように、下処理を工夫した。 「兄さん、おはよ。昨日はどうして来なかったの?」  少し怒った口調でテーラーにやってきた弟が目を丸くしている。 「これは一体、なんの騒ぎ? 特急仕上げでも入ったの?」 「まぁな。今から軽井沢まで届けてくるよ」 「兄さんは寝不足でヘロヘロじゃないか。絶対に駄目だ!」 「だが結婚式に間に合わせないと」 「おれが行くよ。兄さんは休んで」 「蓮……」 「おれは昨日はぐっすり眠ったから平気さ」  弟の蓮は細い腰で店の前に停めてあるバイクに跨がり、一気に加速した。 「蓮、気をつけて」  バイクのテールランプを、思わせぶりに5回。  古くさい歌のように愛を囁く愛しい弟の背中を……俺は目を細めていつまでも見守った。  あれは……俺の蓮だ。  世間が何と言おうと、俺は連を愛し抜く。  

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