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誓いの言葉 44

「おっ瑞樹だぞ!」 「えっ!」  空高く舞い上がった菫色のブーケは、綺麗な弧を描いて僕の胸元にポスッと着地した。  気が付いた時には、僕はブーケをふんわりと抱きしめていた。  花の香りに、心が揺れる。  同時に歓声が沸き上がる。 「ええっ!」 「やったな!」 「お兄ちゃんおめでとう~」 「瑞樹、よかったわね」 「みーくん、おめでとう」 「きゃー、あの子に渡ったわ」 「綺麗だから男の子でも似合うわね」  ううう、恥ずかしい。  イングリッシュガーデンのお客様からも、温かい拍手が沸き起こる。 「あ……あの……そんな……こんなの……」  僕は激しく狼狽え、宗吾さんに助けを求めてしまう。 「瑞樹、良かったな! 俺、ますますやる気に満ちたぞ。いつか必ず叶えよう!」 「宗吾さん、僕は……」 「安心しろ。俺と君が挙げるのは、本当に大切な人達だけに囲まれた秘密のウェディングだよ」  いつか……いつか、そんな日が来るのだろうか。  もう充分幸せな日々なのに、そんなの贅沢な夢では? 「瑞樹、未来に幸せを抱くのは悪いことじゃないよ」 「あ……はい」 「お父さんも出来たんだし、俺としては、勇大さんにバージンロードをエスコートしてもらう瑞樹が見たいな」 「そっ、宗吾さん……先走り過ぎですよ!」 「ははっ、君と共通の夢を抱けるのが嬉しくてな」  もう……素直になろう。  自分の心に、素直に優しくなろう。 「僕も……いつかの夢を一緒に見ても?いいんですか」 「そうだ、それでいい」 「宗吾さん……これからも宜しくお願いします」 「瑞樹、俺の方こそ。それにしても結婚式っていいな。参列する側も祝福の輪の中に入り、初々しい気持ちになれるんだな」  そこに、くまさんの掛け声がかかる。  いつの間にか、アーチ前に三脚が設置されていた。 「皆、ここで集合写真を撮ろう!」 「ほら、瑞樹、行くぞ!」  トンっと軽く背中を押してもらい、僕はまた歩み出す。  僕の人生を、真っ直ぐに。  新郎新婦を囲んで集まると、ふと菫さんと目が合った。 「瑞樹くん、今日は素敵なブーケをありがとう」 「ブーケトスされるとは思わなくて」 「ふふっ瑞樹くんに届いて、やっぱりなって思ったわ」 「え……そんな。あ……あの……でも、このブーケはやっぱり菫さんに持っていて欲しいです」  そっと菫さんの手に、ブーケを握ってもらう。   「え? でも……いいの?」 「これは元々菫さんのドレスに合わせて作ったものなので、ぜひ。僕は確かに受け取りましたから……目には見えなくても、僕の心は綺麗な花束を抱えています」 「ありがとう。皆さんが祝福して下さるので、急にしたくなって」 「嬉しかったです。僕にも夢が出来ました」  今までの自分では、到底言えない台詞だった。 「夢はいいわね。私も『いつか王子様が……』と夢見ていたわ」 「あっ、あの、南国の王子様がやってきましたね」 「そうなの! とびきりハンサムで優しいパパでもある王子様だったの」  菫さんが潤を語る瞳は愛情に満ち、輝いていた。  僕も……弟を褒めてもらえて嬉しい。   「潤を、どうかよろしくお願いします。少し寂しがり屋ですが、思いやりもあって優しい弟です」  もう言葉に詰まらない。流れるように出てくるよ。  偽りのない素直な気持ちが溢れてくる! 「はい。私……潤くんと今日から一緒に暮らします。どんな時も支え合っていきます。だから私達家族とも沢山交流してね」 「ありがとうございます」  菫さんは菫色のブーケを笑って、にこっと笑っていた。  潤、本当に素敵な女性と結婚したのだね。  目を閉じて空からの光を浴び、喜びを噛みしめる。 「瑞樹~ 顔を上げろ」 「あ、はい」 「写真を撮るぞ」 「はい!」  笑顔! 笑顔! 笑顔の花が咲く。 「よし、次はスパークリングワインで乾杯しよう!」  イングリッシュガーデンのスタッフが、あっという間に薔薇のアーチ周辺にテーブルを運び、ブルーボトルのスパークリングワインを並べてくれた。 「え? 宗吾さん……あの……ワインなんてお願いしてなかったのですが」 「ん? あぁ、あれな。俺からの結婚祝いだ」 「えぇ?」 「ウェディングには乾杯のワインが必要だろう」 「驚きました。いつの間に……」  宗吾さんって、本当にすごい。  付き合っていると、サプライズに驚かされることばかりだ。 「ポルトガルに出張に行った時に飲んだワインなんだ。透明感があって瑞々しくてさ、こんな晴れの日にいいかと手配したんだ」  まるで水のように透明感のあるボトルが太陽の光を浴びて、キラキラ輝いていた。 「名前がまたいいんだよ」 「どんな?」 「Hoje e sempre……」  宗吾さんってば、ポルトガル語まで? 「あの、意味が知りたいです」 「うん、『今日、そしていつも』だよ」 「あっ……」 「なっ、素敵だろ」 「はい! 僕も好きです。その言葉」  宗吾さんが耳元で囁いてくれる。 「瑞樹が喜ぶ顔が見たかった。瑞樹……今日も、そしていつも……愛しているよ」 「そ、宗吾さんは……」  何て答えていいのか。真っ赤になってオロオロしていると、芽生くんといっくんが天使のような笑みで駆け寄ってくれた。 「お兄ちゃん、すごくきれいなビンがあるよ。あれ、ボクものめる?」 「え?」 「いっくんもー! いっくんものめましゅかぁ」  期待に満ちた目で見つめられて言葉に詰まっていると……宗吾さんがポケットから、ラムネ瓶をふたつ取り出してくれた。いつの間に!? 「芽生といっくんにはとびきりのものをプレゼントしよう」 「わぁ! いっくん、これラムネだよ」 「らむね?」 「しゅわしゅわするんだよ~ おにいちゃんあけて」 「あ……うん!」  ビー玉をグッと押し込むと、シュワッと音がする。  あぁ……ここにも、祝福の音がする。  晴れの日に相応しいキッズドリンク。 「宗吾さん、ラムネだなんて……晴れやかな気分になりますね」 「だろ?」  大人は微発砲のスパークリングワイン、子供はラムネで乾杯だ。 「乾杯! 潤、菫さん結婚おめでとう!」        

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