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誓いの言葉 47

「兄さん、今日はありがとう」 「潤! 改めて結婚おめでとう」  白いタキシード姿の潤が、僕のテーブルまで挨拶に来てくれた。すると僕に抱きついていた、いっくんが顔をあげてニコッと笑う。 「あ、パパぁ~」 「いっくん? こんなところにいたのか」 「うん! めーくんとあそんでたの」 「そうかそうか、すっかり芽生坊に懐いてんな」  いっくんの天使スマイルに、潤も目を細める。分かるよ、その気持ち。もうすっかり父の顔だね。 「パパぁ、だっこ……」 「あぁ! おいで」 「わぁ~ たかい。あ、キラキラ、みーつけた! あっちにもある」     いっくんが目を輝かせて手を伸ばし、レースのカーテンを通して部屋に入り込んだ光を集め出した。 「わぁぁ……ほうせきみたい。ママにあげようっと」  手の平に光を握りしめる仕草に、またひとつ思い出したよ。  懐かしい気持ちが込み上げてくる。 …… 「くまさん……くまさん」 「ん? みーくん、どうした?」 「……あ、あのね」  チラッと横目で見るのは、お母さんに抱っこされている赤ちゃんの夏樹だ。眠そうに、えーんえーん泣いているよ。僕はもう五歳、抱っこをお母さんに強請るには気恥ずかしい年齢になっていた。    お父さんはお仕事が忙しそう。今日はずっとお部屋に籠もっていて、少しだけ寂しい気持ちになっていた。   「おいで、みーくんには、もっと高い世界を特別に見せてあげよう!」 「とくべつ?」 「あぁ、みーくんだからだよ」 「わぁぁ」  その台詞はまるで魔法のように、僕をワクワクさせてくれた。  くまさんが抱っこしてくれると、視界が一変し、新しい世界が広がっていた。  僕……天井に頭がくっつきそうな所にいるよ。  あっ、夏樹が僕を見てキョトンとしている。 「あ、ひかり!」 「よしっ、掴まえるか」 「うん!」  窓辺のサンキャッチャーから生まれた光の宝石が、天井付近に散らばっていた。手を伸ばすとその光が手の平で掴めたような気がしたので、嬉しかった。 「これ……僕の光なの?」 「よかったなぁ。光を掴んだみーくんは、みんなの光になるんだよ」 ……  暫くの間……くまさんとの思い出に浸ってしまった。 「いっくん、ご飯ちゃんと食べたか? 食べたのなら遊んでいいよ」 「あ……まだでしゅ……ごめんなしゃい」 「ジュンくん! ボクがいっくんと食べるよ。食べさせてあげるよ」 「芽生坊が?」 「うん! だってもう2年生だもん。できるよ」  その様子を宗吾さんが見て、ニヤリと笑う。 「芽生のあぁいうところ、俺にそっくりだよな。妙な自信があるんだよ」 「くすっ、はい、利発な所が似ていますよね。とっても可愛いですよ」 「へへへ……俺が褒められているみたいだぞ~」  え? いやいや違いますって。  何故か宗吾さんがニヤニヤと顔を綻ばせていた。  でもまぁ……宗吾さんってカッコ良かったり可愛かったり、ちょっとヘン……だけど、それも含めてとっても素敵な人だ。 「ん? どうした?」 「あ……いえ……なんでもないです」 「俺に見惚れていたんだろ?」  そして自信もあって、いいな。  どうしたのかな? 僕……今日は心にとても素直だ。  もしかして潤と菫さんの清らかな結婚宣言の影響かな。  初々しさも加速していく。 ****  いっくんを芽生坊に任せて席に戻ろうとすると、菫さんの笑顔が目に入った。広樹兄さんとみっちゃんと、楽しそうに話している。  菫さんって本当に可愛くって可愛すぎて……最高に可愛いな。(語彙力なしだな)    あんな素敵な人が、今日からオレの嫁さんだなんて信じられないぜ!  すると部屋に、イングリッシュガーデンのオーナーがやってきた。 「潤、今日はおめでとう」 「オーナー! 今日はありがとうございました」 「いいお式だったな。イングリッシュガーデンの魅力を伝えるのに充分だった。協力ありがとう」 「こちらこそ、無料で式をあげさせていただき、しかも衣装代まで負担して下さって……」 「あぁ、そのことだが」  オーナーの目が、誰かを探しているようだ。なんだろう? 「あぁ、いたいた! あの子は君の……」 「あの子?」 「水色のストライプシャツを着た坊やだよ」 「あぁ、オレの甥っ子です」 「そうか、利発そうで可愛い子だな。そこで一つ坊やにお願いをしたいんだが」 「なんでしょう? まずは保護者に聞かないと」 「それも、そうだな」  オーナーと一緒に、兄さん達の所に向かった。 「やぁ、私はここのオーナーだよ。君は小さいのにフォーマルが似合っていて素敵だね。お名前は?」 「あ、ありがとうござます! 滝沢芽生です」 「そうか、芽生くんにお願いがあって」  一体なんだ? 「実は、今度の夏休みの子供イベントで『リトルプリンス&プリンセス』という企画をやるので何着か英国から子供のアンティークのフォーマル衣装を取り寄せたのだが、試しに着てくれる丁度いい年頃の男の子が見つからなくてね。だから手伝ってくれないかな?」  あ……確かにそんな企画があった! 「え? ボクが?」 「あの……すみませんが先に細かい条件を聞かせて頂けますか」  すぐにキリリとした宗吾さんが、オーナーに確認を取る。宗吾さんは広告代理店勤務なのでこういう飛び込み案件に慣れているのか、テキパキと条件を確認し出した。 「なるほど、大丈夫そうだな。よしっ、やってもいいぞ。どうする芽生?」 「うん! やってみたい! お兄ちゃんにカッコイイところ見せたいな」 「はは、芽生の基準はそこか」  宗吾さんの快諾に、オーナーも嬉しそうだ。   「内部資料として使うだけなので、よかったら早速着てみてもらえないかな? この部屋の雰囲気にとても似合うから、部屋で写真を撮っても?」 「あ、はい!」  兄さんが少し慌てた様子だ。 「あ、あの……芽生くん、本当に大丈夫? 無理してない?」 「うん、やってみたいな。お兄ちゃん……見ていてくれる?」 「もちろん! 芽生くんのカッコイイところ見るよ。でも……」 「瑞樹、こんな余興ならいいんじゃないか? 皆もきっと喜ぶよ」 「あ……宗吾さん……確かに……これは可愛い余興ですね」  なんだか急な展開になったが、芽生坊もやる気だし、オーナーは乗り気だし、これは、この波に乗るべきか。 「じゃあ早速着替えてもらってもいいかな?」 「はい! あ、あのね……」 「あぁもちろん、君のお兄さんについて来てもらっていいよ」 「よかったぁ!」  こういう時は、兄さんの出番だ。兄さんが傍にいてくれるだけで、安心するんだよなぁ。  オレも突っ張っていたけれども、なんだかんだ言っても兄さんの姿が見えないと不安だった。  そうだ、オレが1年生の時、兄さんが6年生で……1年生のお世話係をしに教室に来たんだ。優しくて王子様みたいな兄さんは女子にモテモテだったけれど、オレが「オレのにーさんにふれんなぁ」って大暴れして、独占したような。  ひぃ……!  改めて思い出すと、猛烈に恥ずかしいな! 「潤、行ってくるよ」 「兄さん、芽生坊、協力ありがとうな!」 「うん、潤の役に立てて嬉しいよ」 「兄さん……」  あぁもう! こっちが頼んでいるのに、そんな謙虚に。  でもオレは、こんな兄さんらしい兄さんがずっと好きだったんだ。  振り返れば後悔は尽きないが、もう振り払っていこう。  今のオレは、心に空きスペースが必要なんだ。  ここに兄さんとの新しい思い出をどんどん詰め込んでいくぞ!  この幸せで、和やかな気持ちを忘れないためにも。  さぁ芽生坊がどんな衣装になってくるか、楽しみだ!  

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