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誓いの言葉 49

「お兄ちゃん、じゃあ着てみるね」  最後の一着は、真っ白なジャケットに深紅の薔薇の立体的なコサージュが縫い付けられていた。  どの衣装も素敵だったが、これは一際手の込んだもので、うっとりするほどだった。  英国貴族のアンティーク品とのことだが、見たことがない程、精巧なものだった。  それに、まるで芽生くん自身が、薔薇の花束になったみたいで素敵だ。 「どうかな?」 「すごく似合っていて……リトルプリンスそのものだよ!」  さっきから、僕の目尻は下がりっぱなし。  すると芽生くんに手を引っ張られた。 「おじさん、これ、みんなに見せてもいい?」 「もちろんだよ。よく似合っているよ」 「ありがとうございます! お兄ちゃん、行こう!」  礼儀正しく、溌剌とした返事だね。  芽生くん、君は僕の自慢の子供だよ。   「お兄ちゃん、えっと、ここに手をどうぞ!」  芽生くんが見様見真似で、小さな紳士のようにエスコートしてくれる。  少し照れ臭いけれど、こんなに可愛い紳士と歩ける機会なんて滅多にない。こんなおとぎ話のような時間を過ごせるなんて、夢みたいだ。 「あれ、お兄ちゃん、こっちのポケットがゴワゴワするよ」 「ん? 何か入ってるのかな?」 「あ……古いおてがみだ!」 「え?」  それは時を超えたメッセージ。  小さなカードが紛れていた。  万年筆は色褪せないで、時代を超えていく。 『Enjoy every moment!』   「なんて書いてあるの?」 「そうだね、『すべての瞬間を楽しんで』かな?」 「わぁ! 一体だれからのおてがみなのかな?」 「あ……Grandmotherと最後に書いてあるから、おばあちゃんだね」 「わぁ、このおようふくを着た子に、おばあちゃんがおくったおてがみなんだ!」 「すごいね、タイムスリップしたみたいだね」 「うんうん」    過去も未来も今も、人々の願いは変わらない。  今を生きているのだから、今を大切にしょう。  僕は芽生くんという幸せな存在に、日々感謝していこう。 「おや、素敵なメッセージが残っていたんだね」 「あ、そうのようです」  オーナーも感慨深い様子で、その手紙を眺めていた。  パーティー会場に芽生くんと並んで入場すると、皆、最初はポカンとして その後、歓声が沸き上がった。   お父さんとお母さん、広樹兄さんとみっちゃんが、大きな拍手をしてくれた。兄さんはまた少し泣きそうだ。 「芽生坊、可愛いな!」 「まるで、小さな紳士だわ」 「なんて凝った衣装なの!」 「瑞樹ぃ~ よかったなぁぁ」   「みーくん、視線、こっちこっち」 「あ……はい!」    くまさんが満面の笑みでシャッターを切っていたので、僕は芽生くんと手をつないで、顔をしっかり上げた。  この瞬間は、今だけのもの。  もう俯かないよ、顔を上げて生きたいから。  すると吸い寄せられるように、宗吾さんと視線が重なった。  宗吾さんは「参ったな」という様子で、鼻に手を当て肩を揺らしていた。  男らしく魅惑的な笑みを浮かべている。  菫さんといっくんも嬉しそうに笑っているね。 「芽生くんは、リトルプリンスそのものだわ」 「めーくんのおはな、きれぇ。いっくんはね、はっぱのおようふくがいいな」 「まぁ、ドロンとしそうね」 「ドロン?」  和やかなパーティーは、お開きまで笑顔が溢れていた。 **** 「瑞樹、待たせたな!」 「あっ、しーっですよ」 「悪い、悪い」    お風呂上がりの宗吾さんが、バスローブ姿で戻ってきた。  声をひそめて、一番端のベッドで眠る芽生くんを覗き混む。 「もう眠ったのか」 「はい、一日はしゃぎっぱなしだったので、もうぐっすりです」 「じゃあ君もシャワーを浴びておいで。俺が見てるから」 「はい」  潤と菫さんの式は夕方にお開きとなり、僕らは近隣施設の軽井沢プリンセスホテルに一泊して、明日帰る予定だ。  このホテルには、お父さんとお母さん、広樹兄さんたち、潤と菫さんといっくん。  それぞれが宿泊しているので、照れ臭い。  着ていて服を丁寧に脱いでシャワーを浴びると、妙に心臓がドキドキしていた。  初夜という言葉を意識したのは、あれ以来だ。  宗吾さんに初めて抱かれた日以来になる。  一馬とは……なし崩し的に関係を初めてしまった僕だけれども、宗吾さんとの一線を越えるのはとても緊張した。あの頃はまだ一馬のことが完全に忘れられなくて、一年という時間を与えてもらったから。  しかし、今日このドキドキは……なんだろう?  結婚式に参列したせいなのかな?  いつもより……この後宗吾さんに抱かれることを意識している自分がいる。  初々しい気持ちのまま抱かれたいので、手早く身体を洗うことにした。 **** 「……勇大さん」 「さっちゃん」  あぁ緊張するな。だがお互いまだ50代前後、まだまだ現役ということでいいんだよな? 「いいか」 「えぇ」  俺は独身だからともかく、さっちゃんの方にはそれなりの覚悟がいるだろう。 「年齢なんて関係ないよ。今日からが新しいスタートなんだ。さっちゃんと繋がりたい……心も身体もひとつになりたい」  灯りを消して、優しく抱こう。  さっちゃんの過去も全部含めて、引き継いでいこう。 **** 「いっくん寝ちゃったのか」 「もう朝まで起きないと思う。今日は芽生くんに一杯遊んでもらったもんね」 「菫さん……本当に抱いていいのか」 「潤くん、今日からよろしくお願いします」 「オレこそ、よろしくお願いします。幸せになろう! オレたち力を合わせて」 「うん、潤くんのそういうこところが好き。頼りにしているね」  細くて壊れそうな腰を抱いて、白いシーツに沈めた。  オレたちの初夜が始まる。 **** 「宗吾さん、お待たせしました」 「瑞樹、おいで」 「はい」  手を広げてやれば、真っ白なバスローブ姿の瑞樹が飛び込んできてくれる。  まだ少し湿った髪、同じボディソープとシャンプ-の香り。  最初から少し火照った身体に、瑞樹の方も俺と同じ気持ちなのを感じて、嬉しくなった。 「初々しいな……今日の君」 「ここがドキドキしているんです」  瑞樹が俺の手を、胸に導く。  トキメキの音がする。           あとがき(不要な方は飛ばして下さい) **** 潤の結婚式の話、49話も書いてしまいました。 そろそろ締めに入りますね。 NLカップルのラブシーンはここまでで、明日は久しぶりに宗吾さんと瑞樹の ラブシーンになります。 薔薇の衣装はアトリエブログにてお披露目しています。

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