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HAPPY SUMMER CAMP!①
★最初にご挨拶を★
今日から『重なる月』とのクロスオーバー『HAPPY SUMMER CAMP!』に入ります!
『重なる月』未読の方でも登場人物だけ押さえていただければ楽しんでいただけるように、書いていきますね。一緒に楽しんでいただけたら、嬉しいです。
『重なる月』サイドの登場人物
北鎌倉 月影寺 住職 張矢 翠(長男)
副住職 張矢 流(次男)→長男と次男は禁断の兄弟愛です。
外科医 張矢 丈(三男)→恋人 張矢洋(輪廻転生の主人公)
寺の小坊主 小森風太(20歳→恋人 菅野良介(瑞樹の同僚)
薙(高1) 翠の一人息子
****
いろんな視点から楽しみたいので『重なる月』のメンバー視点も盛り込んでいくことを、ご了承下さい。夏休みは毎年恒例で娯楽要素の強い、弾けた内容を書いています!
『重なる月』ですが、こちらのサイトでも昨日から復活しています。
https://fujossy.jp/books/5283 ご興味あれば、覗いてみて下さいませ。
それでは本文です。
8月、夏真っ盛り。
いよいよ今日から、なんと総勢13名でキャンプに行く。
月影寺からは翠さんと流さんと薙くん。丈さんと洋くん。菅野と小森くんが参加する。
主要メンバーが寺を留守にしてしまうのを心配したが、ご隠居された前のご住職、つまり翠さんたちのご両親が留守番をしてくれるそうで安心した。
そんな中に小森くんと菅野がちゃっかり混ざっているのが、面白い。
会社でもリーダーに揶揄われてしまった。
……
「へぇ二人で有休か。もう菅野と葉山は親戚のようだな。従兄弟同士みたいな雰囲気だぞ」
「えっ、瑞樹ちゃんと親戚ですか~ うれしいです」
「僕も……菅野となら」
「なんだ? 親戚じゃなくて怪しいムードだな」
「ちがいますって!」
「ち……ちがいます!」
……
ふたりで必死に否定したので、リーダーにまた笑われた。
そして僕と宗吾さんと芽生くん。軽井沢から潤と菫さんといっくんが来てくれる。僕の弟をこんな形で月影寺の皆さんにお披露目出来るなんて嬉しいことだ。
色々あったが今の潤は僕の自慢の弟だ。そして可愛い奥さんと可愛い息子の父親だ。だから安心して紹介できるよ。
強いて言えば、憲吾さんたちも誘えればよかったが、それはまた別の機会にしよう。憲吾さんたちとは彩芽ちゃんと一緒に夢の国に遊びに行く約束をしているから。
「おーい、瑞樹、そろそろ出掛けるぞ」
「あ、はい!」
宗吾さんと昨夜深く抱き合った身体はまだ少し気怠いが、気持ちは今日の空模様のように晴れやかだ。
「お兄ちゃん、はやく、はやく!」
「ごめん、ごめん!」
青い帽子に青と白いボーダーのTシャツを来た芽生くんが、空っぽの虫かごを斜めがけにして虫取り網を旗のように持って、笑っている。
「お兄ちゃん、忘れ物はない? あ、ボウシは?」
「あっ……」
「取ってこい。焦らなくていいからな」
「はい!」
そうだ! キャンプのために、芽生くんとお揃いの帽子を買ってもらったんだ。
宗吾さんはキャンプが得意中の得意のようで、紫陽花の月影寺から帰ってからずっと張り切っていた。僕はまるで遠足前の子供のように、宗吾さんの手によって準備を整えてもらった。
僕も北海道の大草原育ちで、小さい頃は家族でキャンプをよくしていたので慣れているけれども……まぁそれは今回は内緒にしておこう。
「瑞樹、スキーではカッコイイところ見せられなかったが、今回は覚悟しろよ」
運転席の宗吾さんは、散髪したての髪にサングラスをかけ、やる気に満ちていた。
「……そのやる気、キャンプに全力注いで下さいね。たぶん夜はいっくんと芽生くんが一緒に眠ると思うので」
「そんなの分かっているさ~ 俺も潤のハネムーンに協力するよ。その分しっかり
チャージさせてもらったしな」
「あ……もうっ」
「さぁ出発だ!」
「安全運転でお願いしますね」
「車の運転では暴走しないよ」
「……」
宗吾さんが不穏な発言ばかりするので、冷や冷やしてしまう。
でも芽生くんはキャンプのことで頭がいっぱいのようで、おばあちゃんに買ってもらった星の図鑑や昆虫図鑑を抱えて、ワクワク顔だったのでホッとした。
さぁ、僕たちの賑やかな夏休みのスタートだ。
****
北鎌倉・月影寺
「丈、そろそろ行くか」
「あぁ、待て、やっぱりこれも持っていこう」
「おい? 一体何を詰め込んでいるんだ」
「応急手当用品だ」
見れば、聴診器に包帯、絆創膏に消毒薬に軟膏まで、ぎっしり鞄に詰め込んでいる。
「あぁ、そうか。今回は小さな子供がいるもんな」
「……ん? それもあるが、洋が心配だからだよ」
「え? 俺?」
「洋は相変わらず貧血も起こしやすいし、お世辞にも器用とは言えないだろう」
「おい! そんなこと心配していたのか。俺を姫扱いするなよ」
「ははっ、わかっているが……いいか、なるべく火には近づくな。出来たら包丁も持たなくていい」
「馬鹿! それじゃキャンプの意味がないだろう! もう過保護だな」
「洋……なんだ、怒ったのか」
丈が余裕の笑みを見せてくる。
「まぁ俺が不器用なのは認めるよ。今回のキャンプは小さな子供もいる大所帯だ。皆の迷惑にならないようにするよ」
「……私と一緒にいる時ならいいぞ」
「丈は……本当に俺がいないと駄目なんだな」
「え?」
丈が目を丸くしたので、可笑しくなってしまった。
「いいよ。俺はお前の言う通りにするよ。それが好きなんだ」
「私は洋を束縛しているのか」
「いや、通常運転だ」
丈だけだ……俺を縛ってもいいのは。
だからこんな会話も、俺たちの間では立派に成立する。
****
父さんが玄関に持ってきた荷物を見て、ギョッとした。
えっと、なんで……そんなに大荷物?
「父さん、大荷物過ぎないか。車に積めないよ」
「あぁこれ? 殆どが薙の着替えだよ。薙はやんちゃだから泥んこになったり、水遊びで濡れて着替えがいるかなって」
「はぁー? と、父さんって本当に……親ば……」
「ん?」
袈裟を脱いで、白いシャツにベージュのチノパン姿の楚々とした父さん。
清らかな澄んだ瞳を向けられると、言葉に窮する。
「す、好きにしたら」
「薙、もしかして照れているのかい?」
「てっ、照れてなんかないって」
「はいはい。そうか……薙とまた一緒に旅行に行けるのが嬉しくて、父さん……はしゃぎすぎかな?」
「……いや、……オレもうれしいから」
あー 結局父さんの思う壺だ。
オレも嬉しいよ。春に京都に行ってから、父さんとの旅行が楽しすぎて待ち遠しかったのは本音だ。
「おー 待たせたな! みんな揃ったか」
奥からドタバタと流さんがやってきた。
んん?
なんでそんなに大荷物なんだー!
「流さん、1泊2日だったはずじゃ?」
「あぁ、これは殆どが兄さんの着替えだよ」
「へ?」
「兄さんはキャンプなど慣れてないだろ。それに少し鈍臭いから、転んで泥だらけになったり、水溜まりにはまったりしたら着替えがいると思ってな」
「りゅ、流~」
父さんは真っ赤っか! オレは呆れ気味だ~
でもおかしいな。
それぞれが、それぞれの心配をしている図って、案外悪くないのかも。
「あとは小森くんだけだね。ここに来るように言ってあるから、きっとそろそろ到着するはずだよ」
「うーん、アイツが一番心配だな」
「どうして?」
「小森が、一番大荷物のような気がする」
「まさか」
「いや、ほら見ろよ」
流さんが指差す方向には、大昔の泥棒のような唐草模様の大きな風呂敷を背負った小森くんがいた!
「な、何が入っているんだ?」
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