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HAPPY SUMMER CAMP!②
僕は小森風太。
明日からのキャンプに供えて、荷造り中です!
「お兄ちゃん、何してんの?」
「ひーちゃん、明日、旅行に行ってくるよ」
「えっお兄ちゃんが? 誰と、どこへ?」
妹の光《ひかる》の目が、キラーンと光っています。
「お勤めしているお寺のご住職さまたちと、神奈川の大山にキャンプに行くんだよ」
「キャ……キャンプ! そんなのしたことないのに?」
「うん、したことない。ところでキャンプって何をするの?」
妹の光はもう高校生。何でも知っている頼りになる存在です。
「そりゃ、ロマンチックに星空を見たり、森を散歩したりかな?」
「それもいいけど……お腹が鳴りそうだな。もっと美味しい話はない?」
「それならBBQは? 皆に手料理を振る舞うチャンスよね~ アウトドアで豪快に」
「なるほど! ひーちゃん、ありがとうー!」
というわけで、僕は決めました!
BBQで、甘ーいあんこを作りますよ!
というわけで、風呂敷いっぱいの小豆にお鍋と調理道具。
ガタガタ、ザァーザァー
歩くと不思議な音がする大風呂敷を担いで、いざ出陣!
「ちょっと待った~ お兄ちゃん、その格好でいくの? なんで小坊主姿? 今日はキャンプでしょ」
「ひーちゃん、でも僕はこれが落ち着くんだよ」
「……まぁいいか。お兄ちゃんらしいよ。楽しんできてね。少しは若者らしいこともしてね」
「ありがとう」
「はい、大事な忘れモノ!」
ドサッと渡されたのは大量の砂糖。
妹の光は、とっても優しいのです。
****
「いちまい~ にまい~ しゃんまーい」
仕事から帰宅すると、いっくんの可愛い声がした。
ン? 今日は駆け寄ってくれないってことは、何かに夢中になっているんだな。
「いっくん、どうした?」
「あぁ、パパぁ~」
いっくんがちゃぶ台の前に、ちょこんと正座している。
その様子が可愛くて溜まらない。
「潤くん、お帰り。樹ね、もうずっとこんな調子なの」
「あれは葉っぱ?」
「うん、ほら、明日からキャンプでしょ。その準備なんだって」
「あぁ、もしかして」
「そうなの、みんなにお土産を渡すんだって張り切っているのよ。子供の発想って可愛いわよね」
「あぁ」
いっくんは不揃いの葉っぱを並べて、数えている。
「パパぁ、ちゃーんと、13まいあるよね?」
「あぁ、あるよ」
「これはね、めーくんにあげるよ。こっちはみーくん。それからそーくんにもあるよ。あとは、はじめまちてのごあいさつよう」
「パパもはじめましての人ばかりだよ」
「パパも?」
いっくんが小首を傾げて、オレを見つめてくる。
「だから一緒だよ」
「そっか、よかったぁ。いっくんね、ちょっとね、ドキドキしてたの」
「あぁオレもだ」
「パパも! ママぁ~ いっくんパパとおんなじ」
そんなことも、オレと一緒なのを喜んでくれるのかと思うと、泣けてくる。
この子はマジ天使だと、何度も思うよ。
オレを導いてくれる天使だよ。
「潤くん、私ね、キャンプに誘っていただいたお礼に、これを作ってみたの。どうかな?」
菫さんはミシンで何かを作っていたらしく、少し恥ずかしそうに見せてくれた。
「お! 葉っぱのコースターか!」
「うん、私の取り柄といえばお裁縫くらいしかないから」
緑のフェルトを縫い合わせた葉っぱ型のコースターが13枚。
「はは、これは、いっくんが喜びそうだな」
「キャンプだから、自然っぽいものがいいかなって」
「あぁ、皆に使ってもらおう。裁縫だけじゃなくて、菫さんは料理の腕も最高だよ。手作りピザ、ぜひ作ってくれよ」
「わぁ……潤くんってば褒め上手ね」
「本心だよ。キャンプではよろしくな」
俺たちは夜明け前に、車で出発した。
いっくんはパジャマのまま、夢の中。
オレと菫さんはそんないっくんを挟んで、夜明けの甘いキスをした。
****
今日からサマーキャンプだ。
オレは実家に寄ってから、キャンプ場で直接合流することにした。
「1個~ 2個~ 3個~」
って、おいおい、こんなにいらないよな。
そもそもキャンプだ。
だが、愛しい小森風太こと、こもりんとお泊まりだ。
でも、今回は外野が多い。
だがログハウスは、個室だって聞いているぞ。
あぁぁ~ 何個持っていけばいいんだぁ~
「良介、入るわよ!」
「ねねねね、ねーちゃん」
オレは机の上に並べたモノを慌ててササッと片付けた。
「何してんの?」
「なななななな、なんでもないです」
やべー、声が震える。
「怪しいな」
「とんでもないっす!」
「まぁいいけど、ほら、これ持っていきな」
「ねーちゃん!」
ドサッと机に山積みに置かれたのは、かんのやの饅頭だ。
「こんなに?」
「あんたの可愛い子、饅頭切らすと大変なんでしょ。栄養補給しないと。キャンプは暑そうだ」
確かに熱々だ。熱々カップルだらけだからな!
「サンキュー! ねーちゃん」
「なんだかんだいって、私もブラコンだわ」
というわけで、俺は両手にかんの屋の土産袋をガサガサと持って出発した。
俺だけ凄い荷物だろうな。
恥ずかしい!
だが、全部愛しいこもりんのためだ!
****
「さぁ乗れ!」
「えっ……流、いつの間に」
「いつもの車じゃ手狭だろ。小森もいるし、この大荷物だし」
「……すごい! 流石、流だな。気が利いているね」
兄さんが目を細めて、俺を見つめてくれる。
俺はこんな時間が大好きだ。
全部兄さんのためだ。
兄さんのための荷物を運ぶために手配したのさ。
「よーし、なんとか荷物も全部積めたな。ん、小森も荷物後ろに入れろよ。重いだろ」
「いえ、これは大事なものです、肌身離さずいたいんです」
ギュッと唐草模様の丸い風呂敷を抱え込んでいる様子に、苦笑した。
小森のことだから、ろくなものが入っていないだろう。
呆れ気味に車を発進させると、車の揺れに合わせて小森の荷物が音を奏でる。
「あ……流、波の音がするよ」
「ははん」
さては中身は小豆だな。
小森のヤツ、まさかBBQの炎であんこが炊けると思っているのか。
可愛いヤツ。
「丈、いい音だな。心が凪いでいく」
洋くんが丈にもたれて甘えたように囁く。
洋くんなりに緊張しているのだろう。
大丈夫だ。
このサマーキャンプは、君にとって最高の夏の思い出になるだろう。
さぁ楽しい思い出で、どんどん塗り替えていこうぜ!
俺たちの青春は、まさに今だから!
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