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HAPPY SUMMER CAMP!⑥

「あー、あそこにむちーさんがいるよぅ! きれいなはっぱさんもいる。ああん……でも、とどかないよぅ」  せのびをしたけど、よくみえないよ。 「パパーっ」てよぼうとしたら、びゅーんとたかくなったよ。 「わぁ!」 「いっくん、どうだ?」 「よくみえましゅ、おやぶん!」 「ははっ、いっくんがおやぶんって言うの、可愛いな」 「えへへ」  きれいなはっぱさんをみていると、ニコニコしちゃう。 「どれか欲しいのあるのか」 「えっと、おちばさん!」 「落ち葉? どうして? 新鮮な葉っぱを取ればいいのに」 「かわいそうでしゅから」 「そうか」  じべたにおろしてもらったら、おほしさまみたいなはっぱをみつけたよ。 「これ! なっくんにあげる」 「えーっと、なっくんってオレ?」 「うん、おっきなおにいちゃんのほうだよ。ちっちゃなおにいちゃんはめーくん」    あれあれ、めーくんはどこ?  キョロキョロすると、きをじーっとみていたよ。 「めーくん、むしさんでしゅか」 「いっくん。ほら、クワガタがいるよ」 「へぇ、クワガタか。じゃあ連れて帰るか」 「うん! あ……虫かご忘れちゃった」  わぁぁ、きょうはむしさんといっしょにおとまりできるんだ!   わくわくだよぅ! **** 「ここ……同じ神奈川なのに随分と自然豊かな場所なんだな」 「洋くんはあまりこういう場所に馴染みがない?」 「そうだな。ずっと都会育ちで……母は虫を見たら卒倒するタイプだったから……こういう子供らしい夏休みの記憶がないんだ」  洋くんは美しい顔を、少しだけ陰らせた。 「……お父さんも好きじゃなかった?」 「え? 父? ……父か……どうだろう?」  洋くんのお父さんは早くに亡くなったと聞いている。だから聞くのはどうかと思ったが、今の洋くんになら投げかけてもいいような気がした。 「あっ……そういえば、家に蜘蛛が出ると母が気絶しそうになって、父がいつもすっ飛んできて逃がしてあげていたな。父は虫は怖くないようだった。俺が幼稚園の頃は公園にも連れて行ってくれたような……」  洋くんの視線が、過去を彷徨い出す。  消えた記憶に、もう少しで手が届くようだ。 「お父さんが、外で遊んでくれたんだね」 「そう……そうだ! 瑞樹くん、俺、思い出したよ。夏休みに虫かごを買ってもらって、父と網を持って出掛けたのを」  洋くんの美しい顔が、どんどん上気してくる。温かい思い出に触れたようだ。良かった! 「洋くんもお父さんの記憶を思い出せたんだね」 「瑞樹くんも?」 「僕も最近なんだ。お父さんに繋がるくまさんに出逢えてから……どんどん蘇ってきている」 「そうか……お互い良かったな。大切な記憶を取り戻している最中なんだな」 「うん」  洋くんとの会話は、いつも静かだ。  穏やかな凪の世界にいる。  お互い……波瀾万丈な人生だったからこそ感じる、穏やかな時間への愛おしさ。  そういうものを共有出来る友人だ。 「お兄ちゃん、カブトムシがいるのー 虫かごかして」  切り株に座って木漏れ日を浴びながら洋くんと語らっていると、芽生くんが興奮した面持ちで戻ってきた。  「虫かごなら……あっ! しまった」 「あれ? 持ってないの?」 「ごめん、ごめん。潤の泊まるコテージに置き忘れちゃった。すぐに取ってくるね」 「ひとりで大丈夫?」 「うん、お兄ちゃん、足が速いから、すぐに戻ってくるよ」 「うん! 気をつけてね!」  洋くんにこの場は任せて、僕はひとっ走りした。  久しぶりに山の中を、緑の匂いの中を走った。  風が心地良い。  木漏れ日が眩しい。  林を抜けると視界が開けた。  よし! せっかくだから設営中のテントの前を横切ろう!    近づくと、テントが2張見えた。  早いな、もう張れたんだ。  宗吾さんと流さんは、どこ?  視界を巡らすと、突然肌色が飛び込んで来た。  え! 流さん……なんで半裸に?  筋肉隆々とした男らしい体躯にドキッとした。  って、僕……そんな場合じゃ。  すると宗吾さんがテントの中から黒い下着姿で出て来た。手には脱いだシャツを持っている。  あぁそうか……テント張りで、大量の汗をかいたんだな。  僕の宗吾さんだ。  宗吾さんも身体を鍛えていて、とても逞しいんだ。  脱いだら凄いんだ。  でもそれは僕だけの秘密。  そんな甘い気分でぼんやり見つめていると、突然宗吾さんの姿が消えた。 「え?」  慌てて近寄ると、流さんに押し倒されていた! 「ええええ‼」 「わぁーよせって」 「宗吾、何気取ってるんだよ。男なら脱げよ~ 肌着なんて着ている場合かぁ」 「うわっ、くすぐったい!」  黒いシャツの中を、流さんが覗き混んでいる。 「どれ、おぉ、結構胸板あるんだな~」 「うひゃー やめろって」    大柄な二人が、テントをマットに仲良く睦み合って……  いないからっ! 「な、何をしてるんですか」    つい真顔で叫んでしまった。  思いがけず大きな声だったので、隣のログハウスの窓が一斉に開いたような音がした。 「み、瑞樹ぃ~ 助けてくれー 流に襲われる」  宗吾さんが笑いながら叫ぶ。でも僕は笑えない! 「なっ、なななな……何をするんですかー 宗吾さんは僕のものです!」  はっ! 僕はこんな外で……一体何を口走って。  慌てて自分の口を手で押さえて、辺りをキョロキョロ見渡したが、幸い誰も見ていなかった。窓が開いたのは気のせいだったようだ。両隣のログハウスの窓には誰もいなかったので、胸をほっと撫で下ろした。 「宗吾、ごちそうさん!」 「も、もうふざけるのも程ほどにしてくださいよ」 「悪い、悪い。宗吾とは学生時代のノリになってしまうんだよな」 「流さん……あのあの……目のやり場に困ります。せめて……ボタンは留めてください!!!」 「あれ? いつの間に」  ただでさえ上半身が既に裸で色気ムンムンなのに、Gパンのウエストのボタンが外れて、パンツまで見えているので……目のやり場が。 「今更どうした? 風呂にも入った仲だろ。瑞樹ちゃんも顔真っ赤にして暑そうだな。そのシャツ、脱いじゃったら?」 「い、いいですー!」  もぅ、流さんはかなりの強者だ!  よしこうなったら、流さんの天敵にヘルプだ!(違った! パートナーだ) 「僕、今すぐ、翠さん呼んで来ます!」 「え? 翠? 俺も行く! 兄さんに会いたくなってきた」 「へ?」 「瑞樹ちゃん、仲良く一緒に行こうぜ~」 「ひぃ……」  流さんに肩をグイッと組まれて、ドバッと変な汗が出た!    

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