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HAPPY SUMMER CAMP!⑦
「あ! かわいいはっぱちゃんと、かっこいいはっぱくん、みーつけた」
「わぁ、いっくんはキレイなはっぱをみつけるの、じょうずだね」
瑞樹くんが虫かごを取りに行ってしまったので、俺は子供達の様子を見守っていた。
この俺が、小さな子供の相手をするなんてな。まだ勝手がよく分からず、さっきから立ち尽くすのみだ。しかし目を閉じて、耳を澄ませば……瑞樹くんが呼び起こしてくれた記憶が明るく浮かんでくる。
あれは……
小さな俺がお父さんに肩車をしてもらい、笑っているのか。
いっくんや芽生くんみたいに無邪気な顔でちゃんと笑っている。
あぁ……これは俺がずっと忘れていた光景だ。
……
「洋、あそこにカブトムシがいるぞ」
「どこぉ?」
「ここだよ、見えるか」
「わぁ~ 本当にいた!」
「はは、洋も男の子らしいんだな。お姫様と暮らしているせいか普段は静かすぎて心配だ。たまにはこうやって父さんと出掛けるのも悪くないな」
「うん! とっても楽しいよ」
……
俺のお父さんは背が高く、体格のよい人だった。母が病弱で、か弱い人だったので、その分沢山抱っこやおんぶをしてくれた。
淡い思い出の欠片を拾い集めていると、可愛くシャツの裾を引っ張られた。
「ん?」
「あ、あのね、このはっぱ、よーくんにあげる!」
いっくんが鼻の頭に泥んこをつけて、天真爛漫に笑っている。
「俺に?」
「これは、とってもキレイなはっぱちゃんだから、よーくんにぴったり」
落ち葉なのに美しい色と形だった。
「ありがとう、嬉しいよ」
「よーくんってね、すっごくきれえだね。めがみしゃまみたいだよ」
隣で芽生くんがキョトンとする。
「いっくん、めがみさまは女の人だよ」
「そうなの?」
「でも、まぁいっか。洋くんキレイだもんな」
「うん!」
母によく似た女顔。男にしては線が細過ぎる儚い外見は、幼い頃から「女みたい」と揶揄されるころが多かった。でもいっくんや芽生くんに言われるのは、少しも気にならない。
心が安らぐとは……このことを言うのか。
「いっくんと芽生坊は、葉っぱ探しの達人だな」
薙くんがヒョイと、俺の手の平を覗き込んだ。
「なっくんにも、あるよ」
「へぇ、オレはどんなはっぱ?」
「なっくんはこれでしゅ……はっぱさんじゃなくて、いしころくん。かっこいいでしゅよ!」
いっくんがニコニコと薙くんに手渡したのは、少し先が尖った石だった。
「ははっ、オレらしいよ」
薙くんは、翠さんによく似た美しい顔を豪快に崩した。
その笑い顔は、流さんによく似ているよ。
****
「おいおい、ちょっと待てよ!」
豪快な流に強引に肩を組まれた瑞樹に、ちょっと焦ってしまった。
「流っ! 俺の瑞樹に気安く触れんなよ!」
ありふれた光景で、端から見れば何も不自然ではないのに、流が俺の瑞樹に密着するのはどうも……落ち着かない。
「お? 宗吾、もしかして妬いてんのか」
「流……お前なぁ、後で後悔するぞ」
「ははっ、瑞樹ちゃん早く兄さんの所に行こうぜ~ 瑞樹ちゃんの彼氏は嫉妬深いんだな」
「あ……あの……えっと、その……ちょっと」
更に密着してくる流に、瑞樹はもうしどろもどろで真っ赤になっていた。
そこに「チョキン」と聞き慣れない音がした。
「チョキン?」
前方を見ると呆れ顔の、いやいや……俺に分かる。
隠しきれない嫉妬心をちらつかせた翠さんが立っていた。
仁王立ち?
いや~ 普段、温和で大人しい人が怒るのって怖えー!
「流、その格好は……どうしたの?」
「兄さん! 俺、テント張り頑張ったぜ! で、暑くなって脱いだんだ」
「テント作りの件は偉かったね。でも真っ昼間だし、両隣のログハウスには女性ばかりなんだから」
「だから?」
流はポカンとしていた。おそらく月影寺内ではこんな風に上半身裸になるのは日常茶飯事なのだろう。
チョキン――
またこの音だ。さっきから、何の音だよ?
「流……察しない?」
チョキン、チョキン
「わわ! 兄さん、その手に何を持っているんだ? 物騒だな」
「あぁ、これか」
翠さんは手によく切れそうな鋏を持っていて、それを無意識に動かしていたようだ。
「コテージで菫さん達とガーランドを作っていたんだ。それで布の裁断を……」
「そ、そうだったのか。あ〜 汗も引いたし、そろそろちゃんと服を着ようかな」
流がびびっている。
翠さんの前では、あんなに可愛くなるのか。
やっと流から解放された瑞樹は、困り顔で翠さんと向き合っていた。
「翠さん、あの……さっきのは……」
「瑞樹くんは心配しなくていいよ。おいで、虫カゴを取りに来たんだろう?」
「あっ、はい!」
「届けてあげようと思ったんだ。薙はちゃんと小さなお子さんの相手を出来ているかな?」
「バッチリです。よかったら一緒に見に行きませんか」
「そうだね。ご一緒してもいいかな?」
よーし! 翠さんと瑞樹のコンビなら安心安全だ。自由に行動していいぞ!
「よーし、あと二張、頑張るぞ!」
テントを広げようとすると、さっと横から手が伸びた。
「私も手伝いますよ」
「え? 丈さんが」
丈さんは黒いTシャツ姿の俺を一瞥して不敵に笑った。
「フッ……私の勝ちだな」
記憶に蘇るのは、以前……月影寺でのキスマーク合戦に僅差で負けたことだ。慎ましい瑞樹の遠慮が原因だったから仕方が無いが……どうにもこの張矢丈という男とは張り合いたくなる。
「な、何がだ?」
「私は……脱いだら凄いんだ」
「はぁ?」
その台詞、丈さんが自分で言うー? 全く得体が知れない敵とは、このことか!
丈さんは俺の前で、着ていたシャツをパッと脱いで白いTシャツ姿になった。
おぉ! 流石医者だな、白い服が凜として似合うな。
っと……そんなことに見惚れていいる場合じゃない!
俺にTシャツから覗く二の腕を自慢気に見せてくる。
「ほら、私の方が筋肉ついているだろう」
「な、俺だって」
「真っ黒でよく見えないが」
「よーしっ、脱いで比べようぜ」
「あぁ、受けて立とう」
俺と丈さんはまるでゲームのバトルのように向き合って、白いTシャツと黒いTシャツを空に放り投げて、お互いの裸体を見せ合って睨み合う。
そこに翠さんと瑞樹が、可愛らしく談笑しながらやってくる。
お! これは瑞樹にいい所を見せるチャンスか!
ところが……
「くすっ、くすくす」
「ははっ、二人は仲良しだね」
ハァー?
瑞樹は翠さんと並んで、たいした関心も示さず素通りしてしまう。
胸の前で、可愛くバイバイして……
「お、おい! 瑞樹ぃ~」
「宗吾さん、そこは日差しがあるので、いつまでも裸でいると大変ですよ、丈さんは抜かりないかもですが、宗吾さんは気をつけて下さいね」
「え?」
「ふっ、紫外線は大敵だ。だが私は既に日焼け止めを塗っている」
「お、おい! 俺にも塗ってくれよー」
丈さんが抱えていた鞄を開くと、救急箱のように薬や包帯などがぎっしり入っていた。
はは、参ったな。
医師の丈さんは完璧だ。
もう休戦だ、停戦だ。
俺は丈さんに背中を向けて、背中に日焼け止めを塗ってもらうことにした。
隣接するログハウスの窓は相変わらず閉め切ったままで、あの人数の女性がいるわりには静かなだった。皆で何処かに出掛けたのか。
翠さんが女性の目を気にするのは意外だったな。いや翠さんらしいのか。
林の入り口で、瑞樹が振り返ってニコッと笑ってくれた。
可愛いなぁ。
いい時間だな。
楚々とした後ろ姿。小ぶりなヒップに高い腰の位置。顔立ちは清楚で可憐でスタイルは抜群にいい。瑞樹は俺の自慢のパートナーだ!
声を大にして叫びたくなる。
「宗吾さん? 鼻の下に気をつけて下さいよ」
「お? ヤバイ! また伸びていたか」
「ふぅ……宗吾さんは何事にもストレートで羨ましいですよ」
「じゃあ、丈さんも一緒に伸ばそうぜ」
「いや、それは結構だ」
さぁこの澄ました男を、この後どう料理しようか。
キャンプはまだ始まったばかりだ!
ゆっくり楽しもうぜ!
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