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HAPPY SUMMER CAMP!⑪

「じゃあ次は具を切りましょう 子供用の包丁も用意してありますが、難しかったら、頼もしいパパとママにお願いしましょうね」  黄色と赤のピーマンとソーセージ、マッシュルームを、まな板の上に置かれた。  うーん、これは困ったなぁ。  僕は包丁を扱うのが、正直に言うと……かなり苦手だ。切った端から具材がコロコロと逃げていくから、台所が滅茶苦茶になると流が嘆くのだ。  案の定、僕たちの様子を真横でガン見していた流が、手を慌てて伸ばしてくる。 「にっ、兄さん、それは俺が交代するよ」 「いや、大丈夫だ」 「父さん、オレがやるよ」 「いや、大丈夫だよ」  包丁を持つ。  ピーマンを切る。  やっぱり今日も……切った端からヒュンヒュンと視界から消えていく。 「わぁ~! パパ、おそらからほしのカケラがふってきたよ。おほしさまになったパパありがとー!」  前の席にいるいっくんが空に手を伸ばして、喜んでいる。  それって僕の切った黄色いピーマンじゃ?   「くくくっ」 「パパぁ、どうして笑っているの?」 「いや、美味しそうなお星さまだたって」 「うん! たべられそうだねぇ」  僕と薙は、顔を見合わせて赤面するしかなかった。 「父さん、ほら貸せよ。オレの方がましだって」 「……じゃあ薙がマッシュルーム切ってごらん」 「OK」  ところが薙の包丁さばきも覚束ない。 「あ、ヤバっ」  コロコロコロコロ、まな板からスライスしたマッシュルームが消えて行く。 「パパ、たいへんでしゅ! こんどは、おつきさまがころがってきまちた!」  いっくんの舌足らずな声に、また赤面する。 「父さん、オレたちの具が消えて行くよ」 「だね」  隣で流が天を仰いでいる。 「あーもう、見てらんねー!」  流が割り込んできて超高速で残りの具材を切り刻んでいった。 **** 「芽生くんも少し切ってみる?」 「いいの?」 「うん、気をつけてやるんだよ」 「わかった!」  芽生くんは手先が器用なので、任せてみようと思った。  僕がすぐ傍に付き添い、ゆっくり切っていく。 「わぁ~ できた! できたよ」 「そうそう、その調子だよ」 「えへへ、お兄ちゃん、見ていてね」 「うん。芽生くんとっても上手だよ」  褒めてもらうと、くすぐったくも嬉しいよね。  僕もね、小さい頃、キャンプでこんな風にお父さんとお料理したよ。普段の料理はお母さん担当だったけれども、キャンプではお父さんが主導権を握っていたんだったな。 …… 「瑞樹、手伝ってくれるか」 「うん!」 「よーし、じゃあ、ニンジンを切ってくれるか」 「がんばるよ」 「瑞樹、上手だぞ!」 「えへっ」 ……  お父さんのカレーは豪快な味で、僕の切ったいびつなニンジンも目立つことなく煮込まれて、とても美味しかった。  そういえば、キャンプにはくまさんも付いてくることもあったな。 …… 「みーくん、カレーがもっと美味しくなる魔法をかけようか」 「何をするの?」 「蜂蜜を入れるんだよ」 「わぁ~ くまさんのハチミツ。だーいすき!」 「俺の作ったハチミツが、みーくんの大好物になって嬉しいよ」 ……  そう……僕とくまさんはずっと仲良しだったんだ。  思い出に、また心温まる。 「さぁ生地の発酵が終わりましたよ。薄く丸くのばして、切った具を載せて下さい」  発酵した生地は一回り大きく、もちもちになっていて、可愛かった。 「お兄ちゃん、もちもちだね」 「だね」  芽生くんとの会話は、いつだって和やかだ。 「一緒にのばしてみよう」 「うん!」  ふたりで協力してまあるく薄くのばして、ピザソースや具をトッピングした。   「まぁこちらの親子さんは大変お上手ですね、ふたりの息があっているからですね」  先生に褒められて、僕も嬉しかった。  一方、潤たちは…… 「いっくん、寝るな-」 「パパ、もうだめでしゅ……おやすみにゃさい……むにゃむにゃ……」  いっくんが芝生にパタッと横になってしまった。  わわわ、いっくんって、自由人なの? 「わー 地ベタはよごれる~ わー わー!」  潤があたふたしているのが可愛くて、つい手助けもせずに見つめてしまった。 「兄さん、ヘルプ! 見てないで手伝ってくれよ」 「あ、ごめんごめん。手伝うよ」  潤が子供みたいに、僕に縋ってくる。  懐かしいよ、そんな風にまた僕を呼んでくれるのが。 「潤は手先が器用なんだね。僕よりも生地をのばすの上手だ」 「兄さんは見かけより……ダメだよな」 「あ、それを言う?」 「でも花を束ねるのは最高だ」  二人してあの軽井沢での結婚式を思い出し、照れ臭くなってしまった。 「次は兄さんの番だ。絶対にしてくれよ」 「う、うん……そうだね。僕もそうしたいなって思っている」  びっくりするくらい前向きな言葉。  僕の言葉、僕の意思。  函館で一緒に暮らしていた時には見せられなかった僕の姿を、今、見て欲しい。 「兄さんのお陰で完成だ。あとはピザ焼き釜に入れる順番待ちだな」 「翠さんたちはどうしたかな?」 「見に行こうぜ」  潤は芝生で眠ってしまったいっくんを、軽々とおんぶした。 「あれ? いない」 「本当だ。じゃ、あのピザを片手でクルクルと回しているのは」 「流さんだ!」  親子クッキングは、途中リタイヤだったのかな?  翠さんと薙くんは涼しい顔で、日陰でお茶を飲んでいた。  その様子がそっくりで、薙くんって……最近翠さんにも似てきたんじゃないかって思ってしまうよ。  **** 「洋……洋……」  丈に仰向けに寝かさて、両頬を包まれ……甘いキスを受けていた。  丈からの一途な思いが届き、少しだけ芽生えていた嫉妬心なんて消えて行く。 「あ……よせ……それ以上は……まだっ……」  丈が俺に覆い被さって……俺の下腹部に自分のものを擦り合わせてくる。 「ん……ん……っ」 「安心しろ。今は……最後まではしない。こうやっているだけでも気持ちいいな」 「あぁ……」  俺たち、飢えているのか。  皆にピザを任せて、白昼堂々こんなことを。  丈が上下に揺れると、擦り合っている部分が切なく震えた。  欲しい、欲しくなる。 「洋、洋……」  耳元で聞える丈の男らしい低い声にうっとりした、その時だった。  ボキッ!  骨が折れるような音がしたのは!  

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