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HAPPY SUMMER CAMP!⑫
ポキッ――
何かが折れた音がして、仰向けになって身体を開いている洋と顔を見合わせてしまった。
洋が怪訝そうな顔をして目を細める。
「丈、お前の腰……大丈夫か」
「ふっ、何を言う? それより洋の股は無事か」
「お……お前、な、なんてこと言うんだよ!」
私の腰は無事だし、洋も真っ赤になって元気に怒っているのだから、ダメージはないようだ。
じゃあ一体何が折れたのか。
「ん……眩しい」
「ん?」
さっきより日差しが背中に多く届くような……背中がじりじりと熱くなっていく。
「丈、どけ! まずい!」
突然……洋が真っ赤になって、シャツの裾と襟元を掴んで、私を退けようと藻掻き出した。
そこでようやく気付いた。
仰ぎ見るとテントポールがボキッと折れ、テント生地を突き破って中が丸見えになっていた。
「壊れたのか」
「じょっ、丈が激しく動いたせいだ!」
洋が動揺し、涙目で訴えてくる。
洋の涙に私は弱い。
「あぁそうだ、私が悪かった。だからそんなに泣くな」
「どうしよう……どうしたら……」
洋が、テントの陰に隠れるように身を潜めて怯えている。
失敗することを極端に恐れるのは、悲しい過去のせいなのか。
「洋、怯えなくていい。私がいる。私がついているだろう」
「丈……」
こんな時の洋は、いつもより幼く弱々しい。
過去の君を彷彿するんだ。
今の洋は、平安時代を生きた洋月の君に被って見える。
だからこそ優しく抱きしめて、掬い上げてやりたくなる。
「大丈夫だ。私に任せておけ、治療は大の得意だ」
応急バックからテーピングを取りだし、折れたポールをギチギチに巻いた。
手で押して確認すると、しなるほど強靱なポールに生まれ変わっていた。
「このテーピングは強力だから、更に強力になったぞ」
「良かった。あ……でも破けたテントは、どうする?」
「洋、私は外科医だ。破損した場所を縫うのなんて朝飯前だが」
「そうか!」
ふぅ、よかった。洋の機嫌が直ったようだ。
治療用の針と糸を巧みに使い、破れた箇所を修理していく。
応急処置だが、今晩はなんとかなるだろう。備品を壊したのは私のせいだから、いさぎよく弁償か買い取りをしよう。
「丈……すごいな。見事な手捌きだ」
「見直したか」
「あぁ、医師の丈はやっぱり格好いいな!」
花が咲くように洋が笑う。
それだけで私は幸せになる。
だが……
「……洋、その言い方、変えないか? どうも、さっきの石野さんの顔がちらつくのだが」
「あ、確かに。人の良さそうな子煩悩な顔が過るよ。ちょっとぽっちゃりして可愛い人だったな」
「私にぽっちゃりは無縁だからな」
「いつも俺と運動しているから?」
洋が今度は艶やかに笑った。
****
親子ピザ教室。
「ねーね、あそこの人すごいね」
「本当だ。まさか本場のピザ職人? なんか動きが日本人離れしているわよね~ ダイナミック!」
流さんが巧みにピザ生地を頭上で回しているので、周りの親子から感嘆の声が上がった。芽生くんも僕の隣で目をキラキラさせている。
「お、お兄ちゃんも、あんなこと出来る?」
わわっ、そう来る?
「いや、流石にお兄ちゃんには無理だよ」
「そっか~ あのね、ずっと前にパパがね、あれのマネしたら、ビューンとピザがお外にとんでいったんだよ」
「えぇっ、まさか!」
「ほんとうだよ」
くすっ、豪快なところ、宗吾さんらしいな。
道を歩いていた人は、さぞかしびっくりしただろう。
「あ、焼く順番がきたよ」
「わーい、もっていこう!」
芽生くんとピザ釜にピザをそーっとそーっと運んで、こんがりといてもらった。
「さぁ、どうぞ」
「わぁぁぁ、おいしそう!」
チーズに焦げ目がついてトロトロだ。芽生くんと僕が協力して切った具材にも火が通って上出来だ。
「お兄ちゃん、せいこうしたね!」
「うん! 芽生くんのお陰だよ」
「えへへ」
僕たちは仲良く焼き立てのピザを持って、宗吾さんの元に向かった。
「パパぁー ピザが焼けたよぅ」
「おー 頑張ったな」
「宗吾さん!」
「瑞樹も楽しかったか」
「はい!」
カシャッ――
心の中で、夏の思い出のシャッターが下りる音がした。
****
「んんん……くんくん、いいにおい。ここはどこかな?」
「お、いっくん、おっきしたか」
「したぁ!」
いっくん、パパのせなかにいたよ。
パパのせなかって、ひろくてのりごこちがいいなぁ。
のぞくと、ぴしゃができていたよ。
あれあれでも……
「パパ、しろいねぇ」
「ははっ、これを今から焼くんだよ」
「あちちするの?」
「そう、あの熱々の釜にいれるんだ」
「わぁ」
「おんりするか」
「ううん、ここからみたい」
パパのせなかはたかくて、いろんなものがみえるよ。
「あー おやぶん」
「ん? あぁ、お疲れ組だな」
「おじちゃんが、ピザくるくるしてる」
えっと……あれはだれだったかな?
おやぶんのパパの……えっとぉ。
ひとがいっぱいでおぼえられないや。
「兄さんから聞いていた通り、流石だな」
「なんて?」
「スーパーマンだって」
「んっと、しゅごいひとってこと?」
「そうそう」
そっか、じゃあいっくんのスーパーマンは
「パパすごい。パパありがとう。パパ、だーいしゅき」
ほっぺにちゅってしたら、パパまっかっか。
「ひゃーー! いっくん、ありがとな。褒めまくってくれるんだな。パパ、幸せだよ」
「パパのおめめ、キラキラだね」
「これは汗だよ。泣いてなんかない。ほらもう焼けたよ」
「わゎぁ、ぴしゃぁー」
カシャ――
ふりむくと、みーくんがおしゃしんをとってくれていたよ。
「潤、いい顔してる!」
「兄さん、こっ、これは汗だからな」
「うんうん、分かっているよ」
とってもごきげんなみーくんと、はずかしがりやなパパ。
いつもとちがって、たのしいね。
ニコニコ、ニコニコって、だいすき!
みーくんのうしろに、めーくんがみえたので、パパにおろしてもらったよ。
「めーくん! めーくんのぴしゃもできた?」
「うん! おいしそうにできたよ」
「みたいな」
「みんなで食べよう! さぁみんな待ってるよ。コテージにいこう」
「うん!」
めーくんがいっくんと、おててつないでくれるよ。
ほんとうに、おにいちゃんみたいだなぁ。
いっくん、うれしいな!
そっか、みんながいってた『なつやすみのおもいで』って、このことなんだね!
いっくんはパパとつくったぴしゃのえをかくよ!
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