1124 / 1646

HAPPY SUMMER CAMP!⑫

 ポキッ――  何かが折れた音がして、仰向けになって身体を開いている洋と顔を見合わせてしまった。  洋が怪訝そうな顔をして目を細める。 「丈、お前の腰……大丈夫か」 「ふっ、何を言う? それより洋の股は無事か」 「お……お前、な、なんてこと言うんだよ!」  私の腰は無事だし、洋も真っ赤になって元気に怒っているのだから、ダメージはないようだ。  じゃあ一体何が折れたのか。 「ん……眩しい」 「ん?」  さっきより日差しが背中に多く届くような……背中がじりじりと熱くなっていく。 「丈、どけ! まずい!」  突然……洋が真っ赤になって、シャツの裾と襟元を掴んで、私を退けようと藻掻き出した。  そこでようやく気付いた。  仰ぎ見るとテントポールがボキッと折れ、テント生地を突き破って中が丸見えになっていた。 「壊れたのか」 「じょっ、丈が激しく動いたせいだ!」  洋が動揺し、涙目で訴えてくる。  洋の涙に私は弱い。 「あぁそうだ、私が悪かった。だからそんなに泣くな」 「どうしよう……どうしたら……」  洋が、テントの陰に隠れるように身を潜めて怯えている。  失敗することを極端に恐れるのは、悲しい過去のせいなのか。 「洋、怯えなくていい。私がいる。私がついているだろう」 「丈……」  こんな時の洋は、いつもより幼く弱々しい。  過去の君を彷彿するんだ。  今の洋は、平安時代を生きた洋月の君に被って見える。  だからこそ優しく抱きしめて、掬い上げてやりたくなる。 「大丈夫だ。私に任せておけ、治療は大の得意だ」  応急バックからテーピングを取りだし、折れたポールをギチギチに巻いた。  手で押して確認すると、しなるほど強靱なポールに生まれ変わっていた。 「このテーピングは強力だから、更に強力になったぞ」 「良かった。あ……でも破けたテントは、どうする?」 「洋、私は外科医だ。破損した場所を縫うのなんて朝飯前だが」 「そうか!」  ふぅ、よかった。洋の機嫌が直ったようだ。  治療用の針と糸を巧みに使い、破れた箇所を修理していく。  応急処置だが、今晩はなんとかなるだろう。備品を壊したのは私のせいだから、いさぎよく弁償か買い取りをしよう。 「丈……すごいな。見事な手捌きだ」 「見直したか」 「あぁ、医師の丈はやっぱり格好いいな!」  花が咲くように洋が笑う。  それだけで私は幸せになる。  だが…… 「……洋、その言い方、変えないか? どうも、さっきの石野さんの顔がちらつくのだが」 「あ、確かに。人の良さそうな子煩悩な顔が過るよ。ちょっとぽっちゃりして可愛い人だったな」 「私にぽっちゃりは無縁だからな」 「いつも俺と運動しているから?」  洋が今度は艶やかに笑った。    ****  親子ピザ教室。 「ねーね、あそこの人すごいね」 「本当だ。まさか本場のピザ職人? なんか動きが日本人離れしているわよね~ ダイナミック!」  流さんが巧みにピザ生地を頭上で回しているので、周りの親子から感嘆の声が上がった。芽生くんも僕の隣で目をキラキラさせている。 「お、お兄ちゃんも、あんなこと出来る?」  わわっ、そう来る? 「いや、流石にお兄ちゃんには無理だよ」 「そっか~ あのね、ずっと前にパパがね、あれのマネしたら、ビューンとピザがお外にとんでいったんだよ」 「えぇっ、まさか!」 「ほんとうだよ」    くすっ、豪快なところ、宗吾さんらしいな。  道を歩いていた人は、さぞかしびっくりしただろう。 「あ、焼く順番がきたよ」 「わーい、もっていこう!」  芽生くんとピザ釜にピザをそーっとそーっと運んで、こんがりといてもらった。 「さぁ、どうぞ」 「わぁぁぁ、おいしそう!」  チーズに焦げ目がついてトロトロだ。芽生くんと僕が協力して切った具材にも火が通って上出来だ。 「お兄ちゃん、せいこうしたね!」 「うん! 芽生くんのお陰だよ」 「えへへ」  僕たちは仲良く焼き立てのピザを持って、宗吾さんの元に向かった。 「パパぁー ピザが焼けたよぅ」 「おー 頑張ったな」 「宗吾さん!」 「瑞樹も楽しかったか」 「はい!」  カシャッ――  心の中で、夏の思い出のシャッターが下りる音がした。   **** 「んんん……くんくん、いいにおい。ここはどこかな?」 「お、いっくん、おっきしたか」 「したぁ!」  いっくん、パパのせなかにいたよ。  パパのせなかって、ひろくてのりごこちがいいなぁ。  のぞくと、ぴしゃができていたよ。  あれあれでも…… 「パパ、しろいねぇ」 「ははっ、これを今から焼くんだよ」 「あちちするの?」 「そう、あの熱々の釜にいれるんだ」 「わぁ」 「おんりするか」 「ううん、ここからみたい」  パパのせなかはたかくて、いろんなものがみえるよ。 「あー おやぶん」 「ん? あぁ、お疲れ組だな」 「おじちゃんが、ピザくるくるしてる」  えっと……あれはだれだったかな?  おやぶんのパパの……えっとぉ。  ひとがいっぱいでおぼえられないや。 「兄さんから聞いていた通り、流石だな」 「なんて?」 「スーパーマンだって」 「んっと、しゅごいひとってこと?」 「そうそう」  そっか、じゃあいっくんのスーパーマンは 「パパすごい。パパありがとう。パパ、だーいしゅき」  ほっぺにちゅってしたら、パパまっかっか。 「ひゃーー! いっくん、ありがとな。褒めまくってくれるんだな。パパ、幸せだよ」 「パパのおめめ、キラキラだね」 「これは汗だよ。泣いてなんかない。ほらもう焼けたよ」 「わゎぁ、ぴしゃぁー」    カシャ――  ふりむくと、みーくんがおしゃしんをとってくれていたよ。 「潤、いい顔してる!」 「兄さん、こっ、これは汗だからな」 「うんうん、分かっているよ」  とってもごきげんなみーくんと、はずかしがりやなパパ。  いつもとちがって、たのしいね。  ニコニコ、ニコニコって、だいすき!  みーくんのうしろに、めーくんがみえたので、パパにおろしてもらったよ。 「めーくん! めーくんのぴしゃもできた?」 「うん! おいしそうにできたよ」 「みたいな」 「みんなで食べよう! さぁみんな待ってるよ。コテージにいこう」 「うん!」  めーくんがいっくんと、おててつないでくれるよ。  ほんとうに、おにいちゃんみたいだなぁ。  いっくん、うれしいな! そっか、みんながいってた『なつやすみのおもいで』って、このことなんだね!  いっくんはパパとつくったぴしゃのえをかくよ!    

ともだちにシェアしよう!