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HAPPY SUMMER CAMP!⑮

「お兄ちゃん、ボクも早く水着にきがえたい!」 「そうだね」  芽生くんは今日は少し甘えっ子だ。  僕に着替えの手伝いを強請ってジタバタしていて、可愛いな。 「めーくん、いっくん、もうきがえたよ」 「わぁ、いっくん早い! ちょっとまってね」 「あれれ?」  いっくんが自分のお腹を擦って、不思議そうな顔をしている。 「いっくん、どうしたの?」 「ぽんぽん……へん」  お腹をじっと見つめて今にも泣きそうな顔をしている。急にどうしたのかな? 「どうしたの? ぽんぽんって……お腹が痛いの?」 「ううん……あのね、いっくんのぽんぽん……どうちて、こんなにまるいの?」 「あぁ、そっち」  まだ3歳のいっくんは幼児体型だから当たり前なのに、芽生くんと比べて違うのが、おかしいと思ったらしい。  えっと……幼児体型って、いつまでかな?  芽生くんも僕と出会った当時は、お腹がぽっこりして可愛かったのを思い出した。 「いっくん、こわい……びょうき?」 「ええ! それは違うよ~ こんな時なんて言えばいいのかな?」  言葉に詰まっていると、芽生くんがトコトコやってきて、いっくんのお腹を優しく撫でてくれた。 「わぁ、やっぱり、いっくんのおなかには『しあわせの種』がいっぱいつまっているんだね」 「しあわせのたね?」  お腹に幸せの種が?  芽生くんの発想が、可愛くって溜らないよ。 「でもぉ、めーくんのおなか……ちがうよ」 「えっと……ボクはもう、たねをまいちゃったから、ぺたんこになったんだよ」    いっくんがあどけない表情で、小首を傾げている。 「ふぅん……たねって、どうやってまくの?」 「ええっとね、お兄ちゃん~ どうしたらいいのかな?」  最後には、芽生くんが僕にヘルプを求めてくる。    よーし、あとはお兄ちゃんに任せて。  芽生くんといっくんの世界に僕も潜ってみよう。   「そうだね。優しさや感謝の言葉……つまり『好き』とか『ありがとう』を沢山使うといいのかな」 「みーくん、ありがとう!」  いっくんがニコッと笑ってくれる。 「いっくんはママとパパがニコニコしてくれると、うれしいよね?」 「うん! うれちぃ」 「だから沢山『ありがとう』しようね。それが種を蒔くってことなんだよ」 「うん! パパもママもだいしゅき、いつもありがとうする。あのねあのね。たねって、ひまわりみたいにそだつんでしょ? 」 「そうだよ。優しさや幸せって、ちゃんと育つよ。グングン大きなって周りの人にも繋がっていくよ」  あぁ子供と話していると、ほわんと優しい気持ちになれるんだね。  優しさって連鎖するんだよ。優しい人の周りには、優しい人が集まるように。  着替えを終えてリビングに戻ると、場が盛り上がっていた。 「潤くん、すごいですね!」 「へへん、壁塗りは得意なんだ」  壁塗り? 「何をしてるの?」 「あ、瑞樹くーん、これを見てください」  小森くんが僕を見つけて、手を引っ張ってくる。 「あんこ?」 「あんこのウェディングケーキですよぅ!」 「はぁ?」 「えへへ、実はチルドパックのあんこを菅野くんが持ってきてくれたんです」 「それは流石だ」  菅野はいつだって気遣いの達人だ。どうやら小森くんとの間でも発揮されているらしい。  白いお皿の上には、こしあんを綺麗に二段重ねのケーキのように固めたものが載っていた。潤が手に握っているのは…… 「潤、それってバターナイフで?」 「そうだよ。建築屋時代は壁塗りとかしてたから……あっ、こんな話……ごめん」 「……いいんだよ。それよりすごいね。匠の技じゃないか」 「兄さんに褒められると照れるぜ」  ミニチュアのあんこのケーキに、誰もが笑顔になった。 「あんこのケーキ♡」  小森くんは目をハートにして、いつまでも眺めていた。  潤もまた……幸せの種を蒔く人になったんだね。 「よーし、いっくん、そろそろプールにいくか」 「パパァ、いく!」 「お兄ちゃん、ボクも早く行きたいよ」 「そうだね」  潤と僕が子供達と手を繋いで歩き出すと、背後に気配を感じた。 「ん?」  何故か……宗吾さんと流さん……丈さんと洋さんまでついて来ていた。 「いやいや……子供二人にこの人数は」 「えー 俺も暑いから水に浸かりたい」  流さんが口を尖らせる。(お子様のようですね!) 「いやいや、狭い子供用のプールのようすから」 「俺も入りたい!」  宗吾さんも、似たように駄々をこねる。  参ったな。この二人は似たもの同士だ。 「流、僕たち大人は大人しく待とう」  そこに翠さんの鶴の一声。 「兄さん……でもこんなに暑いんだぜ」 「……流は少し鍛錬が足りないようだね。そうだ! 僕がテントで座禅会を開いてあげるよ」 「えぇ! 兄さんが」 「僕が開くのに参加しないの?」  くすっ、翠さんは本当に流さんの扱いが上手だ。 「す、する! 変な女が近寄らないように見張らないとな」 「ン? どういう意味?」 「いや、さっきから不穏な視線を感じるからさ」 「まさか」  翠さんがクスッと笑う。翠さんの微笑みって品があるな。 「瑞樹ぃ~ 俺は座禅はいやだ」 「宗吾さん、そんな子供みたいに駄々を捏ねないでください」 「せっかくのチャンスが台無しだ」 「あの、チャンスって?」  白いTシャツの胸元と宗吾さんの視線がぶつかるのを感じて……胸の尖りがむずっとしてきた。まずい……! 「な……なにを期待しているんですか。僕は引率です。濡れませんから!」 「絶対に?」 「絶対にです」 「そっか、あわよくば……って思ったのにな」 「もうっ! あ、ほら……翠さんが呼んでいますよ」 「分かったよ。瑞樹、芽生と楽しんで来いよ」 「はい! 宗吾さんも座禅会で……いろいろと静めてきて下さい」 「言ったな、帰ったら覚えておけよ」 「くすっ、はい、その時はお相手します」 「可愛いことを」  僕たちの会話、変じゃないかな?  とにかく皆を振り払い、僕たちはキッズプールに向かった。 キャンプ場の一角のウッドデッキに作られた簡易プールだったか、子供たちの歓声が響いて楽しそうな雰囲気に包まれていた。 「わーい! プールだ」 「おみず! おみず!」  いっくんと芽生くんが仲良く手をつないで、浅いプールに足をつけて、ジャブジャブし出した。 「きもちいい」 「つめたーい!」  笑顔が、日光を浴びる水面のようにキラキラと輝いている。  僕と潤は目を細めて、その光景を見守った。 「兄さんとこんな場所に立つ日が来るなんてな」 「うん、そうだね」 「血は繋がってないが、お互い大切な子供を持つ身になったな」 「そうだね。潤と僕は今まったく同じ立場にいるよ」 「兄さんと一緒なのが嬉しいよ」 「僕も」  そこにバシャッと、水飛沫がかかる。 「おにいちゃんとパパも、あつそうでしゅよ」 「わ! いっくん!」  いっくんが大きな水鉄砲を発射していた。 「あはっ」 「意外だな。兄さんがそんな風に笑うなんて……」 「じゅーん、これが今の僕だよ! 覚えておいて!」  水飛沫を浴びながら笑えば、僕たちの関係もますます潤っていくようだった。 「お兄ちゃんも、それぇ」 「わ! 芽生くんまで」  気が付けば僕と潤は全身びしょ濡れで、また笑ってしまった。 「潤、羽目を外すのって楽しいんだね」 「あぁ、そうだな。よーし俺たちも入るぞ」 「パパぁ」 「お兄ちゃんも来て-」 「うん」  気が付けば周りの大人も足をつけて、ジャブジャブ遊んでいる。  夏の昼下がり。  炎天下のもと、僕は水飛沫の中で大きく明るく笑っていた。

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