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HAPPY SUMMER CAMP!⑰

 テントの中で宗吾さんに被せられた黒シャツを脱いで、改めて自分の胸元を見下ろして、ギョッとした。 「うわっ、これって……結構……」  生地の薄い白いTシャツだったせいか、乳首が淡いピンク色に染まっているのがはっきりと分かり、猛烈に恥ずかしい!  男同士なんだから意識するなといっても……宗吾さんの視線に絡め取られると、火が付いたように火照りだすんだ、僕の身体は。  静まれ、僕の煩悩! 「あら? 潤くんまでびしょ濡れじゃない。コテージで子供達とシャワーを浴びたら」 「菫さん、ありがとう! 子供達の水鉄砲攻撃で、パンツまでびしょ濡れだよ」 「くすっ、やんちゃな大人ね。あ、潤くんがびしょ濡れってことは瑞樹くんも?」 「その通りさ」 「でも……瑞樹くんどこにいるの?」 「それが……テントに飛び込んだまま出てこないんだ。おーい、兄さんもシャワーを浴びに行こうぜ!」  自分の尖った胸元に途方に暮れていると、テント越しに潤の声が響いた。  ど……どうしよう……そうだ、こういう時こそ座禅だ! 「ちょっと待って。タ、タオルと着替えを探しているから」  急いで座禅を組んだ。  以前教えてもらった通り、息を深く吸って大きく吐いて……雑念、煩悩をどんどん追い払い、胸の尖りを静めていく。 「兄さん、まだぁ?」 「いっ今、行くよ!」  僕は肩に大きなバスタオルをひっかけ、着替えを胸元に抱えて飛び出した。 「お? 瑞樹ぃ~ シャワー浴びるのなら俺も浴びたい! 汗びっしょりなんだ」 「そ、宗吾さんはダメです!」(絶対にダメだ!)  まだ上半身裸の宗吾さんを見つめると……涙目になりそう。  そこに流さんがドスドスやってきて、宗吾さんをズルズルと連れていってくれた。(えっと……助かったのかな?)  遠くで翠さんが涼しげな笑みを浮かべ、静かに合掌してくれた。  翠さんって仏さまのようだ。(助かったんだ!) 「流~! 俺をどこへ連れてくんだ?」 「宗吾はこっちだ」 「せっかく瑞樹と仲良くシャワーを浴びようと思ったのに」 「宗吾は水で充分だろ! さっきお手製のシャワーブースを作ったんだ。まずは実験台になれ!」 「えー!」  くすっ、宗吾さんは流さんに任せておけば安心安全だ。  感謝!(合掌)  コテージで、まずは潤が超特急でシャワーを浴び、入れ替わりに湯船に浸からせてもらった。いっくんも芽生くんも一緒にドボンと入ってくる。  それから泡だらけにしてあげた。 「わぁ~ もこもこだ」 「いっくんも、もこもこさん」  白い泡で包まれた子供たちは、地上の天使のようだ。 「いっくんのぽんぽんに、しあわせのたねさん、いーっぱい」 「ボクのたねは、いろんなところにまいたよ。芽がでて花がさくのたのしみだな」    幸せの種を蒔く話、よほど気に入ったんだね。 「みーくんのぽんぽんも、おなじだったの?」 「そうだね。もうあまり覚えていないけど、きっとね」 「もうぺったんこだねぇ」 「お兄ちゃんはいっぱい運動をしているからふとらないんだってパパが言っていたよ」 「う、うん……」(そ、宗吾さん~!)  二人の子供が周りをうろうろ、ちょろちょろ。洗った気がしないが、それはそれで楽しい時間だった。  脱衣場で身体を拭いていると、僕が着てきたTシャツやパンツ一式が消えていた。 「瑞樹くーん、脱いだのびしょびしょだから、みんな一緒に洗濯機しておいたわ」 「ええっ‼」  菫さんに僕の洗濯物をしてもらうなんて、照れ臭いな。  しかもパンツまで! (宗吾さんが知ったら大変なヤツかも) 「くすっ、そんなに恥ずかしがらないで。瑞樹くんにとって私は……義理の妹でしょ? だから遠慮しないで! ねっお兄ちゃん!」  お、お兄ちゃん⁉︎  明るく呼ばれて、いよいよ真っ赤になってしまった。  今まで生きて来て……妹という存在だけは無縁だったので気恥ずかしい。 「ママは、みーくんのいもうとなの? いいなぁ。いっくんも、いもうとほしいなぁ」 「え?」  この発言に、潤と菫さんがドキリと顔を見合わせていた。 「いっくんには、やさしいおにいちゃんができたから、いっくんもやさしいおにいちゃんになりたいなぁ」  そうか、大人は難しく考えてしまうが、子供の心はシンプルなんだね。  潤は神妙な顔になっていた。   「いっくん……でも、ママに赤ちゃんがやってきたら、いっくんのお世話があまりできなくたってしまうんだぞ? 寂しくないか」 「でも……いっくんには、いまはパパがいるもん!」 「いっくん……」 「いっくん、めーくんみたいに、やさしいおにいちゃんになりたいなぁ」 「いっくんってば」  まだまだ赤ちゃんのようだと思っていたのに……このキャンプでいっくんなりに大勢の大人や芽生くんと過ごし、刺激を受けたのかも。  赤ちゃんは授かるもので、先のことは分からない。  でも潤と菫さんの元に赤ちゃんがやってくるのは、悪いことではない。むしろ新しい家族の結束を深めるものになるのかもしれないね。 「なるようになるよ。じゅーん。心配しなくていいんだよ」  どこか不安そうな潤の肩を、僕はポンポンと優しく叩いてあげた。  そのまま芽生くんといっくんがコテージのベッドでお昼寝をしてしまったので、僕だけキャンプサイドに戻った。 「おーい、瑞樹ちゃん!」 「菅野!」  歩いていると菅野が追いかけてきた。手にはペットボトルを持っていたので買い出しかな? 「楽しんでる?」 「最高だな! 瑞樹ちゃんの周りの人って面白すぎるよ。宗吾さんだけかと思ったら」 「くすっ、そういう小森くんだって、あ……小森くんはどこ?」 「今は炭火で団子を焼いているよ」 「もうデザート? でも小森くんらしいね」  歩きながら喋っていると、菅野が突然立ち止まった。 「どうしたの?」 「いや、瑞樹ちゃん、本当に明るくなったな……なんか、しみじみしちゃったよ」 「菅野……」 「今は居心地がいい場所にいるんだな」 「……うん。信じられない程ね」 「今日、誘ってくれてありがとうな。この目で見られて安心したよ」  この優しい同期にどれだけの心配をかけていたのか。  今、穏やかで賑やかな日常にいる僕を見せることが出来て、本当に良かった。 「菅野、参加してくれてありがとう。いつも……ありがとう!」 「よせやい、照れるぜ」              

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