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HAPPY SUMMER CAMP!⑱

 流お手製のシャワーは原始的で、水の入ったタンクを木の枝にひっかけ、そこにシャワーホースを取り付けた物体だった。 「よーし、大人しく、そこに立ってろよ」 「お、おい、もしかして……ここ、隣のログハウスから丸見えじゃないか」 「へぇ、宗吾でもそんなこと気にするのか」 「当たり前だろ! あとで瑞樹も使うかも知れないんだから、最重要項目だ!」  そう言うと、流も顔色をサッと変えた。 「俺たちの裸は見られても減るもんじゃないが……それはダメだ。兄さんの裸体を女には絶対に見せられん!」 「だろ、だろ! なぁ、この枝とあっちの枝に目隠しカーテンをひっかけようぜ」 「そうだな。だが、後でな」 「俺には雑だな」 「宗吾だからな。ははっ、よし、水を出すぞ」  流が笑いながら蛇口を捻ると、蛇口がビューンっと、どこかに吹っ飛び、頭の上に水が直撃した。  それは、目が覚めるほどの冷たい水だった! 「冷てぇぇぇーーーー!」 「あれ? 失敗か。悪い悪い。そこの沢に流れる水だ」 「これじゃ、まるで滝行だな!」 「ははは、煩悩が吹っ飛んだか」 「まぁな~ 煩悩なら流も追い出せよ」 「ははっ」  流とじゃれ合っていると、丈さんが澄ました顔でやってきた。 「やれやれ、また泥まみれになりますよ。私も浴びたいと思ったのですが、シャワーはどこですか」 「丈ちゃん~ 袋が破れちまったから修理してくれよ」 「やれやれ……流兄さんは、発想はいいのに相変わらず雑ですね」  丈さんが切り株に腰掛けて、水の入っていたタンクの外袋を綺麗に縫っていく様子には感心した。 「へぇ、すごいな! そうか、丈さんは外科医でしたもんね。縫合が最高に綺麗だ! あれ? でも……その縫い目、どこかで見たような」  記憶を辿れば、ブラックキングが現れたりと大騒ぎしたあのテントだ!  なんだ、あれは丈さんの手仕事だったのか。  だが、どうして?  フフン、破れたのにはどうやらやましい理由がありそうだな。  テントが壊れる理由は、激しい揺れに耐えきれなかったのでは?  ニヤリ! 「俺が困った時には、丈さんが助けてくれそうですね」 「ん? 私は洋以外には冷たい男だが」 「テントを激しい揺れで壊した張本人が、またまた~」 「なっ!」 丈さんが柄にもなく赤面したのが、可愛かった。 「宗吾、そろそろBBQを始めないと、日が暮れちまうぞ」 「そうだな。どうせ汗まみれになるんだ。シャワーは後にしよう」  グランピングエリアにテーブルを並べ、炭を熾すと、さっと白い人影が潜り込んできた。 「なんだ? 小森か」 「流さん、これ焼いてもいいですか」  お皿の上には、綺麗な串刺し団子が綺麗に並んでいる。 「どうしたんだ? それ」 「住職さまからいただいた今日のおやつですよ。なんでも京都の嵐山で流行している団子の炭火焼きを再現してみたいそうです。僕はそのお使いですよ」 「翠のやつ、そんな酔狂なことを……だが面白そうだな」 「ではでは、ここで焼いてもいいですかぁ~」 「あぁ、小森も大人しくなるし、いいだろう」  少し風変わりなスタイルのBBQになりそうだな。  このメンバーなら無礼講だ。  大いに楽しもう!  大人だって夏休みが必要だ!  クーラーボックスを確認すると、持参した飲み物が思ったより減っていた。  そこでこもりんを温かい目で見つめる菅野くんに声をかけた。 「菅野くん、悪いが、売店でソフトドリンクを人数分買って来てくれるか」 「了解です。こもりんのこと、よろしくお願いします」 **** 「瑞樹ちゃん~」 「その呼び方、定着したね」 「嫌か」 「ううん、仲良しって感じで嬉しいよ」 「やっぱり瑞樹ちゃんは可愛いヤツだよ~」    菅野には一度改めてお礼を言いたかった。    今日は絶好の機会だったようだ。    大勢の中で素直に笑えるようになった僕を、ちゃんと見て欲しかった。  心配かけていたよね……いつも、ずっと、出逢った当初から。    一馬とダメになる予感に満ちた日々。    会社でどんどん覇気がなくなっていく僕を、陰ながら支えてくれたのが菅野だ。  さり気なく励まして、さり気なく声をかけてくれて……  そのさりげなさに、何度も救われた。 「ところで、菅野、どこかに行く所だったの?」 「あぁドリンクを買いに頼まれたんだ」 「僕も手伝うよ!」 「サンキュ!」  売店で人数分の飲み物を買うと、それなりの重さだった。 「貸して。俺が持つよ」 「いや、僕が持つよ。僕だって……」 「ははっ、じゃあさ、一緒に持とうぜ」  エコバッグの取っ手を、それぞれ持って歩き出した。 「友達っていいもんだな。こんな風に重たい荷を分け合えるんだな」 「そうだね。重くても……半分の重さでいいんだね」  今の僕には、大切な恋人がいる。    愛しい息子がいる。  気兼ねなく過ごせる友人……親友がいる。  遠くで見守ってくれる両親がいる。 「あ、いい匂いがする」 「肉の焼ける匂いだな」  テントサイドに近づくと、美味しそうな匂いが漂ってきた。 「瑞樹くーん!」 「あ、はい?」  振り返れば、菫さんがいっくんと芽生くんと、手を繋いで立っていた。    芽生くんは少し照れ臭そうに笑っていた。 「子どもたちも起きたし、そろそろBBQにしましょうって」 「分かりました!」 「瑞樹ちゃん、行こうぜ。俺、腹が猛烈に減った」 「僕もだよ」 「炭火焼きって旨いんだよな~ 楽しみだな」 「うん!」  日が傾くと、BBQエリアが黄金色に輝いて見えた。  以前だったら、戸惑う程の幸せな色。  一瞬足が竦んだが、菅野がエコバッグをグイッと引っ張って合図してくれる。 「ほら、行くぞ」    輪の中に、僕も入っていく。  明るく目映い光に包まれた場所。  幸せそうな世界に足を踏み入れるのが怖かった僕は、もういない。  自分から一歩。  友人と一歩。  大好きな人の元に近づく、大切な一歩。  

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