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HAPPY SUMMER CAMP!㉔

 宗吾さんがサッと射的銃を構える。  わぁ! かっこいい!  その姿はまるでドラマ俳優のようだと、僕は宗吾さんに釘付けになっていた。(僕って本当に宗吾さんが好きなんだ) 「芽生が欲しいのは、あの一番上の端っこのブルーだったな?」 「うん! あれ! ブルーレンジャー!」 「よーし!」  ところがコルク玉をポーンッと発射すると、すれすれのところで通過してしまった。 「ん? 意外と難しいぞ」 「ですね」 「うーん、瑞樹の応援があれば、頑張れるよ!」 「宗吾さん、頑張って下さい」 「パパ、ファイト!」  コルク玉を手渡しながら、僕と芽生くんは手を合わして祈った。ところが棚の一番上、しかも一番隅っこは狙い難いようだ。 「あ~ パパ、あと2こしかないよ」 「大丈夫さ、最後は気合いだ!」    宗吾さんの表情がぐっと真剣になり、今度は両手でしっかり銃を構えた。 「これが最後のコルク玉です」 「よし!」   パーンッ! 「あ! やった!」 「お兄ちゃん、やったぁ~」  最後の弾で、見事命中!  ブルーレンジャーがスコーンっと下に落ちた。 「ほらっ」  屋台の店主が、芽生くんに直接ブルーレンジャーを手渡してくれた。   「わぁ、ありがとう! パパ、かっこいい!」 「よかったな。次は芽生がやってみるか」 「え、でも……ボク……」 「教えてやるよ」 「できるかなぁ」  いつもは元気いっぱいの芽生くんが、途端にしょんぼりする。 「どうしたの? やりたくない?」  優しく聞いてあげると、芽生くんは困った顔をした。   「んっとね……ママがね……あれはしちゃダメだって」  久しぶりに芽生くんの口からママという言葉が出たのでドキッとし、思わず宗吾さんと顔を見合わせてしまった。どういう事情で禁止したのか、残念ながら僕には分からない。だから宗吾さんに任せよう。 「それはまだ芽生が三歳で小さかったからさ。今の芽生になら出来るぞ。パパが許可する」 「そ、そうなの?」  やってみたい気持ちと怯む気持ちとの間で、心がぐらぐら揺らいでいるのが伝わってくるよ。  分かるよ……分かる、僕も同じだった。 ……  広樹兄さんと行った花火大会。  帰り道には、屋台がずらりと並んでいた。 「お! 瑞樹、射的だ! やろうぜ」 「え? いいよ。どうせ……取れないし」 「何言ってんだ? やってみないと分からないだろう」 「でも……」 「瑞樹も何か欲しがれよ。どうだ? あの青いミニカーは? それとも黄色いクマのぬいぐるみか」  大沼の子ども部屋に溢れていたおもちゃを、ふと思い出した。  ミニカーもぬいぐるみも、今の僕の部屋には、ないものばかりだ。  今の僕の部屋に、僕の物は少ない。だから欲しいといえば欲しい。  でも広樹兄さんにお金をまた使わせてしまうし、取れる保証もない。 「瑞樹、俺がとってやるよ」 「兄さん……でも」 「そうだな、こっちがいいか」  兄さんの腕は確かで、なんと1発で黄色いクマのぬいぐるみを落とせた。 「ほら、かわいいだろ」 「ありがとう。兄さん! あ……なんだろう? なつかしい感じがする……あっ……ううっ」 「どうした? 瑞樹?」 「ちょっと頭が……いたい……」  当時、事故前を思い出そうとすると、酷い頭痛がした。  ズキン、ズキン……  危険信号のように心臓がバクバクする。 「あぁ……」 「瑞樹、しっかりしろ」 「ひろき……にいさん……」 …… 「瑞樹、どうした? ぼんやりして」  一瞬過去に飛んでいたようだ。  僕の目の前では、芽生くんがまだ困った顔で立っていた。 「すみません……少しだけ昔を思い出していました。広樹兄さんが黄色いクマのぬいぐるみを取ってくれたんです」 「へぇ、そんなことが」 「あ……ボク、ボクもお兄ちゃんにくまさんをとってあげる」 「え? 本当?」 「うん! お兄ちゃんのためにがんばる!」 「わぁ、嬉しいよ」    誰かのために頑張る姿って、かっこいいね。  今日の宗吾さんは芽生くんのために。  あの日の広樹兄さんは僕のために。  そして芽生くんが僕のために。 「芽生くん、ありがとう」 「えへ、お兄ちゃん、見ててね! ボクがんばるよ」  芽生くんが、生まれて初めての射的に挑戦した。ところが全部外れてしまって、しょんぼり……がっかり。どうしよう。このパターンは……  案の定…… 「もう1回、もう1回やりたい!」 「ダメだ。そろそろ時間だから戻るぞ」 「えー!」  宗吾さんが時計を見て、冷静な声を出す。 「やだ、やだ、やだ……もっとあそぶ!」 「おい、芽生、今日はどうした? 聞き分けがないな」 「ぐすっ、ぐすっ、もうつかれたぁ。もうあるけないよ」  芽生くんが地ベタにしゃがんで、肩を震わせてしまった。  あ……もしかして…… 「宗吾さん、ずっとお兄ちゃんをしていたから、ちょっと疲れたのでは?」 「あ……」  きっと、そうだ。  芽生くん、朝からずっといっくんのお兄ちゃんをして、聞き分けが良くて偉かったよね。 「あのっ宗吾さん、僕がやってみます! 5分だけ時間を」 「え?」 「芽生くん、僕が芽生くんに黄色いくまさんを取ってあげるよ」 「え? お兄ちゃんが……ボクのために?」 「そうだよ、芽生くんのために」  誰かのために何かをしたい。  その気持ちは、僕にもちゃんとある。  さっと銃を構えて片目を瞑る。  射的目標は、あの黄色いハチミツを抱えたくまだ!  バキューン! 「わ、お兄ちゃん、すごい! いちどでとれたよ!」 「あ……本当に?」  芽生くんが黄色いクマをギュッと抱っこする姿は、とっても可愛かった。 「お兄ちゃん、お兄ちゃん、ありがとう!」  元気いっぱいの声!!!  真夏の太陽を浴びるひまわりみたいにキラキラな笑顔。 僕の大好きな芽生くんの笑顔をまた見ることが出来て、嬉しかった。 「瑞樹、ありがとうな」 「僕も出来ました。僕にも……」 「あぁカッコよかったよ。シュッとしてサッとしてさ!」 「くすっ、よくわからない例え方ですが嬉しいです」 「俺から君へのご褒美は、帰ってからだな」 「はい」  僕たち三人、とてもご機嫌だ。  今日みたいな小さないざこざは、家族の証。  こうやって一つ一つ解決していく度に、絆が深まっていくんだね。  解けないように、糸を結ぼう。  家族という結束が、今の僕には心地いい。  

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