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HAPPY SUMMER CAMP!㉛
シャワーを浴びるため歩き出すと、流さんと翠さんとすれ違った。
二人ともシャワーを浴びたばかりのようで、髪の毛が湿っていた。翠さんは昼間の気高さとは打って変わって、艶めいている。
この人って、妙な色気があるんだよな。寺の住職なのに、匂い立つような空気を纏っている。
それに……洋くんも翠さんも美形過ぎだろ。
流は暗闇に目が利くのか、いち早く俺に気付き、いつもの調子で声を掛けてきた。
「なんだ、宗吾じゃないか」
「あぁ、流たちは二人揃ってシャワーか」
「まぁな! なっ、兄さん」
流はとても上機嫌だが、翠さんは決まり悪そうに会釈だけして目を逸らしてしまった。やましいことでもしていたのか。
「そうだ、流……悪い、この浴衣……ちょっと汚しちまった」
「あー?」
流がくんくんと鼻を近づけて豪快に笑った。
「この匂いは、いっくんのおもらしか」
「そうなんだ。油断してたよ」
「いいって、それに……その浴衣はもともと汚れていたしな」
「何だ?」
「いや、こっちの話さ。それよりもうお湯は使い切ったから水しか出ないぞ」
「ちょうどいい」
静めても、すぐに沸き上がる煩悩ってヤツは、厄介だ。
可憐で清楚な瑞樹に、すぐに欲情するからな。
今だって瑞樹が持たせてくれたタオルに彼特有の花の匂いを感じ取り、今すぐ抱きしめたい欲求で一杯だ。
「宗吾の煩悩よ、退散せよ! 渇――」
ビシッと流に背中を叩かれた爆笑してしまった。
「おいおい、俺の煩悩は悪霊じゃないぜ!」
「ははっ、お互い安眠出来るように呪いをかけたのさ」
「呪い?」
まったく、流ってヤツは面白い。
寺の副住職のくせに、豪快で破天荒。
でもそうか……今日は薙くんが一緒だもんな。
ヘンなこと出来ないで、流こそ悶々としているのでは?
まぁ……それは俺も同じか。
シャワーを捻ると、水だった。
「うぉ! 日が暮れると結構涼しいのな。しかし暗くてよく見えないな。あの二人、よくこんなに暗い所でシャワーを浴びられたな。お! あそこにランタンがあるぞ」
パッと明かりをつけると、隣のログハウスの窓辺がザワついたような。
なんだろうな? ダブルブッキングした相手だからか妙に気になって、余計な気配を感じるのか。まぁ仮にあの窓に女性陣が張り付いていたとしても、納得できるよな。
俺の瑞樹は王子様のように爽やかだし、洋くんの美貌と色気は女の上行くし……翠さんはたおやかな美人タイプだし……小森くんはマスコットみたいに可愛いもんな。
こんな豪華なメンバーは滅多に拝めないぜ!
いや待てよ……目当てはこっちか。
俺は最近また少しジムに通い出して鍛えた身体を見せ付けるようにして、光を浴びた。
ここで「キャー」と黄色い歓声や、「ゴクリ」と生唾を呑み込む音でも聞こえたらと思うが、辺りは静寂のままだった。
気配を消しているのか、それとも俺の気のせいか……
これが流や丈さんだったらどうなのか……少し気になりつつも……冷静に汗といっくんのおもらしを流し去った。
****
「いっくん、てんし?」
「うん、とっても可愛いよ」
「……」
「芽生くん、どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
芽生くんが、いっくんの様子をじっと見ている。
お兄ちゃんでいたいのと、甘えたいのとで葛藤している……そんなお顔だね。
「芽生くんも一緒に天使にならない?」
「え? ボクもいいの?」
「お兄ちゃんね。芽生くん天使も見たいなって」
「なってあげる! お兄ちゃんに見せてあげるよ!」
可愛いなぁ、ほっぺたを上気させて。
「じゃあ、僕のシャツを着る?」
「えっとね、ボクはパパにする」
「そうなの?」
「ボクね、いっくんより大きいから」
「わかった。えっと、宗吾さんの着替えは……」
何があるか分からないから、多めにTシャツ持ってきて良かった! 芽生くんに着せてあげると、やはり丈が長くて天使のように見えた。
「えへへ、ボクも天使になれたよ」
「うん、さぁおいで、もう眠ろう」
「みーくんにくっついてねる」
「ボクもお兄ちゃんの横がいい」
「二人とも?」
「うん!」
「あい!」
結局、僕を中心に二人が寄り添って眠ることになった。くすぐったいような、嬉しい気持ちになるよ。
「おやすみ、ボクのエンジェルズ……」
「おやしゅみなしゃーい」
「お兄ちゃん、おやすみなさい」
これは、まるで僕に天使の羽が生えたみたいだよ。
両翼を持つ僕は、高く高く羽ばたいていける。
ふと、あの日のことを思い出した。
僕……大沼で大空高く飛翔する白鳥のようだ。
満天の星を羽ばたいていけそうだよ。
今日なら――
夏樹、どこにいるの?
聞こえる?
今日はね、お兄ちゃん、賑やかで楽しい一日だったんだよ。
でもね、最後はちょっと焦ってしまって……
夏樹に笑われちゃったかな?
芽生くんといっくんはあっという間に、夢の中だ。
可愛い寝息を子守歌に、僕も星の世界へ羽ばたいた。
……
「おにいちゃん、さっきはあわてていたね」
「やっぱり見ていたの? 恥ずかしいな」
「よーく見えたよ。ねぇ僕も小さい頃、おもらししなかった?」
「うーん、どうだったかな?」
記憶を手繰り寄せてみると、大沼の子供部屋が見えてきた。
真夜中に、弟の悲しげな泣き声で目が覚めた。
「おにいちゃん、どうしよう? ぐすっ……また、おちっこしちゃった」
「大丈夫だよ、夏樹。お兄ちゃんのところにおいで」
「えーん」
「よしよし」
僕は夏樹が大好きだったから、お尻が濡れていることも気にせず、それよりも安心させてあげたくて、ギュッと抱っこしてあげた。
あたたかい夏樹の肌が、どこまでも愛おしかった。
いつもなら抱きしめると、泡のように消えてしまう儚い悲しい夢なのに……
今日は夏樹の温もりや重さまで、しっかり感じていた。
「おにいちゃん、みんな……おにいちゃんが大好きだよ。自信を持って」
「夏樹……どうしたの……急に大人びて?」
ふっと顔をあげると、僕と同じような青年が笑っていた。
君は夏樹なの?
「おねしょをしたのは遠い昔だよ。おにいちゃん……僕はもうこんなに大きくなったんだ」
「やっぱり……夏樹なの?」
「そうだよ。だから安心して眠っていいよ。もう心配しないで……僕は天国で……と、元気に暮らしているから」
「良かった……良かったよ」
急にホッとして、僕は更に深い眠りに落ちた。
きっとこれは……
二人の小さなエンジェルズが、僕に見せてくれた優しい夢。
天使がもたらす夢には、希望が沢山つまっているからね。
あとがき(宣伝を含みますので注意)
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なんとか今日も更新できました。
今日のラスト部分(瑞樹の弟の夏樹の話)は、新作同人誌『空からの贈りもの』と軽くリンクしていますが、読まなくても問題ないです。
BOOTHにて同人誌をご予約の方の分は、本日全て発送しました。
また明日秋庭(J庭)にて、直接頒布も致します。
スペースはC12aになりますので、どうぞよろしくお願い致します。
私は初参加なのでドキドキしています。
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