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HAPPY SUMMER CAMP!㉚
「もしかして、寝ちゃったのか」
「……んにゃ……んにゃ……かんのくぅん……」
両手を赤ん坊みたいに万歳して、すやすやと寝息を立てている。
その、あどけない寝顔が可愛くて、これからだって所で見事に寝落ちたことも恨めないよ。
「あんこが大好きな風太が、好きなんだよ」
俺さ……何かに夢中になっている人が基本的に好きだ。
生きることに貪欲でいてくれる程に、好きになる性分だ。
それはかつて、とても悲しい別れを経験したから思うことなのかもしれない。
葉山は出逢った頃は生きることに消極的だったので、放っておけなかった。
だが、今の葉山はよく笑って、よく食べる。
それが嬉しくて、ますます親友として好きになる。
同時に俺も葉山みたいに、キラキラな恋がしたくなった。
そんな最中に出逢ったのが、風太なんだよ。
そっと風太に添い寝し、、可愛い頬をツンツンと指でつついてやった。
「ほっぺた、ぷくぷくだな。あんこ、いっぱい食べたもんな」
風太は15歳で小坊主になってしまったから、少し世間からずれている面がある。
まだ少年のような身体を、そっと包むように抱きしめてやる。
「ただ……健康でいてくれたらいい。笑ってくれたらいい。名前を呼んでくれたらいい。ゆっくりいこうな、俺たち」
目を閉じると、ギシギシと隣のテントが軋む音がした。
風が強くなってきたのか。
いや……愛の嵐なのか。
俺は寝返りを打って、風太をキュッと抱き寄せてやった。
「風太……俺たちは俺たちのペースだ。じっくりいこうな」
***
「わぁ、ひろいテントー!」
「わぁ、しゅごい」
テントの中でいっくんと芽生くんが手をつないでグルグル、ジャンプ、ジャンプ。
お昼寝をしたせいか、ここに来てまさかのテンションアップ?
僕と宗吾さんはお腹もいっぱいだし眠いしで、顔を見合わせて苦笑してしまった。
「おいおい、もう夜だ。あんまり騒ぐと、こわーいお化けがくるぞ」
いっくんがビクッと震えた。
そ、宗吾さん! それじゃあ……逆効果ですって!
「ぐすっ、いっくん、おばけきらい、こわいよぅ」
「大丈夫、ボクと手をつないでねようね」
「ほんと?」
「おにいちゃんにまかせて」
わぁ……芽生くんが自分のことを「おにいちゃん」って言うの、新鮮だな。
僕も夏樹には「おにいちゃん」って言っていたよ。
いっくんと芽生くんは歳の差でいうと……あっ、5歳なんだ。
僕と夏樹の年の差を同じだ。
僕が8歳の時、夏樹は3歳だった。
あぁ……こんな風にキャンプに来たよ。
寝袋に潜ると蓑虫みたいだねって、お母さんが笑っていた。
「おにいちゃんと、いっしょがいい」
僕の寝袋に夏樹が潜り込んできてくれた。
弟が自分だけを見て懐いてくれるのが可愛くて可愛くて……溜まらなかった。
今日のいっくんと芽生くんみたいに、狭いテントで僕たちも走りまわっていたんだ。
「瑞樹? どうした?」
「いっくんと芽生くんって、5歳差なんだなって……改めて思っていました」
「あぁ……夏樹くんと瑞樹と同じだな」
「あ……はい」
宗吾さんは、こんな風にいつも僕の心を優しく包んでくれる。
勘がいい人だから。
優しく気付いてもらえるのは嬉しい。
さりげなく夏樹を会話に登場させてくれるのが嬉しい。
「潤とも5歳差なんですよ。今の潤を見ていると、夏樹が成長したらこんな感じなのかなって想像してしまいます」
「もうきっと背丈も変わらないだろうし、友達みたいな関係だろうな」
生きていれば――
その言葉はもう必要ない。
あの雲の上には
あの星の彼方には
夏樹がいるから。
「そうだと思います。僕は天国にも友達がいるんですね」
「あぁ、そうだな」
宗吾さんが優しく肩を組んでくれる。
いっくんと芽生くんの無邪気な笑顔が弾け、楽しそうな笑い声に包まれるドーム。
ここが僕の地上の楽園だ。
****
「そろそろ眠ろうか」
「うん、おやすみなさーい!」
「いっくんも、いっくんも……ねんねしゅるー」
「うんうん、二人ともいい子に寝るんだよ」
よしよし、そろそろ寝ろ! エンジェルズよ。
芽生といっくんがパタンと横になったので、やれやれようやく静かになったと思ったら、
いっくんがすぐにムクリと起きた。
「いっくん……おしっこ!!」
「あ、そうか。沢山お水飲んだしスイカも食べたもんね。寝る前にもう一度行っておこうか」
ところが、瑞樹に手を引かれて歩き出すと、いっくんが俺の身体に躓いて腹の上に尻餅をついた。
けっして俺の腹が出ていたわけではないぞ! 誓って!
「あ……ああん……わぁぁ……ん」
「へ?」
あああ、この匂いと生暖かさって~‼
せっかくの瑞樹の浴衣が台無しだ。
がっかりしたが、ここで怒るのは大人げないよな!
「しっこ、出ちゃったの?」
「……が……がまんできなかったでしゅ……ごめんちゃい」
いっくんが泣きそうになったので、慌てて俺が抱き上げてやった。
「なあに、気にすんなって」
「いっくん、早くお着替えしないと、宗吾さんも……」
「俺は後でいいよ。それより、いっくんを」
「はい。ちょうど、さっき身体を拭こうと用意したおしぼりがあるので……あ、でもパジャマはどうしよう!」
瑞樹がワタワタしていると、芽生が助っ人に入る。
こんな時、二人はいいコンビだ。
「お兄ちゃんのTシャツがいいんじゃないかな?」
「あぁそうだね」
そこからはバタバタだった。
いっくんのお尻と足を拭いて、瑞樹のTシャツを被せた。
パンツを履いてないが、子供だからいいか。
白いTシャツを引きずるいっくんは、ますます天使みたいだ。
それにしても……瑞樹のTシャツかぁ。
チラッと横目で見ると、瑞樹がササッとタオルと着替えを持ってきてくれた。
「宗吾さんも早くシャワーを使って下さいね」
「そうするよ。瑞樹は子供達を寝かしつけてくれ」
「はい! その方がいいですね」
いつも、いつだって、瑞樹は俺を忘れない。
渡してもらったタオルは予備に持ってきたものらしく、真っ白でふかふかだった。
まるで雲の上のようだな。
ほのかに花の香りがする。
優しくて清らかな瑞樹の香りが、俺を包んでくれる。
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