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HAPPY SUMMER CAMP!㉙

ようやくこの時間になって……洋と二人きりになれた。  待遠しかったぞ。  いつも月影寺の離れで静かに暮らす私達にとって、このような大人数でのキャンプは正直得意分野ではない。それでも洋と参加したのは、私達もいつまでも自分たちの殻の中に閉じこもっていないで、外に出てみようという気持ちが、お互いに芽生えたからだ。  春に由比ヶ浜で個人病院を開業するはずが、耐震工事の影響で……秋以降に延期になってしまった。洋も私も張り切っていた分、意気消沈したが、今となってはそれはそれで良かったと思う。  今は大船の病院は辞めて、アルバイトで週に三回大学病院に勤務している。残りの平日で開業準備をし、洋と離れでゆったりと暮らしている。急患の呼び出しも手術もない今だから、こんな風にキャンプ旅行にも、付き合えるのだ。  個人病院を開業したら、洋も手伝ってくれる予定だ。隠遁生活のような日々を過ごしていた私達も、いろんな人と接しないとならない。だからこのサマーキャンプは、人に慣れるための一歩だった。 「洋……」 「んっ……」  テントの中で無造作に足を投げ出す洋の顎を掴んで、キスをした。  昼間テントを壊した前科があるから、そのまま押し倒さずに、抱きしめながら優しいキスを繰り返した。洋のシャツのボタンを外しにかかると、洋がやんわりと私の手を掴んで制止した。  珍しいことを。 「どうした? 気が乗らないのか」 「いや、そうじゃない。あのさ、今日はシャワーを浴びてからがいい。汗でべとついているし炭火臭いだろう」 「私は気にならないが……少し待ってろ、使えるか見てくる」  昼間、流兄さんと宗吾さんが大騒ぎしたシャワーブースの様子を覗くと、先客がいる気配がした。  明かりは消えているのに、チャプチャプと水音がする。  耳を澄ませば二人の濃厚な息づかいまで聞こえてきそうで、困惑した。  小さな小さな……声が漏れている。私には秘めたる声の主が誰だか、すぐに分かった。  兄さんたちなのか。  ならば邪魔はするまい。 「丈、どうだった? 使えそうだったか」 「洋、随分と淫らな格好だな」  洋は上半身を剥き出しのまま、色気の増した表情で、私を見上げた。艶めいた目元が、甘く私を誘っている。 「丈がこんな姿にして、放置したくせに」 「洋、これを使うといい」 「ん? なんだ、これ?」  風呂に入れない入院患者が使う身体拭きシートを差し出すと、洋が蠱惑的な笑みを浮かべた。 「丈、久しぶりにアレをするか」 「ん?」 「白衣を着てくれよ。そうだ……聴診器も持って」 「医師の白衣が、洋の大好物なのは知っているが、そんなに私を煽っていいのか」  洋が私をひらひらと手招く。   「俺がいいっていっているんだよ、丈せんせ」 「コイツ」  だから洋の細腰を抱きしめ、身体を濡れたシートで滑るように拭いてやった。 「んっ……んっ」    過敏な身体が、ピクピクと細かく跳ね出す。 「あっ……妙な触り方はよせ」  洋が私の首に手を回し、足を大きく開いて跨がってきた。  対面座位なので、洋の美しい顔と胸元がよく見える。 「おい、こんな淫らな患者はいないぞ」 「丈せんせ……こそ」  テントを揺らさないように壊さないように……  そっと洋の胸の粒を吸い上げていく。  赤く熟れた果実は、夏の味がした。 「静かに出来るか」 「丈せんせの仰せのままに」  二人だけのナイトキャンプ。  きっと、どのテントよりも私達は濃密な行為をするだろう。  洋には私……  私には洋しかいないから。  許されるだろう。   **** 「かんのくーん。テントの中って思ったより狭いんですね」 「あぁ、くっついて眠るのにちょうどいいだろう? ところでシャワーでも浴びに行くか」 「えー! もったいないなぁ。今日は1日中あんこの傍にいたので、せっかくの移り香が消えちゃいますよぅ」  チーン! 色気……皆無。   そもそもあんこの移り香ってなんだ? 「なんか俺……今日は……いよいよ、あんこに妬きそうだ」 「えー! どうしてですか」    こもりんがあどけない表情を浮かべ、首を傾げた。    ううう、可愛い! いやいや、今はそうではない。    ハッキリ言わないと……俺の気持ち。   「俺にはこもりんしかいないのに、こもりんには『あんこ』がいるからさ!」  あんこに夢中なこもりんは、確かに可愛い。  翠さんが餌付けするのも分かる。  だけれど……そろそろ、そろそろだよ! 「風太……」  わざと声のトーンを低くして、風太をテントに押し倒した。 「菅野くん?」  相変わらずキョトンとあどけない表情を浮かべる風太。  もう何も言わせないように、唇を重ねた。 「あ……菅野くん……キスですか。僕……キス……すきですよ」 「このまま蕩けさせてやる」 「はい!」  長い、長いキスをした  し続けた。  風太の身体からは確かに、甘いあんこの香りが立ちこめていた。 「あんこが好きなのは、そのままでいい。かわいいから許すよ」 「はぁ……い」 「だけど、風太はあんこのものじゃない。俺のものだ!」 「はい、そうです。あのあの……あんこは僕のものですか」 「あぁ、そうだ。安心しろ」  あれ? おいおい、なんだか本末転倒じゃ。 「ン……キスしてください。あんこよりもおいしいです~」 「ほ、本当か!」    調子にのって、夢中になって、キスをした。  キス、キス、キスで、こもりんを埋め尽くすほどに。  はっと気付いた時には、こもりんの甘い吐息は……ただの寝息に変わっていたけどな。

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