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HAPPY SUMMER CAMP!㉞

 朝日と共に、幸せな夢から目覚めた。  しかし僕はまだ夢心地だった。何故なら僕の両脇には可愛い天使が身を擦り寄せて、可愛い寝息を立てていたから。  芽生くんもいっくんも、ぶかぶかなTシャツを着て、赤ちゃんのように丸まっている。朝日に照らされた、ふっくらな頬とぷっくりした手がとても可愛かった。  僕はこの幸せな光景を、宗吾さんにも見てもらいたくなり、彼の名をそっと呼んだ。 「宗吾さん、起きていますか」  返事がない……どうしたのだろう?  昨日のことを反芻すると、いっくんが宗吾さんのお腹にお漏らしをしたのでシャワーを浴びに行ったんだ。その間、僕は子供たちを寝付かせて……  あぁ……まずい!  ガバッと起き上がって辺りを見渡すと……案の定、僕はテントのど真ん中に陣取って、両脇にはエンジェルズがくっついていた。つまり宗吾さんの寝る場所はどこにもなかった。 「悪いことをしてしまった。今、どこにいるんだろう?」  僕が身じろぐと、芽生くんといっくんが一斉に目覚めた。 「お兄ちゃん、おはよう!」 「みーくん、おはよ……むにゃむにゃ」 「おはよう! 二人とも、まだ眠っていてもいいんだよ」 「やだよー! もっと遊びたいし、お腹も空いたし、おトイレも行きたい!」  芽生くんが明るく叫べば、いっくんも負けじと叫ぶ。 「いっくんもー! ぽんぽんすいたち、おちっこしたいち、あしょびたいよぅ~」    うわっ! いきなり朝からフルコース?   二人とも寝起き、良すぎだ! 「えっと……優先順位は……」  いっくんと芽生くんが、股間を押さえてモゾモゾしている。 「おしっこ!」 「おちっこー」 「わぁ、待って! まずはトイレに行こう!」  僕はいっくんと芽生くんの手を引いて、トイレにビューンっと直行した。  ついでに顔も洗ってさっぱりしたよ。 「パパはどこ?」 「うーん、それがわからなくて」 「大丈夫だよ。ボクたちが見つけてあげる」 「いっくんとめーくん、がんばるよ」  今度は宗吾さん探しゲームが始まり、お邪魔だとは重々承知だが、子供たちを止められずに皆のテントを回る羽目になった。 「パパー どこ?」 「そーくん、どこでしゅかぁ~」  うわっ……いっくんの「そーくん」という呼び方にドキドキだ。 「そ、宗吾さん、どこですか」  丈さんと洋くんのテントを訪問すると、何故か朝から白衣姿の丈さんが顔をしかめながら応対してくれた。 「どうした?」 「朝早くすみません。宗吾さんがいなくて」 「……ここにはいない」(やだな、丈さんってば真顔で。やっぱり二人の愛の巣には、誰も潜り込めないよね) 「で、ですよね」  続いて菅野と小森くんのテントを伺う。 「菅野……? いないの?」 「へんじないねぇ」 「いっくん、みてみるー」  テントの中は、もぬけの殻だった。どこに行ったのかな?  もう一度自分たちのテントを覗くが、まだ戻っていない。  次は、翠さんのテントだ。 「おやぶん!」 「おーやーぶーん!」  いっくんと芽生くんが声を揃えて呼ぶと、眠たそうな薙くんが目を擦りながら出て来た。寝起きの薙くんは少しあどけない。 「おはよう、薙くん。翠さんと流さんはいないの?」 「おはよ……瑞樹さんと子分たち。流さんは最初からいなかったし、父さんは、寺の小坊主くんとその彼氏と一緒に出かけたよ」 「こんな朝早く、どこに?」 「滝に行くって言っていたような」 「滝なんてあるの?」 「テントサイドの裏手だって」  そこで、いっくんと芽生くんの期待に満ちた熱い視線を感じてしまった。 「い……行きたいの?」 「うん!」  僕たちが滝に向かって歩き出すと、茂みの向こうから流さんの声がした。 「ヤバイ! 寝過ごした! 宗吾、起きろよ」  宗吾さん?   良かった! そこにいたのですね!  昨日BBQをしたウッドデッキの茂みの向こうから声をかける。 「宗吾さん~ そこにいるんですか」 「パパぁー」 「そーくぅん」  すると、ドシッとものすごい音がした。 「み、瑞樹!?」 「そうですよ」 「待て待て、来るなー、俺が行くから」  そんなに焦って、どうしたんですか。 ****  うつらうつら……  朝の爽やかな風に揺られて、ハンモックに埋もれた俺はまどろんでいた。  爽やかな風が、直に肌を撫でるのが気持ちいいな。  そんな幸せな微睡みを破ったのは、流の叫び声だった。 「ヤバイ! 寝坊した! 滝行が終わってしまう」 「……おはよ。あぁ……あれか。なら早く行ってこいよ。俺はもう少し眠るから」  目を閉じた瞬間。  今度は俺が飛び起きる羽目に!  子供らと瑞樹の声がする。  俺は……パンツ一丁どころの騒ぎではなく、褌だけ身につけた裸体だ。こ……これはまずい。瑞樹には刺激が強すぎるし、芽生には絶対に冷たい目で見られるぞ! いっくんには弄られそうだ!  動揺したせいで、ハンモックからドシンっと音を立てて落ちる始末だ。  干していた浴衣を引っかけて飛び出すと、瑞樹が目を見開いて立っていた。 「あぁ、よかった! 宗吾さん、ここにいらしたんですね。昨日はすみませんでした。僕がど真ん中で眠ってしまったから、寝床がなかったですよね」 「いいって! 流と一緒にハンモックで眠ったんだ」 「え? ここで? 流さんはどこです?」 「滝行を観に行ったようだ」 「ちょうどよかった。僕たちもそこに行く所なんですよ」 「そ、そうか。俺も行くよ」  俺たちは、ぞろぞろと滝の方へ向かった。 **** 「小森くん、ここだよ。用意はいいかい?」 「はい! 住職さまぁ」 「あ、菅野くんもする?」 「いや……俺は遠慮します」  昨日、小森くんとで枝拾いをした時に、テントサイド裏手の人目につかない場所に、ちょうど良い滝を見つけ。だから早起きをしたのだ。  僕は元々滝行が好きだった。だが……流が人前で滝に打たれるのは許せんと大騒ぎするので、最近出来なかった。それが欲求不満だったのかな? 流に内緒で行動するなんて。  まぁ今日は小森くんが一緒だし、シャワーを浴びるようなものだから、いいよね? 「んじゃ、突撃しまーす。 翠さんがつけてくれた褌ですよー」  小森くんが可愛い褌姿に躊躇いもせずになったので、僕も衣を脱ぎ捨てた。      洗い物が増えると大変だし、全部……脱いでいいよね。  流の鞄の中に何本も褌が入っていたから拝借したよ。(まぁ絶対に持参すると思ったけどね) 「わぁ~い、住職も褌ですね」 「滝行ではこの姿の方が、気が引き締まるんだよ」 「ではでは精神統一しましょ-」  僕たちは目を閉じて、滝に肩を打たれた。  あぁ……この痛い程の刺激が心地良い。  滝行とは水流を全身に受けることにより、心身を鍛錬する日本の伝統的な身体技法だ。 「うひゃ~ いたた……いたいですよぅ」 「小森くん、頑張って」 「気を引き締めます。あ、あの……今日のご褒美はなんですか」 「……あんこ」  煩悩を捨てるはずの滝行で、煩悩塗れの約束を?  でもね……僕も抱いてしまうよ。  帰ったら、流に沢山触れたいし触れて欲しいと……  こんな煩悩捨てないといけないのに……  目を閉じて滝の音に耳を澄ましていると、ふっと水音が変わった。 「翠、抜け駆けはするなよ」 「りゅ……流」  褌姿の流が、真横に立っていた。 「ごめん……怒るかと思って」 「怒ったりはしない。俺が一緒ならば」 「うん、一緒にしよう」 「翠の煩悩は洗い流してもいいぞ」 「え……いいの?」 「翠の煩悩も、俺と一緒ですぐに復活するからな」  トンッと小突かれ苦笑してしまった。  寺の住職としてあるまじきことだが……それでいい。  そうでなくてはと、明るく笑ってしまう。 「珍しいな、翠のそんな笑い方」 「そう? キャンプで心が解放されたみたいだ」 「あれ? 小森はもうリタイアか」 「あの子は初体験だから、あとはご褒美タイムだよ」  見れば……息も絶え絶え、陸にあがった小森くんを、菅野くんがバスタオルでゴシゴシ拭いている。そしてあんこをスプーンですくって栄養補給。  ずっと見守っていた小坊主小森くんは、もう菅野くんに委ねて大丈夫そうだ。少し寂しいが、そういう時がやってきたのだ。 「よしよし、あいつらこっちが目に入っていないな。翠はこれで俺のものだ」 「あ……流、よせ」  滝の中で腰を深く抱かれて、動揺した。 「翠の褌姿は久しぶりで、そそられる」 「たっ、滝行中だよ。は……離れて」  流と押し問答をしていると、可愛い声が響いた。 「すいしゃーん!」

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