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HAPPY SUMMER CAMP!㉟

「げ、エンジェルズが来ちまった!」 「流、そんな言い方をしてはいけないよ」 「あーあ、翠の口調、すっかり元通りじゃないか」    諭すように言うと、流も負けじと口を尖らせた。  自分でもどうしようもないんだよ。生まれ持った長男気質は、簡単に捨てることは出来ないからね。 「せーの! すいしゃぁーん」  あぁ……いっくんがやまびこを呼ぶように、僕を叫ぶ。    子供は無邪気で、本当にいい。  いっくんの隣で、芽生くんもブンブン手を降っている。 「すいさん、かっこいい!」 「おーい、芽生坊、俺もかっこいいかぁー」 「うん、流さんもすごく、かっこいいー」  そんなやりとりを聞いていた宗吾さんは、少し不服そうだ。  きっと混ざりたいのだろう。  滝行はいいよ。君の沸き上がる煩悩も、一時は綺麗に流してくれるはずだ。 「宗吾さんもやりませんか。えっと……褌をつけて」 「おぅ! それなら、もうつけてます!」  宗吾さんがバサッと浴衣を脱ぎ捨てると、見事な褌姿だった。 「はははっ、宗吾も来いよ。気持ちいいぜ」 「おう!」  呆気にとられているのは瑞樹くんだ。  口を開いたまま、固まっている。  まぁそうだよね。  浴衣を脱いだら、いきなり彼氏が褌姿だなんて驚くよね。  褌は世間一般的なものではないし。  ほのぼのとした気持ちで見つめていると、瑞樹くんの様子がみるみるおかしくなっていった。驚くのを超して何か思い詰めたような困惑したような顔で、宗吾さんの身体と、僕と向かいあって立つ流の身体を交互に食い入るように見つめている。  どうしたのだろう? 「やぁ、滝行って初めてですよ。よろしく」  僕と流の間に割り込んできた、飄々とした様子の宗吾さん。 「最初は辛いかもしれないですが耐えて下さい。煩悩を全て流すのですよ」 「了解!」  一歩進んで滝に肩を打たせる宗吾さんの背中を何気なく見つめて、僕は素っ頓狂な声を出してしまった。 「それって……き……キスマーク!」(それも大量の!) 「お、おい、翠、エンジェルズの前で何を言い出すんだ?」  流が慌てて、こちらにやってくる。 「りゅ、流も宗吾さんの背中を見てくれ」 「何をだ?」  くるりと振り返った流の背中に、また声を上げてしまった。 「流も……キスマーク!」 「へ?」 「え?」  宗吾さんと流の背中には、無数の赤い痕がついていた。  かなり執拗に吸いあったようで、くっきりはっきりついている。  なんだ……これは? 「宗吾さん……酷いです……うっ……裏切るなんて」  瑞樹くんがとうとう顔を押さえてしゃがみこんでしまった。   「へ? み、瑞樹ぃ~ 一体、どうしたんだよ」 「来ないで下さい!」 「そんなわけにはいかないだろ」  ジャバジャバと水音を立てて、宗吾さんが瑞樹くんに近寄っていく。 「翠、一体何事だ?」 「りゅ、流と宗吾さんは、昨夜二人で何をした?」  厳しく問い詰めると、流があっけらかんと笑った。 「あぁ、褌姿でハンモックで寝たんだ」 「へ? あ、……呆れるよ。どうして、そんなことしたの?」 「寝床がなかったからさ~ 蚊がブンブン五月蠅くてなかなか寝付けなかったけどな」 「あ……蚊……蚊ー!!!!」  合点した。  なんて……なんと……ややっこしいことを。 「流は今すぐ、宗吾さんと瑞樹くんに謝った方がいいよ」 「えー! どうしてだよ」 「流の背中にも宗吾さんと同じ物が多数付いているから、誤解されたようだよ」 「え? あーなんか背中がポリポリ痒いと思ったら、蚊に食われたのか」 「まったくもう……小森くん、丈に薬箱を持ってきてもらって」 「モグモグ……もぐもぐ、はぁい」  子リスのような小森くんはピョンと立ち上がって、ささっと駆けていった。  朝から白衣をしっかり着込んで現れた丈に、流と宗吾さんは背中を向けて、かゆみ止めの薬をたっぷり塗ってもらった。洋くんが手伝う様子も甲斐甲斐しい。 「いいかい? 二人ともよく聞いて。もういい大人なんだから、こんな公共のキャンプ場で裸同然で眠るなんて問答無用だよ!」 「気持ちよかったんだよ」 「瑞樹ぃ……驚かせてごめんな」 「ぐすっ、びっくりしました」 「そんなことするはずないだろ。流と浮気なんて」 「ありえん、ありえん」 「二人とも反省が足りないようだね」 「そういう翠だって、褌姿で説教しているんだぞ」 「僕のことはいいからっ」    ついエンジェルズがいることも忘れて、大人談義をしてしまった。  そう言えば、エンジェルズはどこだろう?  すると背後からこしょこしょと可愛い声がしたので、安心した。  芽生くんとお喋りをしているようだ。 「あれぇ、これなんでしゅか」 「なんだろうね?」  その直後、シュルシュルという音がした。  何の音だろう?  衣擦れのような雅な音だが…… 「白いしっぽさん、それぇ-」 「へ?」    突然、僕の褌がバサッと落下して、股間が丸出しになってしまった! 「○△□~!!!」  声にならない悲鳴をあげて、股間を押さえてしゃがみ込む僕。  慌ててバスタオル持ってくる流。  豪快に腰に手をあてて笑う宗吾さん。 「わぁ、こんにちは! 住職のむすこさーん」  呑気な、呑気な小森くん。  同情の眼差しの瑞樹くんと菅野くん。  そして、僕の褌を解いた張本人、いっくんと芽生くんが、僕の褌を持って、不思議そうな顔をしている。  丈と洋は顔を見合わせて、気の毒そうな顔をしている。  潤くんと菫さんは、僕がこんな目に遭っているのも知らずに甘い朝を……  皆の様子を客観的に想像したら、可笑しくなって笑ってしまった。 「くくっ、あははっ」  僕にしては、はしたない笑い方だった。  朝から和気藹々だ。  これこそ……仏様のお導きなのかな?  

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