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HAPPY SUMMER CAMP!㉟

 いっくんと芽生くんと手をつないでテントサイドの裏庭に近づくと、滝の音がした。 「わぁ! 本当に滝があるんですね」 「瑞樹、俺たちもマイナスイオンを浴びるぞ」 「はい!」  近づくと、滝に打たれる人の姿が水飛沫の中に見えた。  あ……翠さんだ!  わぁ……流石、お寺のご住職だな。  滝に打たれる姿は、まさに清廉潔白! あ、あれ?  まだ少し遠いのではっきり見えないが、目を凝らすと白い褌姿の翠さんが誰かに抱き寄せられているように見えた。  まずい……もう一人いたのか。  ということは、相手は流さんだ!  僕たち……お、お邪魔かも!  エンジェルズの手を引っ張って慌ててUターンしようと思ったのに、子供っていうのはこういう時は妙に目敏いんだ。 「すいしゃーん」 「やっほー すいしゃーん」  いっくんが、思いっきり叫んでいた。  もちろん芽生くんも続く。  観念して二人の手を引いて近づくと、滝行というものは、かなりの迫力だった。 「すごい……! 宗吾さん、翠さんも流さんも格好いいですね」 「すいしゃん、かっこいいでしゅ。りゅーさんもすごくかっこいいでしゅ」 「うわぁ、なんだかすごい! すごい!」  あまりに手放しに褒め称えたので、宗吾さんは少し悔しそう。  くすっ、宗吾さんは負けず嫌いだから仕方が無いか。 「宗吾さんも滝行をしたら素敵でしょうね。僕もいつか見たいです」  甘えるように言うと、翠さんからも滝行のお誘いが。 「有り難いお誘いですが、褌をしていないから無理ですね」 「いやっ、瑞樹、もうしてる!」 「えっ?」  何の冗談かと苦笑すると、宗吾さんの浴衣がバサッと空に舞った。 「瑞樹、持っていてくれ!」 「えぇっ!」  滝に向かってジャブジャブと駆け出す宗吾さんの臀部に、僕の目は釘付けだ。 「ふ、ふん……ふんどしー!?」 「わぁ~ パパもふんどししてる~」 「そーくんのおちり、ブリブリ」  ブッ……ブリブリ?   確かにプリプリというより筋肉質なのでブリブリという表現がいいのかなと呆気にとられつつも、ぼーっと眺めていると、僕はとんでもないものを見つけてしまった。  宗吾さんの背中に無数に散らされた赤い痕。  宗吾さんがたまに僕にまき散らすアレだ!  あ、あれはキスマーク?  な……なんで、あんなものが?  僕じゃなきゃ……誰が……っ!  その時、流さんが移動し背中を向けた。 「へ……っ」  流さんの背中にも、同じ量のキスマークが!  うそ……そんなぁ……  どっちが上とか下とか、ハンモックで出来るのかとか……  なんかもう脳内パニックで卒倒しそうになった。 「宗吾さんが、あんなに堂々と浮気するなんて……」  あまりにショックで涙が滲んで、僕は絶望のあまりその場にしゃがみこんでしまった。 ……    というのは……全部僕の誤解で、よくよく間近で見れば、ぷっくり膨れたのは蚊に吸われた痕で、無意識にポリポリかいたようで周りが赤く腫れていたのだ。 「みずきぃ~ そう、怒るなよ。俺が浮気するはずないじゃないか」 「紛らわしいんですよ。そもそもいきなり褌姿になるなんて驚くじゃないですか」 「あぁ褌な。これけっこうキツい。ここ、キツい」  宗吾さんが前袋を指さしてニヤつくので、背中をペシッと叩いてしまった。 「ぎゃ! 瑞樹が凶暴化した!」 「宗吾さん、いっくんや芽生くんの前ですよ。言動に気をつけないと」 「だが、あいつらいないぞ?」 「え? どこに?」 「あぁ翠さんの後ろにいた」    翠さんがこっちを振り向き、流さんと宗吾さんに説教をし出した。 「いいかい? 二人ともよく聞いて。もういい大人なんだから、こんな公共のキャンプ場で裸同然で眠るなんて問答無用だよ!」 「気持ちよかったんだよ」  流さんがしょんぼり謝れば、宗吾さんも手を擦り合せてくる。   「瑞樹ぃ……驚かせてごめんな」  もう許してあげようかな。何事もなかったのだから……でもでも、やっぱり…… 驚いたんだ。ほっとしたのもあり、涙ぐんでしまうよ。   「ぐすっ、びっくりしました」 「そんなことするはずないだろ。流と浮気なんて」 「ありえん、ありえん」  流さんと宗吾さんって似たもの同士だ。    二人で腰に手をあててガハハと笑っている。    翠さんがそんな二人に手を焼いているようにも見えた。  翠さんもお気の毒だな……って思っていたら、もっとお気の毒なことが起きてしまった!  まさか、まさか……翠さんの褌がストンと落っこちるなんて! ****  いっくんね、いいこにまっていたんだよ。  すいしゃんが、りゅーくんとそーくんにプンプンしていたから。  そうしたらね、しろいひもが、ひらひらしてて、きになったんだよ。 …… 「めーくん、あれ、なんでしゅか」 「うーん。落としものかな? 」 「わかりまちた! おとしものはひろってあげましょうって、ママがいってまちた!」 「そうだよね。ボクもお兄ちゃんからそう教わったよ」 「わかりまちた! ひろいましゅね~ えいっ!」    あんよのところにおちていた、ひろってみたよ。 「あれれ……つながっていましゅよ」 「うん、どんどんのびてくるね」 「わぁあ……」  シュルシュルっておとがして、たのしい! …… 「でね、でね、しろいひもさんそれぇ! ってしたら、すいしゃんがすっぽんぽんになったの。びっくりちたー」   ママとパパにはなすと、キョトンとしていた。 「潤くん、いっくん、一体何を引っ張ったのかな?」 「翠さんがすっぽんぽんになるものって何だ?」  あのしろいひも、なんだったのかな? ****  疲れた様子でテントに戻ってきた父さんを労ってあげた。 「父さん、とにかく服を着たら?」 「あ……うん……って僕、バスタオル姿で、ここに戻ってきたの?」 「気付いてなかったの?」 「動揺して……」  真っ裸で腰にバスタオルを巻いただけの父さんを、皆が囲むようにして戻って来たのには驚いたよ。  オレ、二度寝していたから、何があったのか分からないけど、楽しいことを見逃したような気がする。 「薙~ 子供って紐があったら引っ張りたくなるものなの?」 「へ? そうだな~ まぁなんだろうって気にはなるかな?」 「あ、そういえば、薙も昔……」  父さんが珍しく思い出し笑いをした。 「何? 気になるよ」 「うん、三つくらいの時かなぁ~ 浴衣の紐を持ってきてなんて言ったと思う?」 「さぁ?」 「ふふっ、勿体ないな……」 「あっ……もしかして」 「あのね……『パパとずーっと一緒にいたいから、この紐でくっつけて』って」 「は、恥ずかしいし!」 「薙はあの頃から本当に可愛いよね」 「父さん……それさ……今も同じだよ。オレ……ずっと一緒にいたい」 「薙……」  狭いテントの中は、少し動けば優しい父さんに触れることの出来る距離。  だからなのか……いつもより……ずっとずっと素直になれた!

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