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実りの秋 10

 潤がお父さんになるなんて。  昔を思い出すと、泣けてくるよ。  近頃、僕の思い出はカラフルだ。  函館の家に引き取られて、生命力に溢れた潤に最初は圧倒されたけれど、僕にはない力強さに惹かれてもいたんだよ。  やんちゃな潤のお世話をするのは大変な時もあったが、僕の居場所を感じられる一時でもあった。  たまに潤が照れ臭そうに「これ、やる!」と、手の平にのせてくれたキャラメルは潤の熱で溶けていたけれども、甘くて美味しかったよ。  ずっと悲しいことや辛かったことばかり思いだしていたが。その奥にはちゃんと柔らかい思い出もあったんだ。 「瑞樹、いいニュースだったみたいだな」 「宗吾さん! もうお風呂から上がったんですか。芽生くんが寝てしまったので、潤に電話をしていたんです。実は……菫さんが妊娠されたそうで」 「おー! 本当か」 「はい! なので、とてもいいニュースでした」 「いいことが続くな」 「はい、なんだか昨日から不思議と心がすっきりしていて、そこに嬉しいニュースが飛び込んで来てくれました」 「本当にそうだな!」 お風呂上がりの宗吾さんに、ギュッと抱き寄せられる。  僕と同じ匂いになった身体に、そのまま体重を預ける。  しっかり抱きしめてもらえると、ほっとする。 「赤ちゃんが無事に生まれてくるように祈ろう」 「はい、そうしたいです。僕も何かしたいです」 「そうだな、きっと瑞樹にも出来ることがあるよ」  あどけないいっくんも、来年にはお兄ちゃんになるのか。  生まれてくる子とは父親が違うきょうだいになるが、大丈夫だ。  潤なら分け隔てなく、接することが出来るだろう。  潤だから出来ることだ。  思い返せば……この日を迎えるための試練だったのかもしれないね。  潤と僕の間に起きたことは。  僕はもう水に流している。  今の僕がとても幸せだから、心にゆとりが出来たんだ。  引き取られてから、ずっと心配ばかりかけていたが、もう違う。  今の僕は、皆の幸せを心から願っている。 「瑞樹、なぁ……今日はダメか」 「……くすっ、お掃除……頑張りましたよね」 「あぁ! 見てくれよ。ベッドの下を」 「ふふっ、すっきりしていますね」 「部屋がすっきりしたが、俺の身体はムラムラだー」 「くすっ、知っています」 「なんだ、知ってたのか!」 「……抱いて下さい」  僕からも宗吾さんに歩み寄ろう。  身体を求め合うのは、好きならば自然なことだから。  何も恥じない。  僕も宗吾さんが欲しい。  ひと月離れていた身体が焦がれている。    宗吾さんが静かに寝室の扉を閉める。  照明を落として、二人だけの時間にしてくれる。  そのままキスをしながら、ベッドにもつれ込んだ。  パジャマの裾から宗吾さんの熱い手が滑り込んでくる。 「ん……っ」  胸の突起を摘ままれて、腰が跳ねる。  過敏になったそこがすぐに尖り出すと、指の腹で丹念に転がされる。  もう、たまらない気持ちになる。  このひと月、抑え込んでいた気持ちが溢れ出してくる。  呼吸が乱れ、体温が上昇してくる。  身体が熱の置き場を探している。 「瑞樹、今日は積極的だな」 「ん……僕だって……男です。1ヶ月は……正直辛かったです」 「途中で電話でしたのに?」 「直に触れてもらうのとは別物です」 「確かに。君は俺をやる気にさせるな」 「あっ!」  パジャマのズボンから手を差し入れられると、もうそこはぴちゃりと音がするほど湿っていた。 「すごい……こんなに濡らして」 「ん……」  先端に浮かぶ蜜を指先で扱かれると、腰がぷるぷると震えてしまう。 「気持ち……良すぎて」 「感じまくっているな。まだ少ししか触ってないのに」 「ん……あっ、あっ」  下着ごとずり降ろされ、足を開かせられた。 「可愛いな。そのまま足を広げて見せてくれ」 「恥ずかしいです」 「恥じらう君の顔もいい」 「も、もう――」  宗吾さんの手が窄まりに触れてくる。  この1ヶ月閉じていた場所に。 「狭いな」 「大丈夫です」 「ゆっくりだ」 「んっ……」  じっくりと指を蠢かされ、泣きたい程気持ち良くて、じれったくて。  宗吾さんにしがみついて、やっぱり泣いてしまう。 「もう……大丈夫です。早く……欲しいんです」 「瑞樹ぃ……煽るな」 「でも……ぐすっ」  どうしてだろう?  今すぐ、欲しい。  宗吾さんが欲しい。  腰を擦りつけ揺らして、必死に強請ってしまう。  早く、早くと。 「瑞樹、そんなに泣くな……君が、こんなに乱れるなんて」 「ずっと……ずっと……恋しかったんです」 「あぉ、俺もだ」  足を担ぎ上げられ、宗吾さんを受け止める姿勢を取らされる。  押し当てられたものを、僕は力を抜いて受け入れて行く。  僕の中にやってくる宗吾さんの熱を感じて、涙が溢れた。  腰が浮くほど強く抱きしめられ、深くまで一気に貫かれた。 「……ふ、あっ、あっ……あ」  最奥に宗吾さんの張り詰めたものが届くと同時に、僕は小刻みに震え、そのまま精を放ってしまった。  こんなに早く?  宗吾さんより先に……?    自分でもびっくりして、目を見開いた。   「あっ、どうして……」 「瑞樹、今ので?」 「……ごめんなさい」    カッと顔が火照る。   「何を謝る? 最高に嬉しいよ」 「でも一緒に……いきたかったんです」 「なあに、何度でもタイミングを合わせればいいんだ」 「え……あ、まだ動かないで」  宗吾さんが嬉しそうに僕を揺さぶる。  顔中に口づけし、喉仏も耳朶も鎖骨にもキスの嵐。 「待って……待ってください」  反射的に押し返す手をシーツに縫い取られ、再び奥を突かれた。  達したばかりで敏感な身体が、甘く蕩け出す。  崩れ落ちていく理性。  前を扱かれながら、後ろを責められ……  甘ったるい声ばかり出してしまう。 「……あ、あぁ……」 「瑞樹の中、気持ちいい。俺も恋しかった」 「もうっ……い……く」  さっき出したばかりなのに、僕はどうなってしまったのだろうか。 「今度は一緒に」 「くっ……」  ギュッと抱きしめられ、そのまま一つになった。  宗吾さんが絶頂の後、泣きそうな顔をした。 「瑞樹……俺……寂しかったよ」 「宗吾さん……僕もです。僕も寂しかった」  大人になったら……なかなか言えない言葉も、ここでは吐き出そう。 「我慢しなくていいんですよ」 「あぁ……悪かった。弱音を吐いちまった」 「嬉しいです。宗吾さんの気持ち……もっともっと聞かせて下さい。僕も受け止めたい」 「瑞樹、君は少し変わったな」 「ヘンですか、こんなの……」  宗吾さんが破顔する。  胸元に溜まった汗がキラキラしている。  生命力に溢れた凜々しい身体をぼんやりと見つめていると、とても幸せな気持ちになった。 「僕……宗吾さんを生かす人になりたいです」  その一言に宗吾さんが泣きそうな顔を埋めてきた。 「瑞樹……もうなっているよ。君がいるから生きて行ける。瑞樹……あの時……うっ……今、生きていてくれてありがとう。俺と出会ってくれてありがとう」  僕の鼓動を聴きながら、宗吾さんが放つ言葉に目が覚める。 「宗吾さん……僕は生きていて良かったです。こんな風に宗吾さんと繋がれて満たされて……僕はまた生きて行けます。ありがとうございます」    二人の思いを重ね合う行為は、身も心も満たしてくれる。    この先も、僕たちはこんな風に繋がっていく。  それがとても自然なことだから。  あとがき(不要な方は飛ばしてくださいね) ***** ここでようやく宗吾さんと瑞樹、1ヶ月ぶりの逢瀬です。 新しい命の誕生に喜ぶ瑞樹です。 瑞樹自身が宗吾さんとの間に新しい命を作り出すことはないのですが、こうやって宗吾さんとつながることで、宗吾さんを生かし、自分を生かすことに繋がっているのかなと……書いていてしみじみと思いました。 生きる力を授け合う行為は、神聖ですね。           

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