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実りの秋 22

 家族の真ん中で、幸せそうに笑っている瑞樹の写真。    これは最高に可愛い! 何度も見たくなる。  何故なら、俺がずっと見たいと願っていた光景だから!  宗吾さんと出逢って広がった縁の輪をしみじみと見つめていると、瑞樹から丁寧なメールが届いた。 「みっちゃんも一緒に見てくれ」 「いいの?」 「あぁ共有したいんだ」  瑞樹のために、何度も一緒に泣いてくれたみっちゃんだから。 ……  広樹兄さん、運動会の写真を見てくれた?  くまのお父さんが沢山撮ってくれたんだよ。  僕はね、兄さんのお陰でここに辿り着けたと思っているんだ。あの日僕を見つけてくれてありがとう。兄さんと一緒に食べた塩むすびの味は、生涯忘れられないよ。  あの時の僕が『生きてみよう』と思えたのは、兄さんのお陰だよ。今の僕は兄さんがいてくれなかったらいなかった。  どうか、これからも僕の兄さんでいてね。  そしてみっちゃんと優美ちゃんと幸せ一杯に過ごして欲しい!   ひとつだけお願いがあって……兄さんたちの写真も見たいな。 ……  最後は少し甘えた内容なのが、嬉しかった。  もう本当に大丈夫なんだな。  だがこの先もずっと可愛い弟でいてくれるんだな。  瑞樹は生涯俺の大切な弟だ。  潤と瑞樹と俺は三兄弟だ。  これからも力を合わせて仲良くやっていこう! 「ヒロくん、優美も起きたから一緒に写真を撮ろう!」 「そうだな。どこで撮る? 外に出るか」 「ううん、ここで撮ろう」 「おにぎりと?」 「うん、きっと瑞樹くん、今日はお兄ちゃんのおにぎりが恋しいと思うよ」 「おぉ! そうか」  俺たちは満面の笑みで写真を撮り、瑞樹に送った。 …… 瑞樹の兄になれて良かった。俺の弟になってくれてありがとう! ……  改めて言うのは恥ずかしいが、今日という晴れの日に伝えたい言葉だった。 **** 「瑞樹? どうした」 「広樹兄さんが写真を送ってくれたんです。一緒に見て下さい」 「いいのか」 「もちろんです」  瑞樹が見せてくれた写真には、広樹とみっちゃんとゆみちゃんがおにぎりを持って仲良く写っていた。 「広樹も幸せ一杯だな。このおにぎりなのか、瑞樹を支えてくれたのは」 「はい……忘れられないです。あの日駆けつけてくれた兄さんのことも、一緒に食べたおにぎりの味も。兄さんだってまだ中学生だったのに、幼い僕を全力で守って暖めてくれたんです」 「そうか、広樹のお陰だな、俺が今の君に出会えたのは」  瑞樹と一緒に、校庭一杯に広がる空を見上げた  この澄んだ空は、函館と繋がっている。  空はいつも人を見守っている。  人と人の心を繋げてくれる。  広樹、ありがとう!  お前が見守り育てた瑞樹を、俺に委ねてくれてありがとう。 「わぁ、ドーナッツだ!」 「芽生くん、どうぞ」 「わゎぁ~ おばあちゃんのドーナッツ、甘くてふわふわでハチミツの味がするよ」 「ありがとう。くまさんの特製蜂蜜入りのドーナッツよ」  函館のお母さんが『幸せの輪』を配っている。  おにぎりもドーナッツも、手作りならではの愛情で満ちている。 「宗吾さんもおひとつどうぞ」 「ありがとうございます」 「お弁当とっても美味しかったわ。二人で早起きして頑張ったのね」 「バタバタでしたが、なんとか」 「……ありがとう。いつも瑞樹を大切にしてくれて」 「瑞樹は大切な人だから……大切にする以外、思い浮かびませんよ」  物事って、案外シンプルに出来ている。  シンプルな足し算をしていけば、間違えないんだな。  無用な駆け引きばかりしていると、計算ミスも多くなる。 「あら、宗吾も素敵なことを言うようになったのね」 「母さん!」  いつの間に母さんも話に加わっていた。そして何故か俺の前に、飲みかけの紙コップを差し出した。 「じゃあ私からもひとつ質問よ。これを見て、あなたはどう思う?」 「……もうお茶が半分しかないですね」 「ふふ、でもまだ半分もあるとも言えるわね」 「あぁ確かに! もっと言えば……まだ水が入る余裕があるともいえるかな」 「まぁ、そこに気付くなんて、宗吾は本当に心が広くなったのね」  母さんに褒められて照れ臭い。 「最近思うんだ。失ってしまったものに固執するのではなく、まだあるものを大切にして、今いてくれる人を大切にしたいと」 「そうよね。辛い体験はいつまでも忘れられないかもしれないけれども、それを通して得たものだけを残し、なくしたものや過ぎ去ったものにエネルギーを使い過ぎないで生きたいわね」    人生経験を積んだ母の言葉が染み入る。  玲子との離婚を経て、今がある。瑞樹と出会い毎日を丁寧に大切に過ごすようになり、穏やかな日溜まりのような日常に幸せを感じている。    そうか、今を大切にすれば人生はどんどんシンプルになっていくのか。  シンプルだと、小さな幸せも見つけやすくなる。 「俺は幸せの足し算をしていきたいよ」 「いいわね。そうやって生きて欲しいわ。欠けているからこそ補え合えるのよ。満ちていく月も、欠けていく月も……やがて満月になれるのを忘れないで」 「母さんの言葉は、いつも深いな」  母さんが沢山の言葉で人生を伝えてくれる。瑞樹と出会う前だったら、またお小言が始まったと逃げていたのに、今は違う。 「やっぱり人は人に支えられているんだな。だから辛い時、寂しい時、悲しいとき、誰かが寄り添ってくれ、慰めたり、励ましてくれると、俄然元気が出るのか」 「ふふ、そうよね」  そこに兄貴がやってくる。 「おーい、宗吾。あと5分でお昼も終わりだ。そろそろ片付けた方が……」 「おっと、のんびりしていたらそんな時間か。流石兄貴、スケジュール管理が完璧だな」 「そうか……そうだ、弁当……美味しかった。これはお礼だ」 「サンキュ? ん? なんだポッキーじゃないか」 「……好物だろ?」 「まぁな! っていうかよく覚えていましたね」 「私だって……弟の好物くらい知っている」  眼鏡の端を指先で摘んで上下に動かすのは、兄貴が照れている時にする癖だ。 「俺も、兄貴の好物を知っていますよ」 「……梅おかか、美味しかった」  そっぽを向いてボソッと呟く様子が可愛かった。  しかしポッキーか。  確かに好物だぜ!  これはいい物を手に入れたぞ! 夜になったら瑞樹と遊びながら食べるか。罰ゲームは何にするかとニヤニヤしていると、母さんにペシッと叩かれた。 「痛いなぁ」 「宗吾、あなた、また悪いお顔よ! 今晩は瑞樹くんは疲れているはずよ。変なちょっかい出さないの」  げ! なんで脳内がバレてるんだ? 「だから、それは『ポッキーの日』に仲良く食べなさい」 「へぇ、母さんもやるなぁ~ 知っているなんて」 「あらやだ! 何を言って? あーあ、私もとうとう宗吾化してきたのかしら。やだ、やだ!」  それを横で聞いていた瑞樹が堪えきれなくなったようで、突然声を出して笑った。 「くすっ、あぁもう駄目です! 我慢できません。お母さんが宗吾さん化したらそれはもう大変ですよ。宗吾さんはかなりしつこくて大変ですから。僕は身を持っていつも経験して……くすっ、あはっ!」  ……素直で可愛い瑞樹が、また口を滑らせている。  君のそんな所も可愛いよ。  話が通じていてもいなくても、瑞樹が腹を抱えて明るく笑ってくれたのが嬉しくて、皆、笑顔になった。    瑞樹、君の笑顔は最高だぞ。  綺麗で可愛い笑顔に、誰もが惹かれていく。    笑顔は、幸せの連鎖を生む。    笑顔で小さな幸せで満たしていく毎日。  これが君と思い描く未来なんだよ。 『間もなく、午後の競技が始まります。児童は自分の席に戻って下さい』 「あ、ボク、いかなきゃ」 「芽生くん、午後も頑張っておいで」 「うん! お兄ちゃんも、かりものきょーそう、おうえんしているね」  芽生は瑞樹とハイタッチし、それからニコニコ笑顔で、大きく手を振ってくれた。 「おじいちゃーん、おばーちゃんとおばあちゃーん、おじちゃん、おばちゃん、あーちゃん、パパ、おにいちゃん 行ってきまーす‼」  赤い体操帽を被った芽生の溌剌とした無邪気な表情に、誰もが目を細めた。 「芽生、頑張ってこい!」 「うん!」  エールを送れる相手がいる!  それもまた、とてもありがたいことだ。  さぁいよいよ午後の部スタートだ。   あとがき(不要な方は飛ばして下さい) **** 本日11月11日『ポッキーの日』ですね。流石に運動会中だったので本編には盛り込めず、匂わせ程度になってしまいましたが、ちらっと♥   

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