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実りの秋 46

 瑞樹、さっきは可愛かったな。  大きな箱を抱えて中を探っていると思ったら、まさかあんなエロい妄想をしていたなんて、最高だ。  くくくっ、最近の君は明るいを通り越して、まさかのヘン……  いやいや、可愛い瑞樹にそのワードは似合わないよな!  そうか、もしかして期待していたのか。  買ってもいいのか! 試させてくれるのか! 使ってもいいのか!  あぁ、興奮が止まらないぜ!  留守番のご褒美に強請ってもいいのか。  ウキウキしながら手を洗っていると、瑞樹も洗面所に入って来た。 「どうした?」 「宗吾さん、今日は留守番をありがとうございます」 「うーん、本当はさ、ちょっと寂しかったよ」 「え? 申し訳なかったです」  瑞樹が真顔になるので、つい調子に乗って……   「いい子にしていたから、ご褒美をくれるか」  ワクワクがとまらないぜ。 「えぇ、いいですよ」 「えっ」 「僕もそのつもりでお強請りにきましたから」  ん? ずいぶんあっさり了解するんだな。   そんなにハードルが低いものだったのか。  ま、まさか、もう使ったことがあるとか。  ううう、俺とではないってことは……アイツか。  ショックで呆然としていると、瑞樹が俺の首に手を回してきた。 「宗吾さん……」  目を細めて、可憐に微笑んでいる。  甘い甘い笑顔だな。  ペンギンウインナーを食べている時と同じ位、可愛い!  それからスッと背伸びして……最高に可愛い笑顔でチュッと唇にキスをしてくれた。 「あ、あの、これでいいですか」 「……あぁ! いい! おかわりも欲しい!」  不意打ちのキスは最高だ!  俺は柄にもなく頬を染めて照れてしまった。 「はい、どうぞ」  瑞樹が目を閉じて、唇を半開きにしている。  瑞樹も甘えているのだ。  だから今度は俺の方から細い腰を抱きしめて思いっきり濃厚なキスをした。 「瑞樹、お帰り……」 「はい、ただいま、宗吾さん……ただいま」  まるで合い言葉だ。  『お帰り』と『ただいま』はセットだと実感する。  あったかい日本語で、同じ家に住んでいるから言えることなんだな! 「瑞樹、ひとりで行って、帰って来て、偉かったな」    本当は君を一人で新幹線に乗せるのは怖かった。だがどんどん明るく前向きになっている君を応援したくて手を離した。補助輪を外し走り出す自転車のように……勢いよく駆けていく君を見守ったんだ。 「宗吾さんのお守りが効いたみたいです。帰りの新幹線では居眠りしちゃいました」 「え? だ、大丈夫だったか」 「はい、この通りです」  キスで濡れた唇、口角がキュッと上がるのが猛烈に色っぽいと思ったが、今は我慢だ。我慢だ……我慢だ……ううう、少し辛い。 「宗吾さん?」 「あぁ、ちょっと待ってくれ」 「あの……そろそろ釜飯を食べましょう。芽生くんが待っています」 「そうだな」  瑞樹のお土産の釜飯と、豆腐の味噌汁、香の物、サラダ。  手抜きだが、楽しい夕食だった。 「お兄ちゃん、このうつわ、おもたいね」 「陶器で出来ているからね」 「おべんとうなのに、すごいね。すてるのもったいないなぁ」 「そういえば、動画配信で観たが、これでプリンを作れるようだぞ」 「えー たべたい! おおきなプリン!」 「よし! パパがつくってやろう」 「じゃあ僕も手伝います」 「いや、君はお風呂に入ってくるといい。運動会で疲れただろう」 「ボクもお兄ちゃんと入る-」 「いいぞ」  俺のお楽しみは取って置こう。  留守番のご褒美は芽生だって欲しいよな。  ゆっくり大好きな瑞樹との時間を楽しんで来い! **** 「芽生くん、じゃあシャワーを浴びようか」 「うん!」  宗吾さんの購入したシャワーヘッドの威力はすごかった。 「わぁぁ、すごい。きりみたいだね」 「うん、すごいね」  ミストの細かい飛沫が肌にあたると、すごく気持ち良かった。 「これは……ホテルに来たみたいだね」 「すべすべになるね」 「うん、肌に優しいからね。芽生くんもすべすべだね」 「うん」 「つるつるのすけべぇ……じゃなかった、すべすべぇ!」 「ははっ、芽生くんってば」  芽生くんの無邪気な声の向こうに、宗吾さんの脳内が見えるような?  僕たちはつやつやになってお風呂からあがり、宗吾さんがプリン作りと格闘している様子をワクワクと頬杖をついて眺めた。僕も子供みたいだな。 「ふたりとも、茹で卵みたいに艶々だな」 「はい、宗吾さん、いいものをありがとうございます」 「うん、後日俺とじっくり試していこうな」 「くすっ、はい、いいですよ」 **** 「ママぁ、ママぁ、ただいまー」 「おかえり! いっくん、楽しかった?」  いっくんが元気に帰宅したわ。  そして満面の笑みで、私の所にやってきた。  目を輝かせて、私を見上げて教えてくれる。  とっても嬉しいことを。 「あのね、あのね」 「どうしたの?」 「ずーっとパパがいたの。ずーっとだよ」 「ふふ、当たり前よ。潤くんは、いっくんのパパだもん」 「そっかぁ」 「そうよ」 「あー うれちいなぁ!」  当たり前のことが、当たり前ではないことを知っているから、言えること。  この優しい日々がどうか続きますように。    

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